第237話:驚きの連続

ノイマンの攻撃にダーバルド帝国が投入したのが、ミリアさんと同様に魔獣・魔物の身体を融合されたり、改造されたりと人体手術を施された奴隷であることは間違いないだろう。


私がそう伝えると、


「確かに、我が領に出現した魔獣・魔物の群れの長の特徴と酷似しておりますな。その時現場におり、相対したクルセイル大公殿下が仰るのであれば、疑いようがないかと」


私の説明に出席していたギブスさんが補足してくれた。私がサイル伯爵領でのトラブルで、助けに入ったことはそれほど知られている事情ではなかったようで、ギブスさんの話に驚いている人もいた。さすがにダンさんは知っていたようで、納得していた。



「それで、メルト伯爵。続きを頼む」


一段落したところで、ダンさんが続きを促す。


「はっ。異形の姿の兵については、クルセイル大公殿下の情報以上のものは持ち合わせておりません。ですが、城壁を破壊した魔法を使った者については、情報がございます」

「それは?」

「はい。これもまた、にわかには信じ難い情報なのですが・・・。なんでも、異なる世界から召喚された『異世界人』なる存在がいるとのことです。召喚の際に何らかの能力を授かることがあるらしく、その魔法使いも強力な魔法の能力を授かったと思われるとのことでして・・・」


自信が無いのか、尻すぼみになるメルト伯爵。だが、私にとっては、先ほどと同様かそれ以上の衝撃を与える情報だった。


今度は、なるべく冷静に質問する。


「メルト伯爵。何度もごめんね。確認なんだけど、その『召喚された』って情報はどこから?」


私の質問に、


「それは、自分も召喚された『異世界人』であると称する男からです。うちの諜報員が、ノイマン近くでその男と接触し、保護しました。なんでも、その男も高い身体能力を授かり、攻撃に参加させられていたとか。途中で脱走し、諜報員と出会ったようです」

「・・・その男の名前は分かる?」

「はい。ヒロヤ・フジシマ、と名乗っているそうです」


そこまで聞いて、驚きで固まってしまった。

ヒロヤ・フジシマ、つまり藤嶋浩也だ。さっき保護した、藤嶋佳織さんのお兄さん。こんな偶然があるのだろうか。もはや恐怖すら感じるが・・・・・・


だが、その後の説明を聞いて納得した。

藤嶋浩也さんが諜報員に語った内容によれば、一緒に召喚されたはずの妹と幼馴染みを探すために、隙を突いて脱走したそうだ。結葉さんたちも、処分されそうになっていたと話していたし、話が繋がった感じだ。

とはいえ、もの凄い偶然なのは間違いない。結葉さんたちが諦めずに森を抜けきったこと、そこで出会ったのが真面目な冒険者パーティのラヴァの娘であったこと、浩也さんが妹さんたちを探すために積極的に動いたこと、この全てが重なった故の出来事だ。やはり、「動く」ということは大事なのだ。


私が1人納得していると、


「コトハ殿。先程から、『召喚された』という、突拍子もない話を信じているようだが・・・」


ダンさんにそんなことを言われた。

確かに、そこを疑っていないというか、素直に受け入れているのは変だったか。正直、この場で説明する気は無かったのだが、こうなっては仕方がない。


「それはね・・・」


私は、今朝方の出来事を説明した。一応、私の過去というか転生については省略しつつ、結葉さんたちを保護したことを説明した。途中から同じく出席していたレンドン子爵も補ってくれたので、貴族たちを、どうにか納得させることができた。


溢れる情報に晒され、会議は少しパニック状態だった。

それぞれが情報を整理している中、ダンさんが口を開いた。


「まずはコトハ殿。召喚されたという女性たちの保護は、そのまま任せても大丈夫か?」


と聞いてくる。


「もちろん。全力で護るよ」


と答える。


「相分かった。では、コトハ殿に任せるとしよう。できれば、直接話を聞きたいが・・・」

「後で確認してみる。辛い体験をして、命からがら逃げてきたのだし、こんな大勢がいる場に連れてくる気は無いけど」

「そうだな。可能なら、個別に話が聞きたい」

「了解」


ダンさんの決定に異を唱える者はいない。私がかなりの決意で、宣言したことでこの場に連れてくるように主張するのを諦めたのかもしれないが、まあ、いい。


「次に、メルト伯爵。その話をしてくれた男性というのは、今も諜報部の者と一緒におるのだな?」

「はい。後2週間ほどで、王都に到着するかと」

「よし。通る導線を確認の上、騎士団でも諜報員でもいいから迎えを送れ。何があっても、彼を無事に王都へ連れてくるのだ」

「はっ。既に戦えるものを数名、向かわせております」

「いいだろう。その後は、コトハ殿に任せてもいいか?」

「うん。その男性の妹を保護してるわけだし、まとめて面倒を見るよ」

「頼む」


こうして、最初の報告はどうにかまとまった。



 ♢ ♢ ♢



少し落ち着き、メルト伯爵が次の報告を始める。


「続いての報告ですが、同じくダーバルド帝国に関する報告です。我が国とダーバルド帝国を隔てるクラリオル山。少し登ったところにあるなだらかな地形の場所に、ダーバルド帝国の砦が建設されております」


この報告は先ほどの報告以上に、貴族たちの緊張を招いた。

バール侯爵が静かに問う。


「場所はもう少し詳しく分かるか?」

「はっ。クラリオル山のカーラルド王国寄り。麓にある砦から、行軍速度で3日ほどの距離になります」


メルト伯爵によれば、考えられないような速度で砦が建設されているらしい。その場所は、麓にあるカーラルド王国の砦から軍隊の移動速度で3日ほど、馬を飛ばせば1日足らずで到着する距離なんだとか。

その場所自体は、砦を建設するに足りる条件らしく、旧ラシアール王国時代に砦の建設が計画されたこともあるらしい。だが、クラリオル山の東側にあり有用性が低いことや、その建設に要する費用や難易度を考慮し、見送られたらしい。


一方で、仮にダーバルド帝国が砦を築けばかなりの脅威になるのは間違いない。クラリオル山がカーラルド王国とダーバルド帝国のどちらに属するかは定かではないが、いずれにせよ東側にダーバルド帝国の砦が建設されれば、見過ごすことのできない脅威となる。そんなわけで、定期的にその場に出向き、敵の動きがないか監視していたらしい。

しかし、その監視の目を逃れて、砦が建設された。敵の動きを確認してからでも十分に対応できるよう、それなりの頻度で調査を行っていたようだが、その目を掻い潜り、あっという間に砦が建設されたわけだ。


ちなみに、クラリオル山とは、1つの大きな山ではなく、大小いくつもの山が折り重なった山脈のような地帯をさすらしい。クラリオル山、という呼び名が定着しているためあえて修正はしていないそうだが、クラリオル山を超えて反対側に行くのにはかなりの労力を要するわけだ。



閑話休題。

そんなクラリオル山の、しかもこちら側にダーバルド帝国の砦が建設された。

それに対する反応は当然、


「なぜ、そんな近くに基地を作られて気づかなかったのだ!?」


こうなる。

1人の貴族がそう叫ぶが、答える者はいない。

だが、気づかなかったのではなく、気づかれる前に砦を建設しただけだろう。それが常識外のことである故に、貴族たちの頭からは抜けているようだが・・・


そう思い、


「魔法でなら作れると思うよ」


と発言した。

私のその言葉に、視線が集中する。


代表してダンさんが、


「コトハ殿。説明を頼めるか?」

「うん。うちの領の砦って分かる?」


と聞いてみると、何人かの貴族が頷いた。


「あれくらいの砦なら、その周囲を覆う土壁程度、数日で、いや、その気になれば1日で作れるよ。ダーバルド帝国の砦の規模は知らないけど、さっき召喚された魔法の能力が凄い人がいるって話だったでしょ? そういう特出した魔法使いであれば、気づかれる前に形だけなら砦を作るのも可能だと思う」


と説明する。

私が非常識なのは理解しているが、それでも不可能ではないと思う。ダーバルド帝国が、召喚した魔法に長けた人に、急いで砦を作らせても不思議ではない。


「確かに、クルセイル大公殿下ほどの魔法の腕を持つものがいるとすれば、可能か・・・」


ギブスさんが再度私の話を補ってくれる。

次にダンさんが、


「かの国は、信じられないような非道な方法で、魔道具の開発に勤しんでいると聞く。開発した魔道具を用いたのかもしれぬな・・・」


と、呟いた。


「とりあえず、方法は置いておこう。とにかく、クラリオル山のこちら側に近い場所に敵の砦ができたわけだ。そこを起点に、我が国に攻めてくることが十二分に考えられるな」


と、バール侯爵が忌々しげに呟く。

その呟きを聞いて、重たい沈黙に包まれる会議室。


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