第276話:犬猿の仲?

ハールさんたちへの報告兼褒美?の話を終えて、カイトたちのいる客間へ戻った。


「・・・・・・また行くんだね」


カイトにこれからのことを話すと、心配しているような困っているような、そんな表情をされてしまった。

・・・最近、カイトのこの表情をよく見る気がするな。


「・・・まぁ、そう言わずにさ。インディゴは?」

「寝ちゃったよ。僕とポーラのことを信頼してくれたみたいで、部屋に入って直ぐに」

「そっか」

「インディゴについては、その、・・・コトハお姉ちゃんが、お母さん、になるの?」

「・・・まぁ? 一応インディゴの家族を探してみようとは思ってるけど・・・」

「インディゴについての話を聞くかぎり、もう・・・」

「だと思う。・・・けど、まあ、確認はしておかないとね。もし無事なら、助けたいし」

「・・・・・・分かった。建国式典の前に行くの?」

「そのつもり。7日後、でしょ?」

「うん」

「多分、朝にはケイレブが帰ってくるから。その報告を聞いたら行ってくる。みんなのことお願いね。特に、インディゴを」

「任せて」


ケイレブは現在、知り合いだという『古代水竜族』に会いに行っている。何らかの情報を得られればそれでいいし、得られなかったら、まあ、それはそれ。

にしても、『古代火炎竜族』やその配下以外のドラゴンにも会ってみたいな。


建国式典は、当初の予定より数日延期された・・・、のだと思う。元々、正確な日数など把握していなかったからレーノに聞いた話、そのままだけど。

そもそも、この世界では予定はよく変わる。いや、不確定なことが多い、のかな。

前世のように分単位はおろか日単位で予定が定められることのが珍しいくらい。移動の中心は馬車による陸路での移動であって、天候や魔獣・魔物の動向、盗賊の出現によって数日間余分に要することなどざらだ。世界全体がそのような認識なのだから、たとえ外国からお客さんが来ていようとも、数日延期する程度何の問題にもならない。

いろいろ予定されていた細々した式典や行事を先に回して、貴族や来賓が集まる大きめなもの、つまり私が出るものは後回しにされたのだ。当然、絶賛行われている貴族調査の影響が大きいし、ダーバルド帝国の砦絡みもあるかもしれない。


そう、外国からのお客さん。

カイトが会ったという、額に角を生やした女性。ルネ、と呼ぶことになったらしいが。・・・カイトから聞いた容姿は、まさに『鬼』。

この世界に『鬼』と呼ばれる種族がいるのかは分からない。いや、前世にもいたわけではないが・・・。ただ、まるで『鬼』のような見た目をした女性がいたのは事実だ。そして、カイト曰くかなりの強さだった、と。カイトも、私の眷属となって進化したことで、一般に、かなりイカれた強さになっていると思うのだが、そのカイトをして「かなり強い」と感じさせる人物。

『鬼』が強くても驚かないが、話を聞いた限りでは、その女性が特別強そうだということだった。そして、いわゆる王族。王女様だと。


「・・・カイトも人のこと言えないよね。私がいなかった数日の間に、いろいろあったみたいだし」

「・・・うっ」


カイトは最近、私のことをトラブルメーカーのように扱ってくる。いや、それを否定はできないと思う。それは自覚している。けれど、今回に限ってはカイトもいろいろ問題?というか、特筆すべき出来事に遭遇していると思う。トラブルメーカーは私だけではないのだ。


パーティー自体は楽しかったようだし、カイトもポーラも、近い年代の子と仲良くなれたようで一安心。その反面、なんか面倒な貴族にポーラが泣かされたらしい。

一瞬ブチ切れかけたが、今更私が文句を言いにいくのもなんか違う・・・というか、大ごとになりすぎる気がする。その場でカイトがそれなりに怒ったとのことだし、正式な抗議、とやらをレーノに任せておけばいいだろう。


それよりも、私としてはパーティの前日に会ったという『鬼』の女性の方が気になる。

一目でカイトを強いと見抜くこともさることながら、彼女の話や国には興味がある。国の代表として建国式典に来ているのなら、会う機会もあるだろうか。是非とも話してみたい。



 ♢ ♢ ♢



翌朝、目が覚めると思ったよりも遅い時間だった。初めての本格的な軍事行動、しかもそれを率いていたことは、予想よりも負担だったのかもしれない。

そう考えると、再び西へ向かい町1つ攻めるのはかなりの労力になるだろう。ただ、やると決めた以上は早く済ませたい。それに、可能性は低いにしても、インディゴの家族や同族が生き残っている可能性があるのなら、助けに行くのは早い方がいいに決まっている。

ついでに、建国式典までに戻ろうとすると、今日の昼過ぎには出た方がいいだろう。


寝室から出ると、カイトたちは既に起きており、メイジュちゃんとインディゴを中心に談笑中だった。


「みんな、おはよ」


口々に挨拶を返してくれることを嬉しく思いながら、フェイの方を見る。


「先ほど、ケイレブ殿がお戻りに。隣室にて、待機しておられます」

「そっか、ありがと」



ホムラだけを連れて隣の部屋に行くと、そこにはケイレブと、


「レーベル?」


道中で遭遇した、異形の姿に変えられた『エルフ』の女性、ミリアさんや魔物の調査のために離れていた、レーベルがいた。


「コトハ様。お側を離れる形となりましたこと、心よりお詫び申し上げます。レーベル、ただいま戻りましてございます」


と、相変わらずの様子で深々と頭を下げた。


「おかえり、レーベル。調査は私も頼んだことだし、気にしなくていいよ。それより、無事に帰ってきてくれてよかった」

「勿体なきお言葉にございます」


・・・うん、相変わらず。もはや、安心感すらある。


「・・・調査の結果を聞きたいところだけど・・・」

「承知しております。ケイレブ殿の報告を先に聞かれるのがよろしいかと。私も報告したきことはございますが、一刻を争うような内容ではございませんので」

「そっか。そしたら、ケイレブ。お願いできる?」

「はっ。ただ、恐れながら、私の方もこれといった収穫はございません。古い知り合いの『古代水竜族』に会って参りました。その者によると、数百年前に我々と同様に人型種の町へと出た者がいたようです」

「・・・子どもも?」

「はい。その辺りの事情は、以前コトハ様にご説明したのと同じだと思われます。少し異なるのが、保護の仕方でしょうか。我々の祖は、生まれた『半竜人』を積極的に保護いたしました。その背景には、『古代火炎竜族』が種族として纏まって行動していたことがあると思います。過去から現在に至るまで、一部の者を除いて、『古代火炎竜族』や『火炎竜族』は、共に生活を営んでおります。一方の『古代水竜族』は、基本的に個で暮らしております。住んでいるのが大海原、というのが主な理由でしょう」

「・・・種族で纏まっていることが少ないから、『半竜人』の保護をしなかった?」

「というよりは、その存在を知ったのが後だったのかと。人型種との生活を選んだ者らは、一生涯の居場所として人型種の町や『半竜人』の側を選んだようですが、その者らもいずれは死にます。始祖であり保護者でもあるその者らを失った『半竜人』たちは、苦労したのではないかと」


・・・・・・ケイレブの話では、『古代火炎竜族』たちを始祖に持つ『半竜人』は、『古代火炎竜族』が積極的に保護することで、生きる場所を見つけてきた。

単純な比較ができるかはともかく、『古代水竜族』たちの援助無くして、彼らに連なる『半竜人』がどのような道を歩んだか、あまり前向きには考えられないのだろう。


「話が長くなりましたが、結論としては、『分からない』ということです。話を聞いた彼女はかなりの古株で、『古代水竜族』の現在の族長の叔母に当たる者ですが、そんな彼女でさえ、『半竜人』の集落や集団は把握していないとのことでした」

「そっか・・・・・・。ありがとうね、ケイレブ」

「いえ。お役に立てず、申し訳ございません」

「ううん。可能性は1つずつでも確認したかったし。・・・その『古代水竜族』の・・・彼女?は、どの辺に住んでるの?」

「・・・方角で言いますと、北、になるのでしょうか。今回訪れた山より、北に向かうと見えてくる海になります。・・・・・・会われるので?」

「ん? まあ、会ってみたいとは思うけど・・・。なんで?」

「いえ、失礼いたしました。いけ好かないババアですが、能力だけは無駄に高い奴ですので、コトハ様の良き使いっ走りになると思われます」


・・・・・・いや、口悪っ!?

ケイレブは『古代火炎竜族』で、その女性は『古代水竜族』。炎と水で相性は悪そうだけど・・・


見たことのないケイレブの様子に驚いてしまったが、『古代水竜族』を通して、インディゴの家族や同族の情報を得られないのであれば仕方がない。

当初の計画通り、ケーリンという町に行くだけだ。


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