第220話:就任

「分かった。その話、受けようと思う。けど、いくつか確認していい?」

「無論だ」

「まずは、私の義務としては、領を守ることでいいんだよね?」

「ああ。できれば、なるべく西側に砦を設けてほしい。むろんダーバルド帝国対策だ。川の東側で構わない」

「了解。それは作る予定だったし・・・」


一応マーカスを見ると、頷いていた。領都との往復に少し時間はかかるが、数人であれば、森の中でもかなりの速さで移動できるマーラたちがいる。なので、数人ずつ交代させれば問題ないだろう。それに、レーノは更なる領民の獲得を目指していたので、騎士の数も増える気がする。現に、ガッドの冒険者ギルドには、うちに移住したいという者がそれなりに来ているらしい。


「まあ、作るつもりだよ」

「感謝する。基本的にはそれだけだ。もちろん、防衛が厳しい状況になれば、アーマスのところへ避難してもらえばいい」


戦死覚悟で、最後まで戦う必要はないわけだ。もちろんそんなことをする気もさせる気も無い。


「分かった。後は・・・、上司はハールさんってことになるの?」


立場は確認しておく必要がある。アーマスさんやハールさんはともかく、わけの分からない貴族の下につく気は無い。

まあ、そんなことはないだろうけど・・・


「それについてだが、一応、ダンをこの国の軍務卿とする予定だ。役職名は暫定だが、軍務のトップに就かせる。建国式典で私が国王になったことの宣言と同時に、ベイルが王太子となる。ガインはその補佐として、アーマスの次の宰相とする予定だ。ラムスには断られたからな・・・。そして、ダンを軍務のトップと据える予定だ。コトハ殿は南方方面の防衛担当、正式には軍務卿の補佐か顧問のような呼び名のポジションを考えていた。補佐であれば、形式的にはダンが上役となる。もちろん、我々とコトハ殿の間の約定を違える気は無い」


そう言うと深く頷く3人の王子たち。そういえば、この人たちって王子だった。

王太子は、次期国王だよね。で、次男のガインさんが宰相としてそれを支えるって感じか。三男で、3人の中では最も軍事に明るいダンさんが軍務卿として、防衛面を担う。

補佐ならその部下って感じで、顧問なら上下関係はなるべく無いようにって感じか・・・


「どっちのがいいの?」

「・・・どちらでも、と言いたいところだが、できれば補佐の方がありがたい。名称だけとはいえ、五月蠅い連中を黙らせやすくなるからな。だが顧問であっても、引き受けてくれるのであれば十分だ」


どうしようか。例え呼び名であっても、明確に上位者がいるようになるのは嬉しくない。

ダンさんや、ダンさんを通してハールさんたちが無茶なことを言い出すとは思えない。けれど、ダンさんの下につくということは、極論、騎士ゴーレムを差し出せという命令もできるわけである。そんなことはしないと思うが、されたらかなり面倒だ。


それに私には気を付けなければならない事情がある。私の寿命はおそらく馬鹿ほど長い。つまり、ハールさんはもちろん、ベイルさんやその長男のグリン君、そしてグリン君の子と続いて行くであろう王家の人間と関わり続けるのである。そうすると、数代先の王家とも今のような関係が維持できるとは限らない。カイトやポーラが、グリン君たちと仲良くなることは、その面でも望ましいと思っていたのは秘密だ。


そう考えるとやはり、


「うーん、一応最初は、顧問ってことにしておいて。時間が経ってから考えるよ。ごめんね」

「いやいや、気にしないでくれ。そう言うとは思っていたのでな。それでは、コトハ殿には、名称は仮だが、『南方方面担当軍務顧問』の役職に就いてもらう。ああ、叙爵式の際に、これも合わせて任ずることになるが、いいか?」

「うん、大丈夫」

「了解だ。それから、ダーバルド帝国に関する情報は、全て共有することにする」

「うん、お願い。あー・・・、式典終わったら、帰るつもりだったけど・・・」


そう言うとダンさんが、


「大丈夫かと。急ぎでなければ、森の入り口にあるという砦に伝令を送るので。急ぎの場合は、諜報部が連絡に使っている、『フェイヤー』という魔獣を従魔にしている連絡官が、情報を送ります。一応、素早さと隠密行動に優れた魔獣なので、クライスの大森林でも活動できるとは思うのだが・・・」

「うーん。どんな魔獣か知らないけど、上空はツイバルドっていう、2つ首の崩れドラゴンみたいなのが結構な数、飛んでるからねー・・・。砦から領都まではすぐだし、そっちに飛んでもらった方がいいかも」

「分かった。その魔獣には大変興味はあるんだが・・・、ともかく、連絡官の方に準備をさせておこう」

「了解」


いろいろと決まったが、今日ってこんな話をする予定だったっけ?

いや、ハールさんは最初からここまで考えていたんだろうなぁー・・・


そして最後に、


「最後にコトハ殿。このゴーレムのことは、隠していないんだよな?」


とハールさんに聞かれた。


「うん。詳しい性能とか作り方はともかく、存在や見た目は隠してないよ。砦で普通に使ってるし」

「そうか・・・。ならば、明日の謁見の際に、同行させてくれぬか?」

「同行?」

「ああ。本来は謁見に護衛は連れては入れない。だが、コトハ殿ならいいだろう。昨日の話に関連しても意味がある。それが認められる存在だとな。そして、その護衛にゴーレムを混ぜてほしい。コトハ殿の、クルセイル大公領の戦力を示すには絶好の機会であろう」


なるほど。

私とカイト、ポーラの3人で行くもんだと思っていたけど、マーカスたちも一緒に行けるのなら少し気が楽だ。

それに、騎士ゴーレムを格好よく歩かせるのは、やってみたいかもしれない・・・


「分かった。数体連れてくよ」

「ああ。頼む」


こうして、思わぬ長話と役職を手に入れることになった夜が終わった。



 ♢ ♢ ♢



昨夜はあの後、カイトに南方方面担当軍部顧問とやらに就くことが決まったと伝えると、なぜか思いのほか喜ばれた。どうもカイトには、私が貴族っぽいことをしたり、なにか役職を得たりすると喜ぶ節がある。別にカイトが喜んでいるのだからいいんだけど、よく分からない。


それに昨日最後に、


「そういえばコトハ殿。カイト殿やポーラ殿は、将来どのような職に就きたいとか、希望を話しているのだろうか」


と、ハールさんに聞かれた。

どういうことか聞いてみると、


「カイト殿はグリンやフォブスに年齢が近いであろう? 2人が王宮で働き出す頃に、一緒に働いてくれたらな、と。爵位的にも大公弟というのは、伯爵本人かそれ以上の権威があっても不思議ではないしな」

「うーん、どうだろう。本人が望んだらね。カイトたちには、自分がしたいことをしてほしいし」

「ああ。無論だ。私の勝手な願いに過ぎん」

「うん。まあ、無理強いしたら怒るけど、カイトが成長したら本人に聞いてみて。別に誘うのは勝手だし」

「ふむ。そうしよう」


と、こんな会話があったのだ。アーマスさんとラムスさんにも前に似たようなことを言われたし、そのうち聞いてみるとしよう。それに正直なところ、私はどっかのタイミングで大公の爵位をカイトに譲るつもりでいる。私たちがそう簡単に死なないのは間違いないが、だからといって何十年も縛り付けられるのも嫌なのだ。

せっかく? 転生したのだし、この世界を見てまわりたい。森を南に抜けた先にあるという、ディルディリス王国や西側にあるという国々、東にあるという大陸やホムラの故郷にも興味がある。直ぐには無理だろうが、いつかはそんなところを巡ってみたいと思うのだ。


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