第175話:ゴーレムと鎧
それから魔法武具についての質問に答えていった。
その中で、うちで作れる魔法武具の質の上限が今回売った武具よりも高いことや、うちの騎士団が装備している魔法武具はそういった高品質のものであることは伝わったのだと思う。けれど、私に売る気が無いと悟ったのか、深く追求されることはなかった。それから、フォブスとノリスには、その高品質の専用武具をプレゼントする予定だと伝えると、喜ばれ感謝された。
そして次はゴーレムだ。
「コトハ殿。ゴーレムをお売りいただくことはできませんか?」
「うーん、いろんな理由で難しいかな」
「・・・その理由を伺っても?」
「うん。まず第一に、うちの領の最重要機密だからね。ふざけたこと考えてた貴族の使者を威嚇するためにも砦に置いたし、あえて見せつけてはいるけど、売る予定では無かったの」
「・・・はい」
「それに、領外っていうか、クライスの大森林の外だと活動時間に制限があるんだよねー。動力は魔力だけど、魔力を充填する必要があるの」
「・・・・・・それは、魔法師団員では難しいのですか?」
「たぶん。いや、可能ではあると思うけど、例えば騎士団に組み込んで、と考えると・・・ね。戦力として運用するのは難しいと思う」
「・・・なるほど。ちなみにですが、コトハ様、というかクルセイル大公領であればそれが可能であると?」
「とりあえず森の中なら。それに、私がいればある程度は可能かな。とは言っても、私でも外で軍隊規模の運用をするのは結構しんどいかな。対策はあるけど、すっごいお金かかるよ」
「詳しく伺っても?」
「ゴーレムの動力の魔力は、魔石に溜めてあるの。魔力の溜まった予備の魔石を用意して置いて交換すれば、それほど時間を掛けずに、再起動できる」
「魔石、ですか・・・」
「うん。さっき模擬戦をした騎士ゴーレムに使われている魔石は、ファングラヴィットの魔石。それだけで、お金かかるってわかるでしょ?」
「ええ。稼動時間がどれほどかによりますが、10体で運用するとして、換えの魔石をそれぞれ2つと考えれば、全部で20個。それが予備の魔石として必要になり、全てファングラヴィットの魔石。その費用がゴーレム本体の費用に加えて必要になると・・・」
「うん。ゆくゆくは、魔力の使用効率とかを上げて、外でも運用しやすくなるかもしれないけど、現時点では難しいかな」
「その際は、是非売っていただきたいですね」
「うーん、そのときの関係性次第かな。とりあえず今は、どのゴーレムも誰にも売る気は無いし、仮に盗まれてもそんなに驚異じゃないから。まあ、自衛できるゴーレムを盗めるとは思えないけどね・・・」
「そうですね・・・。クルセイル大公領の戦力が十分で、ダーバルド帝国や森の魔獣に問題なく対処できることを知れただけで良しとしておきます」
「うん」
ラムスさんは少し残念そうだが、仕方ないだろう。
森の中では魔力を自動で充填するので、魔石の交換は必要ない。砦も森の直ぐ側であるため、交換は必要ないそうだ。しかし、森の外。例えば王都へ向かう道中を考えると、魔石の交換が必要になる。今度の移動の際は、魔力を溜めた魔石をリンに持ってもらうので、その心配は少ない。いざとなれば私が充填できるし、ポーラもできる。しかし、うちの領以外での運用は厳しいだろう。まあ、それが無くても売る気は無かったけどね。
♢ ♢ ♢
合同での巡回、魔獣狩りから帰還したバイズ公爵領の騎士団に、早速魔法武具が支給された。うちの騎士団が試し切りの的となる木材などを用意し、それぞれの特殊効果や注意点を説明していく。
バイズ公爵領の騎士団は、ラムスさんが魔法武具を大量に購入し、それを支給されると聞いてかなり驚いていた。魔法武具といえば、目にするのも稀で、騎士団長クラスやかなり上位の冒険者がようやく手に入れることができるかどうかというものだ。そんな魔法武具が、全員分は無いとはいえ、一介の騎士に支給されるとなれば驚くのも不思議では無い。
数が少ない鎧装備は、騎士団長などに支給するのかと思えば、これも騎士に支給され、交代で装着し、使い心地を確かめていた。
気になってオランドさんに聞いてみると、
「伺った鎧の性能からすれば、最前線に出る役目を担う者に身に付けさせるのが良いと思いましたので。指揮官クラスも前に出ることはありますが、危険度は違いますから」
と返ってきた。
今回売った魔法武具である鎧は魔鋼製。その強度はバイズ公爵領の騎士団所属の騎士が通常装備しているものに比べれば格上になる。
加えて、この鎧は一応魔法武具になっている。
この鎧の特殊効果は、衝撃の吸収だ。
魔鋼製の鎧は、うちの騎士団の標準装備になっている。うちの騎士団が使っている中で、魔獣の攻撃を受けることは多々あったが、魔獣の牙や爪が鎧を貫いたことはなかった。しかし、攻撃自体の衝撃は大きかったし、突進などを受けたときにはかなりのダメージを受けることになった。
そうした事例から、悩んでいた鎧の特殊効果に、衝撃の吸収を選んだ。
構造としては、鎧に魔力を流すことで周囲の魔素を集め、鎧と身体の間に薄い魔素の膜を何層も作る。そうして、鎧の上から攻撃を受けたときには、直接的な攻撃は鎧が防ぎ、攻撃自体の衝撃は、魔素の膜が吸収することで、身体が受けるダメージを軽減する。
ただ、この鎧はまだまだ試作段階の領域を出ない。そもそも、一度衝撃を受けると魔素の膜が破壊されるため、連続で攻撃を受けた場合や複数と同時に相対する場合には、初撃の衝撃しか防ぐことができない。
それに魔素の膜を張るために多くの魔素を集める必要があり、他の魔法武具に比べて必要な魔力の量が多い。しかも、使用する場所の魔素濃度によっては特殊効果が発動されない可能性もある。
そんな、まだまだな鎧ではあるが、きちんと効果が発動した場合には、一撃で戦闘不能、酷い場合には死に至ることも考えられるような攻撃を受けても、十分に耐えることができる。これは計算上の話ではなく、少し前にファングラヴィットの突進を正面から受けた騎士による体験談だ。
そんなわけで、鎧に付与されている特殊効果についてのアピールをしつつも、きちんと不安点や弱点を説明してもなお、ラムスさんが「あるだけ買う」というので、売ることになったのだ。
まあ、この砦周辺で特殊効果がきちんと発動されることは確認しているので、クライスの大森林から出てしまった魔獣や周辺に住む強い魔獣を相手にすることを想定するのなら、十分に実戦に耐えられるだろう。
それにそもそも、「魔鋼製の鎧」というだけで、破格の性能を誇る。武器では、鉄や鋼で作られた剣や槍では全く歯が立たず、同じ魔鋼製の武器を用いてようやく傷を付けることができる。ファングラヴィットやフォレストタイガーの牙や爪による斬撃を防ぐこともできる。
そのため、魔法武具でなくても、魔鋼製の鎧は大量に売ってほしいとお願いされた。
ドランドやレーノから聞いていたとおり、“魔鋼”という金属自体が稀少、というか十分に研究されてこなかったみたい。そのため魔鋼の作り方を研究し、実用化している時点で、騎士団の装備を一新するレベルの大改革になるらしい。とはいえ、その製法から容易に想像がつくように、値段もそれなりにする。そのため、どの程度導入するかは、これからじっくり検討したいとのことだった。
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