第141話:実験開始
第3章と第4章の間に、「幕間:ガッドでの新生活」として、カイトやポーラの日々を描いたエピソードを投稿しています。こちらも順次更新していきますので、是非ご覧ください。
時系列としては、第3章と第4章の間の数ヶ月間のお話になります。
現在「幕間⑥:アジト制圧」まで更新しています。第4章の前に追加しているため、更新されたことが分かりにくくなっているようです。申し訳ありません。
幕間の方も更新していきます(第4章よりもペースを早くし、先に終わらせる予定です)ので、確認していただけると嬉しいです。
〜以下本文〜
ドランドの提案で、魔法武具の開発を始めてから2週間が経過した。
結論から言えば、魔法武具の開発には成功した。
私たちがまず行ったのは、魔法武具を作る方法として有名な、魔石や強力な魔獣の素材を混ぜ込む方法だ。とりあえず成功率が高いという魔石を使うことにして、ファングラヴィットの魔石を細かく砕き、それを鋼に混ぜていきながらドランドが剣を打っていった。
打ち終わった剣の柄を握り魔力を流してみる。すると、剣に魔力が流れたのが分かり、薄い魔素の膜で覆われたのが確認できた。騎士団長のマーカスを呼んできて、試し切りをしてもらった。魔力を流した後と覆っていた魔素が消えてからで比べてもらったが、魔素の膜で覆われていたときの切れ味が圧倒的に上だったらしい。
こうして簡単に最初の魔法武具は完成した。その後、同じ方法・材料で試したが、その成功率はほぼ100%だった。さすがにおかしいと思い、考慮していない別の要素があるのではないかとの仮説のもと、いろいろ試すことになった。
その結果、魔石ではなくファングラヴィットやフォレストタイガーの牙や爪を削って鋼に混ぜ込んでいく方法でも、2回に1回は魔法武具になった。同じ方法で作られたバイズ公爵領の騎士団の武具と比べると、その成功率は異常だった。
こうして最初から、理由が分からないまま成功を重ねるという不思議な状況の下、いろいろ試してみた。その結果、魔素が重要なポイントである可能性が高まった。
まず魔石は一般に、年を重ねて成長した個体ほど大きくなると言われている。魔獣や魔物は生きる中で絶えず魔素を取り込んでおり、それが魔石へと蓄積していく。その結果、魔石はどんどん魔素の層が積み重ねられ固められ、大きくなっていくのだ。つまり、大きな魔石はそれだけ魔素が蓄積されたものであり、多くの魔素を含んでいるものだといえる。
私たちが使った、ファングラヴィットやフォレストタイガーの魔石は、クライスの大森林の外に生息している魔獣・魔物の体内にある魔石と比べるとかなり大きい。これは、元々の大きさに比べて、クライスの大森林という空気中の魔素濃度が高い環境で暮らしているからだと思われる。
もちろん、それだけでは同じ材料を使っているバイズ公爵領の騎士団の武具との差異が説明できない。その差異を生み出しているのもまた、クライスの大森林だった。つまり、剣を打った場所だ。作業しているドランドの工房はクルセイル大公領の領都の南側に位置している。当然、クライスの大森林の中にある。つまり、魔素が多く含まれた素材を使い、空気中に魔素が多く含まれている環境で作業をしているのだ。魔石を使った場合と牙や爪を使った場合の違いは、それ自体に含まれる魔素量の差だろう。
この2つの条件により、ドランドが魔石や素材を混ぜて打った剣は、かなりの魔素を含むことになったのだ。そして、『人間』は魔法が苦手で、『魔族』は魔法が得意な理由。それは、身体に魔素が多く含まれ馴染んでいるか、だ。魔素が馴染んでいると、魔力を多く作ることができ、身体を魔力が巡るのもスムーズだ。その結果、無駄なく魔力を用いて魔素への指示を出すことができ、魔法を発動できる。一方で魔素に馴染んでいないと、効率が悪くそもそも少ない魔力を無駄に消費してしまう。その結果、魔法の発動に至らないのだ。
この原理は、魔法武具でも同じだと思う。武具は魔力を作ることはしないが、使用者が流した魔力を用いて魔素へ指示を出し特殊効果を生み出す点は同じだ。完成した武具に魔素が多く含まれていると、使用者の流した魔力を効率よく用いて、魔素へ指示を出すことができる。結果、魔法武具だと判断されるわけだ。一方で含まれている魔素が少ないと、いくら魔力を流しても、特殊効果は生み出されない。その結果、魔法武具ではないと判断されるわけだ。
この見解は、「同じ魔法武具でも扱える人と扱えない人がいる」との事実とも矛盾しない。要するに、流せる魔力の量が多ければ、多少非効率な魔法武具でも、特殊効果を生み出せるわけだ。現に、マーカスによる実験では失敗とされた武具の中で、私がかなりの量の魔力を流し込むことで、特殊効果を生み出した剣が何本もあった。
こうして2週間、数十本の剣を打った結果たどり着いた一応の結論を前提に、私たちは次の実験を開始していた。
「それじゃあ、いくよ、ドランド!」
「おう! 頼むぞ嬢ちゃん!」
私の前にはマーカスでは特殊効果を生み出すことができなかった一本の剣。私でもかなりの量の魔力を流さないと特殊効果は生じなかったほどの失敗作だ。
そんな失敗作の剣に向けて両手を突き出す。そしてイメージを強めていく。イメージするのは、剣の魔法武具ではオーソドックスな魔素を纏って切れ味を増す感じ。薄い魔素の膜が両刃のロングソードの双方の刃を覆い薄く鋭く尖らせていく。そんなイメージだ。
そしてイメージを強めるのと同時に、剣全体を魔力で覆うように魔力を手のひらから放出していく。手のひらから放出された魔力は、霧散せず剣の周囲に展開し、流れを作っていく。
魔力を放出し始めてから数分、剣の周囲を流れていた魔力が、その中心にある剣に向かい、集まった。それと同時に剣が強く輝いた。
ものすごい光に、思わず目を背けてしまった。光が消え剣を置いていた場所を見ると、変わらず剣が置かれていた。
「すごい光だったな」
「うん。うまくいったのかな?」
「マーカスに試してもらおう」
ドランドは剣を拾うと、マーカスを呼びに行った。私も後を追う。
「マーカス! 今度はこいつを試してくれ!」
「おう! ん? なんかこれまでと、違う・・・、か?」
「おお、さすがだな。新しいことを試してみた。いつも通り、魔力を流して試し切りしてくれや」
「承知した」
マーカスが試し切り用の丸太を地面に開けた穴に突き刺し距離をとる。それから、剣に魔力を流し、振りかぶって丸太を切りつけた。
・・・・・・マーカスの振り下ろした剣は、丸太を簡単に真っ二つにし、そのまま地面を大きく抉った。
「・・・・・・・・・な、なんだこれ!?」
一呼吸置いてから、マーカスが叫んだ。
「丸太を切るときに、何も抵抗を感じなかったぞ!? これまでの剣の感覚で切ったからそのまま地面まで切ってしまった・・・」
「・・・これは、凄まじいな」
「・・・成功、だね」
「ああ。またエグいものができたぞ、嬢ちゃん」
「説明しろ!」という目で見てくるマーカスを連れて、道中で遭遇したレーノも一緒に、私たちはドランドの工房に戻った。
マーカスや軽く事情を話したレーノは説明を聞きたいようでソワソワしているし、私たちも思ってたよりもうまくいったことに驚いてテンションが上がっていた。
「それで、マーカス。確認だけど、これまでの魔法武具の剣よりも切れ味が良かったんだよね?」
「はい。力を込めていない、というかほとんど剣の重さによって自然に振り下ろされるのをサポートした程度でしたが、丸太を切った感触がほとんど無く、そのまま地面にまでめり込みました。これまでとは段違いの切れ味です」
マーカスの言うとおりなら、成功だ。もちろん、マーカスが丸太を切るのを目の前で見ていたのだから、疑う余地も無い。
「さっきの剣はね、魔法武具としては失敗作だった剣に、私が魔力を流し込んだの」
「魔法武具を作る方法として知られている2つ目の方法だ」
私とドランドの言葉に、2人は驚いている。
「・・・でもあれって、細かい方法は不明なんじゃないのか?」
「ああ。だが、ゴーレムを作れる嬢ちゃんならできるんじゃないかと思って試してみたんだが・・・」
「うまくいったってわけ。少なくとも魔法武具の失敗作を、私は魔法武具に改造できる」
「・・・・・・それは、凄すぎますね。いや、あんな強力なゴーレムを作れるのですから、今更ですか」
マーカスが自分の知識と摺り合わせながら驚愕し、レーノが魔法武具の価値を考えながら嬉しそうに、けど少し呆れながらコメントする。
だけど、これだけじゃないんだよね・・・
「まだ、単なる鉄や鋼の剣を魔法武具にできるのか、できないとしてどの程度の素材を使っていれば魔法武具にできるのかは分かんないけどね。けどね、もう1つ大きな成果があるの」
「・・・・・・まだあるのですか?」
レーノにもはや変なものを見る目を向けられている気がするけど、スルーだ。
「どんな特殊効果を付与するか、指定できるかもしれないの!」
私のその発言は、マーカスとレーノを完全に硬直させた。
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