幕間⑨:帰還としがらみ

〜カイト視点〜


ソメインさんとドランドさんの意見交換が終わった頃、盗賊の死体や金品類の積み込みが終わった。カルロスさんと一緒に騎士数名がアジトだった洞窟の中を確認し、残った遺体の処理をしてから、先ほど騎士団と合流した場所まで戻ることになった。


また盗賊がアジトを作るかもしれないので、洞窟を塞ぐことをオランドさんに提案してみたが、この辺は多くの岩山があり洞窟もいくつかあるので、1つ潰しても意味が無いと言われた。むしろ、今回の盗賊討伐で、この周辺の地形について再認識することができたので、見回りを強化するなどして重点的に警戒するとのことだった。



 ♢ ♢ ♢



人数がかなり増えたので移動に時間がかかったが、日が暮れる頃にはガッドへ帰ってくることができた。

捕らえた盗賊は騎士団が引き取り、騎士団本部にある牢獄へ連れて行かれた。捕らわれていた4人家族は予定通りお兄さんの家に向かった。


冒険者は解散となり、僕とフォブスを除く冒険者はそれぞれギルドや酒場へと散った。残ったのは、僕とフォブス、フェイにキアラさん、オランドさんとソメインさんだ。


「それじゃあ、行くか。ソメイン殿も話があるんだろ?」

「はい。オランド殿と領主代行のラムス様に、お伝えすべきことがございます」

「了解だ。カイトとフォブス、それと・・・キアラ殿でよかったか?」


キアラさんは、オランドさんの問いかけに首を何度も縦に振ることで答えた。

オランドさんは少し困ったようにしていたが、フォブスが、


「えっと、キアラさん。カイトからも詳しい話は聞いていないですが、ジーンで襲われたことは聞きました。ひとまず今晩は、領主の屋敷にて休んでください」


と、提案してくれた。彼女の事情を知っている僕も、どうしようかと悩んでいたので、フォブスの提案はとても有り難かった。

見ると、キアラさんは戸惑っているようだったが、


「キアラさん。フォブスはこんな感じだけど、次期領主であるラムスさんの嫡男です。ここは、フォブスの言葉に甘えておいてください。明日以降、これからのことを考えるためにも、今日はこの町で1番安全な場所で休みましょう」

「・・・・・・は、はい。その、お世話になります」


僕がそう言うと、キアラさんは申し訳なさそうにしながらも受け入れ、フォブスに頭を下げた。僕からも目線でフォブスに礼を言っておく。


キアラさんの着ていた服はボロボロだったので、フェイに調達を頼み、僕たちは領主の屋敷へと戻った。



 ♢ ♢ ♢



翌日、僕とフォブスそしてキアラさんは、ラムスさんが仕事をしている部屋に来ていた。

ラムスさんに呼び出されたのではなくて、昨晩のうちにキアラさんと相談した結果、ラムスさんに事情を説明することにしたのだ。


キアラさんはフォブスに対しても少し心を開いてくれたようで、昨晩のうちに事情を話していた。話を聞いていたフォブスは、かなり怒っていたが、僕たちにできることはないし、下手に動いても事態を悪化させるだけなので、とりあえずラムスさんに相談することにしたのだった。



キアラさんの事情をラムスさんに説明すると、父親であるボードさんの後を継いで執事長となったグレイさんは、顔をしかめた。

ラムスさんは少し目を閉じ考えてから、


「キアラさん。あなたの大変な事情は理解しました。しばらくの間、この屋敷に滞在してください。幸い、フォブスやカイトと仲良くなれたようですし、2人と行動を共にしてはいかがでしょうか。グレイはどうですか?」

「はい。お二人の座学はほとんど終わっておりますし、キアラ様と一緒に行動されるとよろしいかと」

「いいですか? フォブス、カイト」


ラムスさんの問いかけに、僕とフォブスは強く頷いた。キアラさんもこのお屋敷にしばらく滞在できることになったことに対し礼を述べていた。



キアラさんのお母さんに声をかけ、おそらくキアラさんを襲ったと思われるバーシャ男爵については、ラムスさんが調べてくれることになった。

とはいっても、現状はキアラさんの話以外には証拠も無く、大っぴらに動くことはできない。それにバーシャ男爵はエズワルド侯爵の派閥に属する貴族だ。他派閥というか、アーマスさんが宰相になったことで貴族の派閥争いからは一線を画するバイズ公爵家の次期当主であるラムスさんが、バーシャ男爵を調べているのを気づかれるのは避けたいらしい。


現在の僕やキアラさんに、ラムスさんを動かせるような証拠は無いので、受け入れるしかなかった。ちなみにフォブスは、ラムスさんの決定に異論を唱えて、グレイさんによる補習を命じられていた。フォブスのあの熱い感じとか、人を助けようとする気持ちは好ましいと思うけど、さすがに今回は強引すぎたかな。



 ♢ ♢ ♢



ラムスさんとの話を終えた僕たちは、冒険者ギルドへ向かっていた。

僕とフォブスはアイアンランクからブロンズランクへの昇格が認められると昨日ソメインさんに言われていたので、その手続だ。


キアラさんは、盗賊に捕らえられていた1人として、ソメインさんが事情を聞きたいとのことだった。騎士団長のオランドさんには話したし、先ほどの話もラムスさん経由でキアラさんの話をしてもらう予定なので、不要な気もした。ただ、騎士団と冒険者ギルドの棲み分けの観点から、「騎士団長に聞いてください」はどう考えても悪手なので、向かうことにしたのだ。どのみちキアラさんは僕たちと行動を共にする予定だったしね。



冒険者ギルドに入り受付で名前と目的を告げると、そのままソメインさんの部屋に通された。

ソメインさんの部屋に入ると、相変わらず書類に埋もれたソメインさんとカルロスさんがいた。


「おお、カイトにフォブス。それと・・・・・・、確か人質だった」

「キアラさんです」

「そうか。冒険者のカルロスだ」

「・・・・・・・・・そ、その。助けて、いただいて・・・・・・、あ、ありがとうございます」


キアラさんはカルロスさんにビクビクしながらも、礼を述べていた。

かなり声が小さく、途切れ途切れではあったが、カルロスさんには伝わったらしく、笑顔で答え、退出していった。


カルロスさんが退出するのを見送ってから、


「ようこそおいでくださいました、フォブス様、カイト様。そしてキアラさん」


と、ソメインさんが書類の山から這い出てきた。


「時間もありませんので、早速お二人の昇格手続を行いますね。こちらが、新しいギルドカードになります」


僕とフォブスは、新しいランク、ブロンズランクの冒険者ギルドのカードを受け取った。これまでの鉄と同じ濁ったシルバー色から、銅と同じ赤茶色のカードになったのだった。



「お二人はいろいろ特殊ですが、年齢を考えるとブロンズランクへの到達はかなり早いと思います。シルバーランク向けの依頼は、遠方に出向く必要がある依頼が多くなります。お二人には少し難しいと思われますので、これまで通りアイアンランクの依頼やブロンズランクの依頼であっても、気にせずお受けいただいて構いません。この町には冒険者が多いですが、依頼料や難易度、手間の問題で長い間残っている依頼も多いですから」


確かに、そういう依頼を受けるのはいいかもしれない。正直僕たちにとって、依頼料はどうでもいい。フォブスはもちろん、僕やポーラもガッドで暮らすにあたってかなりの額の金貨をコトハお姉ちゃんに渡されている。ただ、普段はアーマスさんのお屋敷で生活しているので、ほとんど使う機会がない。

冒険者の活動に必要な額くらいは、これまでの依頼料で十分に賄えている。

多分、ポーラが町で服を買うときに使ったくらいだと思う。ポーラはよく、ノリス君を連れて町へ遊びに行っているんだよね。迷惑かけてなければいいけど・・・・・・


僕たちが冒険者の活動をしているのは、町の外での実戦訓練が目的だ。なので、難易度が高い依頼や、手間がかかる依頼でも問題なかった。まあ、今後キアラさんも一緒に行動する予定だから、そこは考慮する必要はあるけどね。



その後、キアラさんが盗賊に襲われた経緯をソメインさんに説明した。ソメインさんのことは先にキアラさんに説明してあり、ソメインさんが今回の盗賊に疑問を持っていたことに関係がある可能性もあったので、彼女の事情も説明した。


ソメインさんは、話を聞きながら、積み上げられている書類の山から何枚かの書類を取り出して、確認したり、メモを取ったりしていた。

話が終わると、「こちらでも調べてみます」と言われたので、お任せすることにして部屋を後にした。


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