第219話:役職

最初のひょうひょうとした印象からは一転、もの凄い真剣な眼差しで騎士ゴーレムを見つめるダンさん。

それにしても、盾を持った方が強いとは・・・


「剣持ってるやつより、盾の方?」


聞いてみた。

それにハールさんたちも頷く。


「ダンよ。私の目にはこの大きな剣を持ったゴーレムの方が強そうに見えるのだがなぁ」

「ええ。私もです」


ベイルさんも続く。ガインさんも頷いているので同じ意見のようだ。


「親父も兄貴たちも、相変わらず分かってないなぁー・・・」


そんな風にため息をつくダンさん。

というか、どんどん口調がラフになってるね。いや、私もそうだからいいんだけどさ。


「確かに、この剣を持ってるゴーレムも強い。制圧するには、近衛数名でかかる必要があるだろうな。しかし、それで対処はできる。破壊できるかはともかく、無力化するのはそれほど難しくないだろう。だがな、こっちの盾を持った・・・、というか左腕が盾になってるやつは違う。腕も胴体も脚も、かなりの分厚さだ。騎士でいうところの全身鎧みたいな感じだな。そのどれもがかなりの業物に見えるし、盾も相当なものだ。実際の動きは分からんが、これがそれなりの素早さで動き回れるのなら、どんな攻撃も通じない。そして、盾で殴られればこっちは終わりだ」

「・・・・・・なるほど」

「さすがだね。一応付け足すと、盾持ってる方も、普通の騎士と同じくらいの素早さで攻撃できるよ」

「やはりな・・・」

「強さのことは、私よりもマーカスの方が詳しいと思うけど・・・。剣を持ってる方は、オークの首くらいなら一撃で切り落とせるかな。盾の方は・・・、少なくともカイトの本気の攻撃を数回は受け止められる、かな」


そういうと一気に顔を青ざめさせる3人と後ろの近衛騎士たち。カイトの本気の攻撃、の意味が伝わっているかはともかく、カイトも私と同様に『人間』ではなく、ある程度ふざけた威力の攻撃ができることは知っているはずだ。

ダンさんだけは、マーカスに具体的な話を聞いている。


それを横目に思い出す。

王都に来るまでの道中、騎士ゴーレムが戦闘する場面は多々あった。サイル伯爵領での2つの大きな戦闘はもちろん、魔獣・魔物と会敵しなかった日は無かったくらいだ。出会う魔獣・魔物の強さは、普段相手にしているクライスの大森林のそれとは比べものにはならないが、群れで行動してくる相手や搦め手を使ってくる相手との戦闘はあまりなく、いいデータが取れたものだ。


その結果、騎士ゴーレムを大きく2つの種類に分けた。

1つは大盾を身体に融合ないし装備させ、全体的に鎧のようなものを装着したり、余っていた鎧を装備させたりしたもの。もう1つは、これまで通り両手が自由に使えるもの。

前者は、とにかく守りに特化させた。動きは遅くなるが、身体を大きく、基礎となる身体の上から、鎧のようなものを装着・・・、というかくっつけている。余っていた鎧を装備させたもの以外は、鎧っぽいものを『土魔法』で作っただけだが、それなりにじっくり魔力を込めて作ったので、強度には自信がある。帰ったら全部に魔鋼製の鎧を取り付ける予定だ。

試しにカイトに攻撃してもらったが、カイトの本気の攻撃を数撃は耐えられたのでかなりのものだろう。


後者は、バランス型だ。最初は完全な攻撃型も考えたのだが、使い勝手が悪かった。攻撃“しか”できないと、出番が少ない。実際の運用においては攻撃以外の場面で騎士ゴーレムを使いたいことが多いのだ。

守りの方が危険は多いので、いくらでも替えが利く騎士ゴーレムをメインに、攻撃は騎士に任せてもいい。基本的な戦闘スタイルである、騎士ゴーレムで押さえつけ、騎士が倒すというのは、理に適った戦法なのだ。もちろん、群れを相手にするときなどは、別の戦法が必要となるが。

そんなわけで、武器を持って攻撃もできるし、素手で相手を押さえ込むこともできる。また荷物を運ばせたり、作業を手伝わせたりといったことも、複雑なことでなければできるタイプのゴーレムとした。従来型との変更点は、少し大きくしたところと、素早い動きに対応できるように関節部分を強化したところだ。



ダンさんとマーカスの話も一段落し、皆さんが驚きから帰ってきたところで、


「・・・・・・ちなみにだが、コトハ殿。このゴーレムは現在、どれほどの数いるのだ?」


と聞かれた。

そう言われても困る。なぜなら、分からないからだ。道中でもいろいろ作ってはいたし、領都の屋敷の地下には、起動していない個体も結構ある。


「うーん・・・。覚えてないけど、結構作ったと思うよ? 連れてきているのは・・・30体くらいだけど」

「なるほどな・・・。ダンよ。一応聞くが、編成中の王宮騎士団とこのゴーレムが戦って、勝てるか?」

「・・・数による、かな。ゴーレム30体を、騎士団総出で相手すれば、かなりの犠牲を出しながらも、どうにか倒しきれるとは思うが・・・」

「やはりそのレベルか・・・。加えて、あの魔法武具もある。つまり、コトハ殿、いやクルセイル大公領の騎士団は、我が国最強の騎士団であると言っても過言ではないわけだ」

「ああ。それは間違いないな。うちの騎士団は、特に下の層はまだ入隊してから日が浅い。数はともかく、質ではとても及ばない」

「そうか・・・。よし、分かった。コトハ殿、頼みがある」

「頼み・・・・・・?」


騎士ゴーレムを売れ、とか? けどその話は、昨日きちんと断った。昨日の今日で、それを覆すような人には思えないけど・・・


「ああ。コトハ殿に、我が国の南方方面の防衛担当を任せたい」

「防衛担当?」

「ああ。簡単に言えば、国の南側の守護を担う大臣の付きの役職だな。南方の防衛に関するあらゆる権限を与えるものだ。まあ、実質は大臣と変わらん」

「大臣って、そんなの・・・」

「分かっている。コトハ殿に、何か役目を押しつけたいわけではない。いや、押しつけてしまうのだが、コトハ殿に特別なことを頼みたいわけではない」

「・・・どういうこと?」

「そもそもクルセイル大公領は、カーラルド王国の南側に位置する。それも、国の南方ほとんどをカバーしているであろう?」

「うーん、どうだろう。広げるつもりだけど、まだそんなに広くはないような・・・?」

「少なくとも、最南端の領であることは間違いない。そして、国の南には、脅威が多い。ダーバルド帝国が直接我が国を攻めるとすれば、森を抜けるルートが考えられる。そうすれば、最初に会敵するのは、クルセイル大公領である可能性が高い。また、可能性は低いが、ディルディリス王国が北上することも考えられる」


マーカスを見れば頷いていた。

確かに、前に領都の西側に砦を設けようとしたときには、ダーバルド帝国が最初に出会うのはうちである可能性が高いと判断していた。確かに、クラリオル山から森へと流れる大きな川を越え、直ぐに北上すれば、クラリオル山の麓の王家の直轄領に入る。しかし、うちが西側に設けようとしている砦はこの川の近くだ。そうすると、ある程度進めばうちにぶつかる。

ダーバルド帝国の目的は分からないが、東の海を目指すのであれば、北上せずに東に進み続ける可能性がある。まあ結局、それなりの確率でうちの領に来るわけだ。


「・・・確かに、うちに来る可能性はあるんだろうけど。それが?」

「役職はともかく、ダーバルド帝国が領内に入れば迎撃するであろう?」

「そりゃ、まあ。個人的にダーバルド帝国は嫌いだし、少ないけど領民は守らないとだし」

「ああ。だが、このように国の南側に懸念が多いことで、南方の守護を担当する役職や軍を置くべきだと主張する者がそれなりにいる。今はちょうど、貴族に役職を割り振る準備をしているのだが、そこに就こうというわけだな。そうすると国としては、最南端に位置するクルセイル大公領にある程度は協力を願うしかない。それは、望まないであろう」

「うん。そもそも軍隊が駐留する場所とか無いし、そんな貴族が近くにくるのは願い下げだね」

「そこで、コトハ殿が南の守護を担当することとすれば、現状と変わらないというわけだ。そのためには、クルセイル大公領にきちんと戦力がある必要があったが、それも確認できた。これで、五月蠅いのを黙らせることができる」

「・・・なるほど」


結構いい話かもしれない。正式に担当となれば、責任は生じる。しかし、最初から領民には責任を負っているのだし、ダーバルド帝国が攻めてくれば、徹底的にやり合うのは間違いない。マーカス以下うちの騎士たちも、ダーバルド帝国が攻めてくる可能性は常に考えている。


そうすると、役職に就くという面倒は増えるが、貴族がやってきたり、軍がやって来たりといった面倒と比べたら、いいように思える。


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