第142話:暴走気味の2人

第3章と第4章の間に、「幕間:ガッドでの新生活」として、カイトやポーラの日々を描いたエピソードを投稿しています。こちらも順次更新していきますので、是非ご覧ください。

時系列としては、第3章と第4章の間の数ヶ月間のお話になります。


現在「幕間⑥:アジト制圧」まで更新しています。第4章の前に追加しているため、更新されたことが分かりにくくなっているようです。申し訳ありません。

幕間の方も更新していきます(第4章よりもペースを早くし、先に終わらせる予定です)ので、確認していただけると嬉しいです。



〜以下本文〜


マーカスとレーノが硬直している理由はよく分かる。一般に魔法武具は、魔石や強力な魔獣の素材を用いたからといって、作り出せるかは運次第と言われている。これは、私とドランドの実験・研究の結果、完成した武具が魔素に馴染んだかどうかが重要だと分かっている。


失敗作は、魔石や素材と金属などの材料がうまく融合せず、魔素が全体に行き渡らなかったもので、使用者が魔力を流してもそれが特殊効果の発動までは至らないものだ。一方で魔法武具は、魔素とうまく融合したことで武具全体が魔素に馴染み、使用者に流された魔力を効率よく使い特殊効果の発動へ至るものだ。


そして、ドランドの成功率が異常に高いのは、彼の腕が一流なのを前提に、特に魔素が多く含まれている魔石・素材を使い、クライスの大森林という空気中の魔素濃度が高い環境で打たれたからである、と結論が出ている。そもそも、金属に異物である魔石や素材を混ぜ込んだものを鍛え上げ、剣にまで至らせることができるのはごく一部の能力が極めて高い鍛冶師だけだからね。



そんな風に、魔法武具自体の完成は見通しが立っていたが、発動される特殊効果は別だった。というのも、これも一般的には常識らしいが、運良く魔法武具として完成しても、その魔法武具がどんな特殊効果を発動することができるのかは不明、というか使ってみなければ分からないのだ。


魔力を流して特殊効果が発動して初めて、切れ味が増すのか、追加でダメージを与えるのか、炎を纏うのかが分かるのだ。そのため、「切れ味が増して硬いものを切れるような剣を作りたい」と思っても、そんな魔法武具を作り出せる確率は、魔法武具自体を作り出せる確率よりも当然低いのだ。



そんな感じの常識、前提があるマーカスとレーノに対して、私の「どんな特殊効果を付与するか、指定できるかもしれない」との発言は、効果抜群だったのだろう。


2人が硬直し、おそらく頭の中で私の発言を噛み砕いているのを待ちながら、ドランドと話を進める。


「やはり嬢ちゃんの言うとおり、イメージがポイントか・・・」

「うん。この剣は、『切れ味を増す』情景をできるだけ明確に深くイメージしながら、魔力を流したから。他でもできるか試してみる?」

「・・・そうだな。嬢ちゃんの魔力が問題なければ頼めるか?」

「おっけー。どんな特殊効果にする? 試しやすいのがいいよね」

「ああ。追加ダメージは強力だが分かりにくいからな・・・。うーん・・・・・・、そうだな。師匠が教えてくれた魔法武具の剣の中に、魔力を流すことで遠隔攻撃ができるってのがあったな」

「・・・・・・なるほど」


剣で遠隔攻撃か。魔法使いで使う人がいる杖みたいな感じに剣を使ったのかな?

・・・・・・でもそれだと、わざわざ剣にする必要性が低いよね。ロマン武器とか作ってみたいけど、とりあえずは実用性があるやつのがいいし。

となると、剣を振るう中で使える、遠隔攻撃か・・・・・・





そうか。斬撃が飛ぶ感じ。直接剣が届かない相手に、魔素を使って斬撃が飛ぶようにできたらいいんだ。これなら、普通に斬り合っている中で、相手が距離をとってもそのまま剣を振るえば、斬撃が飛んで攻撃できる。


・・・やってみる価値はあるかな。


「その様子だと、思いついたのか?」

「うん。ドランドがお師匠さんから教わったものかは分かんないけど、いい感じの武器」

「おお。是非やってくれ。出来損ないを持ってくる」



ドランドが魔法武具の失敗作を取りに行くのと同時に、マーカスとレーノがこっちに帰ってきた。

そして声を揃えて、


「「どういうことですか、コトハ様!」」


と叫んできた。


「どうもこうも、私がやった方法なら、私がイメージした特殊効果を付与できそうなの。今からその確認するから、少し待って」

「確認、ですか?」

「うん。別の特殊効果を付与できないか、もう1つ失敗作の剣を魔法武具にしてみるから」

「わ、分かりました」

「持ってきたぞ、嬢ちゃん」

「ありがと。それじゃあ、やりますか!」



魔力を放出しながらイメージを固めていく。先ほどの剣と同様に剣の刃に魔素を覆わせていく感じ。だが先ほどとは違って、刃が纏う魔素は何層にもなる。魔素で刃を作るように、そしてその刃を剣の刃の外側に取り付ける感じだ。

そして打ち出すイメージ。これは簡単だ。私が重宝している魔法の1つ、『風魔法』の『風刃』がある。実体のないものを打ち出して攻撃するのは同じ。しかも共に刃の形だ。剣を振るうのに合わせて、剣の刃の外側に取り付けられた魔素の刃 ―魔刃とでも呼ぼうか― が発射される。それはまるで両者の間の距離が失われたかのように、離れた場所にいる対象に命中し、斬撃を食らわせる。


イメージが固まるのと同時に、剣の周囲に流れていた魔力が剣に向かい、再び強く輝きだした。





「成功、したのか?」


最初に口を開いたのはマーカスだった。


「それを試すのはマーカスだよ。さ、剣を持って外に行こ」



訓練場に出ると先ほどと同様に丸太を設置する。威力や射程が不明なので、丸太の後ろに人がいないことを確認し、私たちも少し離れる。


「それじゃあ、マーカス。お願い。剣に魔力を流して、丸太を狙って切る感じで剣を振るって。遠くの丸太に当てるイメージでね。斬撃が飛んでいくはず」

「わ、分かりました。やってみます」



マーカスは剣を強く握ると魔力を流し始めた。そして剣を上段に構えて、振り下ろした。

それと同時に、剣が一瞬煌めいた。そして次の瞬間、離れた位置にされていた丸太が、爆散した・・・・・・


「・・・・・・は?」


誰が発したのか分からない驚きと戸惑いの声だけが聞こえてきた。

私も想定外の威力に、言葉を失った。マーカスが剣を振るった瞬間、剣の刃の形をした魔素の塊が放たれたように見えた。それに、今マーカスが下ろしている剣には、魔力も流れていないし、魔素の膜も無い。なので、丸太を吹き飛ばしたのが、剣から放たれた魔素の塊なのは間違いない。

誤算だったのは、その威力が強かったこと。・・・・・・いや、途中で形が崩れたのかも。散弾銃みたいに、魔素が小さな塊に分裂して丸太に次々に当たり、結果的に丸太が破壊された?



私の仮説を確かめるために、もう一度やってみることにした。丸太を再び設置し、マーカスは丸太の近くに立つ。それから魔力を流し、剣を構えて振り下ろした。


お手本のような綺麗な剣筋は、それだけでは剣の素振りをして訓練をしているように見える。しかし、マーカスが剣を振り下ろすとほぼ同時に、丸太に剣の振り下ろされたのと同じ角度の一直線のラインが入り、上半分が地面に落ちた。


「・・・・・・せ、成功だ!」

「ああ。凄いぞ嬢ちゃん!」


私は思わず大声を出し、ドランドも興奮している。マーカスとレーノは本日何度目かの言葉を失う時間だ。


そんな2人を無視して、私とドランドは考察を進める。


「1回目との違いはマーカスの立ち位置か。距離が離れると形が崩れるのか?」

「うん。人によるのか剣自体の性質なのか分かんないけど、1回目のときも剣から放たれた時点では斬撃の形をしてたの。だから近ければ、崩れずにいくかなって」

「なるほど・・・。しかし、1回目のも相当な威力だったな。・・・・・・しかし、少し使いにくい、か?」

「だと思う。斬撃ならある程度狙いがつけられるけど、斬撃の形が崩れて小さな魔素の塊が無差別にあたるとなると、後ろに味方がいたら使えないし、魔獣の素材とかもグチャグチャになるよね」

「そうだな・・・。そこんところをもう少し改良して・・・」

「「ストーップ!!」」


私とドランドが、今回の剣の改良点を相談していると、またもやマーカスとレーノが大声を上げた。


「ん? どうしたの?」

「いや、どうしたの、じゃありませんよ! 今のお話を聞くかぎり、コトハ様が発動させたかった特殊効果を発動したのですよね?」

「うん。でも、もう少し改良しないと・・・」

「い、いえ! 今はそこはいいんです。つまりコトハ様は、失敗作である魔法武具を、好きな特殊効果を発動させることができる魔法武具に改良することができるのですね?」

「うん、たぶん。まだ成功したのは2分の2だから、確実とは言えないけどね。後、ドランドがここで作った武器ってのも条件だと思うよ」

「・・・・・・なるほど。・・・・・・・・・その強さに驚き、領都を守るゴーレムに驚き、採れる木の実に驚き、もう無いと思っていましたが・・・・・・。とりあえず、しばらくの間このことは領外には持ち出さないでください」

「ん? 分かった。あー・・・、騎士団の装備を改良するのは?」

「それは・・・・・・、是非やってください」


最後のレーノの言葉にマーカスも頷き、私とドランドの騎士団の装備改良計画が始動したのだった。


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