第174話:交渉
ラムスさんが、元々私に話そうとしていた内容は終わったようだった。
そして、もはやこちらが本命とでもいう感じで、
「コトハ殿。先ほどのゴーレム。そして騎士が身に付けていた武具についてお話を伺いたく思います」
圧が・・・。
私は聞かれるままに、騎士ゴーレムを作ったことや、他に作ったゴーレムのこと、領都や騎士団でどのように運用しているかを話した。また、武具については腕のいいドワーフ職人を助け、2人で知恵を絞りながら魔獣の素材を用いて作っていることを説明した。
このとき気を付けたのは、完成品については詳細に説明する一方で、作り方については一切触れないことだ。
魔法武具にゴーレム。どちらも武器や兵器に分類されるものだ。もちろん騎士の任務には武具が必要不可欠だし、騎士ゴーレムもうちの領では騎士団の一員として領民の生活を支えている。それに他のゴーレムも大いに活躍している。
しかし、魔法武具や騎士ゴーレムを他者に利用されたら。私と同じく、自分の領民を守り生活を豊かにするためであればともかく、第三者を害する目的で使われたり、戦争に使われたり。簡単に想像できる。
この世界では戦争は身近だし、人の命も軽い。そういった世界なので、戦争や人を殺すことが必ずしも“悪”と断定することはできないが、そういった場面で用いられる可能性は高いだろう。そして、その矛先が私やカイトたち、そして領民や国民に向くことだって容易に想像がつく。
私やカイトたちにとっては、騎士ゴーレムが何体いようと敵では無いし、全身に魔法武具を装備した騎士であっても問題にならない。しかし、バイズ公爵領の騎士団で上位の攻撃力を誇る騎士のカーシャスの攻撃を、私にとっては不満が残りながらも騎士ゴーレムは防ぎきっている。それに領でも依然として、騎士ゴーレム相手の訓練が有用であるほどには、騎士ゴーレムは強い。
それに騎士たちは、訓練を重ね、騎士ゴーレムと共闘しているとはいえ、それまで恐怖の対象であったはずのクライスの大森林に生息する魔獣を、日常的に狩れるようになっている。それには、私とドランドが作った魔法武具が、少なからず寄与しているだろう。
そんなわけで、レーノや文官組との検討の結果、基本的に売り出すのは魔法武具のみ。それも現在作れる最高品質よりもいくらか劣った品質のものに限定することにしている。砦で展示していたのもそれだ。
具体的には剣や槍では、刃毀れし難いように魔素の膜を刃に纏えるものや、切れ味が増すものだ。魔刃と名付けた魔素の刃を放つ攻撃を使える剣は含まれない。まあ一般に魔法武具の代表の1つである切れ味増強効果のある剣は、砦で行っていた展示会では大盛況だったけどね。それに同じ効果でも、いろいろ効果の程度を調整できるようになっている。そのため、売りに出す剣の切れ味は、魔力を込めて増強した後でも、うちの騎士団が装備している魔鋼製の防具や盾、騎士ゴーレムを破壊できない程度にしてある。
盾では一般的な強度増加に加えて、盾の前を魔素の障壁で覆う魔法効果を発動するものを販売する予定だ。これは普通の攻撃はもちろん、魔法での攻撃を防ぐときにその真価を発揮する。というのも、この盾は前方に魔素でできた障壁を張るため、『火球(ファイヤーボール)』などの攻撃が盾には直接当たらない。そのため、盾が熱くなることもないし、火の粉が舞って髪や衣服に火がつく可能性も低い。森ではそういった攻撃をしてくる相手と遭遇したことはないが、森の外では『火球』を放ってくる魔獣や魔物がいるらしいので、かなり使えると思う。
そんな風に、これまで作った武具の中で、最悪敵対しても私たちにはそれほど脅威ではないもので、有用だと思えるものをいくつか紹介した。
その結果は、
「コトハ殿! できる限り売っていただきたいです!」
と、ラムスさんが値段を聞く前に言ってくるほどであった。
本当はバイズ公爵領の騎士団に見本をいくつか持って帰ってもらい、後日売り込み交渉をするつもりだった。そのためまだ数はそれほど用意できていないが・・・
「剣が全部で50本。槍が20本。盾が20個に、鎧が10セット。これが、直ぐに売れる量ですけど・・・」
「全て買いたいと思います。よろしいですか?」
と、相変わらず値段を言う前に決めてしまった。
まあ、私としてもラムスさん、というかバイズ公爵領を最初の買い手として考えていたし、敵対する可能性という意味でも武具が流出する危険が少ないという意味でもいいお客さんだとは思う。
なので、
「はい。それで・・・値段ですけど」
値段は使った素材の外での価値。ドランドが基礎となる武具を作る技術料。そして私が魔法武具へと至らせることに関する料金に、いくらかの上乗せをした額になる。
今は、私とドランドの2人しか作ることはできないため、少し割高にする予定だ。まあ、ドランドの息子のベイズが日夜ドランドの指導の下で剣を打ち続けているし、フラメアとキアラが魔力操作の練習の一環として、魔法武具へ至らせる工程の練習を行っている。そのため、少しすれば料金も下げられるだろう。とはいえ、人依存の製品を領の主力産業にするのは怖いので、技術の流出防止を考えながらも技術者を増やす必要がある。それに魔法武具の希少性を下げ、わざわざ価値を落とす必要もないので、そこは文官組と調整しながらやっていく予定だ。
そんなわけで、
「今回の製品だと全部で、金貨650枚ってところかな。まあ、最初だしこれまでお世話になったのと、初めてのお客さんってことで、いろいろ使用感とか希望とか聞いてみたいのもあるから・・・・・・、600枚で。どう?」
「・・・・・・金貨600枚ですか」
金貨600枚。金貨1枚が10万円くらいだから、6000万円くらいになるのか・・・。
かなりの金額だし、少しふっかけすぎた?
「そんなに安いのですか? 本当によろしいのですか? 魔法武具の一般的な相場に照らせば、かなり割安になりますけど・・・」
「え!? い、いや、大丈夫だけど・・・」
そっち? てっきり「もう少し安く」って話かと思ったのに。
いや、昨日の時点でざっくり値段を検討していた際に、レーノからもっとつり上げても売れるとは言われてたけどさ。
こちらとしてはそれなりに利益分を上乗せしたつもりだったのだが、材料についても完成品についても輸送費が必要ないし、うちの領内での需要はないことを考えると、そとでは割安になるのか・・・
「そうですか。ありがとうございます。その金額で買い取らせていただきたいと思います。後日、金貨を持ってこさせますので、その際に取引させていただければと・・・」
「ん? 金貨は後日でいいけど、魔法武具は今日持って帰っていいよ? 何なら、この後の訓練で使ってくれてもいいし・・・」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。武具によっては、少し癖があって、慣れるのに時間がかかると思うから。同じ苦労をしたうちの騎士たちがいるところで、使い始めた方がいいと思うよ」
「ありがとうございます。・・・それと、余計なお世話かと思いますが、高位貴族相手以外には、そのような取引をしないことをオススメします。魔法武具の価値を考えれば、持ち逃げされる可能性も・・・」
「うん、大丈夫。バイズ公爵家の人のことはよく知ってるから。私のことを知ってて、そんなバカな真似しないこと分かってるからね。普通に売る場合には、もっと慎重にやるよ」
「そうですか。失礼しました」
「ううん。ありがとうね」
「それと、この魔法武具についてですが、父はともかく、王城へ知らせてもよろしいでしょうか?」
「うん。ここに来た貴族の使者には見せてるし、うちで作った魔法武具だってことも紹介してるから。ただ、売るかは別ね。うちの忙しさにもよるし。信用できない相手に売る気はないから」
「はい。その様に伝えておきます」
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