幕間⑤:盗賊のアジト

〜カイト視点〜


捕らえた盗賊を馬車へ乗せていき、そのままガッドへ連れ帰ることで盗賊の討伐依頼は達成となる予定だった。


しかし、捕らえた盗賊を確認していたソメインさんが、急に険しい顔になった。道中で処理していた書類の山を漁り、1枚の書類を見つけると、盗賊の前に戻った。それから、書類と盗賊を交互に見ながら、その表情がどんどん険しくなっていく。



少しして、それぞれのパーティメンバーと僕、フォブスが集められた。


「皆さんに報告があります」


ソメインさんがそう話し始めると、カルロスさん、エコーさん、ケイジュさんの表情も険しくなった。僕にも何か良くないことが起こったのは理解できた。

代表してカルロスさんがソメインに問い返す。


「どうしたんだ? その表情を見る限り、嬉しくない話だと思うが・・・」

「・・・はい。先程捕らえた盗賊の人相を確認していたのですが、被害に遭った商人や冒険者から聞いていた盗賊の風貌に合致する人物がいませんでした」

「・・・・・・報告が曖昧だった可能性は?」

「否定はしませんが、頬に大きな切り傷がある男が仕切っていたとの報告を受けています。そんな目立つ特徴を見間違えるとは考えにくいです。そして、捕らえた盗賊にそんな男はいませんでした。加えて、他にも数人報告を受けていた人相の男がいません。これらは頬に傷がある男ほど明確な特徴が無いので、見間違いの可能性はありますが、4人もとなると偶然とも考えにくいです」

「・・・・・・なるほど。確かにその通りだな。となると、可能性は・・・」

「別の盗賊を捕らえたか、捕らえた盗賊は目当ての盗賊の一部だけだったか、ですね」



ソメインさんとカルロスさんが捕らえた盗賊に尋問を行った。最初は渋る盗賊たちだったが、処罰の軽減をチラつかせると、直ぐに口を割った。この辺りは、仲間意識や忠誠心のない盗賊の扱いやすい所なんだと思う。


その結果判明したのは、今回の盗賊の規模だ。当初盗賊の規模は10名程度と言われていた。僕たちも昨日はそう聞いてこの依頼に参加した。しかし、実際にはこの盗賊の総数は40名程度だった。大規模な盗賊だとバレると騎士団に討伐されるので、少数に分かれて行動しなるべく人的被害を出さないようにしていたらしい。今も盗賊たちのアジトには、30名近い盗賊と、数名の捕虜がいるとのことだった。



「うーん、困りましたね。まさか捕らえたのが一部だったとは」

「そうだなー。30人の盗賊が捕虜と一緒に籠もってるアジトを攻めるのは簡単じゃないよなー・・・。どうするんだ? ギルマス」

「そうですね・・・。皆さんへの依頼は現時点で完了となります。その上で、このままアジトを攻めに行くか、戻り騎士団と相談の上、再度冒険者を集めるか騎士団に委ねるか・・・・・・」

「だがそれだと、逃げられる可能性が高いよな。最悪、盗賊はいいとして、捕虜はおそらく殺される」

「はい。この連中が帰ってこないことに気がつけば、即座に行動を起こすでしょうね。もちろんこいつらを解放することもできませんし・・・」

「このまま行くしか無いな」

「・・・・・・そうですね」


ソメインとカルロスさんの話し合いを聞いていたが、僕もフォブスも同意だった。盗賊を逃がすというのは、別の場所で盗賊に襲われる被害者を生むことになる。それに、アジトに捕らえられている捕虜を連れては行かないだろうし、情報漏洩を防ぐために殺していく可能性が高い。



「皆さん。お聞きの通り、このままアジトへ攻め込みたいと考えています。新たな依頼という形になりますので、受けられるかは任意ですが、できたらお力をお借りしたい」


ソメインさんがそう言うと、全員が参加の意思を示した。いや、正直ここで断れる人っていないと思うんだけど・・・



それからソメインさんは僕たちの近くに来て、


「フォブス様、カイト様。緊急のためお願いがございます。お二人に護衛として付いておられる方にもご助力願いたいのですが・・・」

「・・・・・・そう、ですね。身分を隠したいとかいってる場合じゃないですもんね」

「はい。それと、失礼ながら正直に申し上げます。フォブス様には、急ぎガッドへ戻り、騎士団へこのことを連絡していただきたいのです」

「・・・・・・それは。・・・・・・それは、僕の力では危険だからですか?」

「・・・はい。カイト様が全力を出された場合の戦闘能力は、以前この目で見ております。フォブス様が剣はもちろん魔法でも非凡なものをお持ちであることは承知していますが、それでも危険だと思います。援軍が必要なこともまた事実ですので、お願いした次第です」


フォブスは悔しそうに、ソメインさんと僕、そして後ろにいるカルロスさんたちを見ながら、


「分かり、ました。領都に戻って直ぐに騎士団を出撃させます。カイト、無茶だけはするなよ。お前が強いのは知ってるけど、気を付けてな」

「うん。援軍、よろしくね」



フォブスは馬車を引いていた馬の一頭に乗ると、ガッドへ向けて走っていった。

それを見送り、僕は『人龍化』のスキルを一部発動させ、オーラを放った。


オーラを放って直ぐ、フェイが現れた。多分上空から急降下してきたんだと思う。


「カイト様!」


そう叫びながら、近づいてきた。

いきなり現れたフェイに、カルロスさんたちは警戒しているが、それを気にせずに僕の下まで走ってきた。



「フェイ。これから盗賊のアジトに行くんだけど、敵の人数が多そうだから、手伝ってもらえる?」

「もちろんです! それで、フォブス様はガッドの方へ?」

「うん。フォブスを逃がしつつ、援軍を呼びにね」

「なるほど。フォブス様がガッドへ向かったのを確認しましたので、道中を軽く見てきましたが、危険な魔獣はおりませんでした。ですので、フォブス様の心配は無用かと」

「そっか。ありがと」


そうフェイと話していると、ソメインさんとカルロスさんが近づいてきた。


「えっとカイト。その人は? というか、フォブスはどこへ? それに、様って・・・」


聞きたいことが多くて混乱してるようだったので、きちんと説明しておく。僕やフォブスの身分。フェイのこと。フォブスは危険だから援軍を呼びに行かせつつ逃がしたこと。



「なるほど。道理で単に若い優秀な冒険者にしちゃ違和感があるわけだ・・・、い、いや、申し訳ない。カイト様」

「や、止めてください! 緊急事態ですし説明するには明かす必要があったので、身分をいいましたけど、今は冒険者の仕事中です。冒険者の先輩であるカルロスさんに敬語を使われるのは困ります!」

「い、いや。しかし・・・」

「カルロス。カイト様もこう仰っているし、気にしなくていいと思いますよ。私はカイト様の姉であるクルセイル大公殿下にもお目にかかったことがありますが、そのようなことで目くじらを立てるような方ではありませんでしたから」


・・・・・・確かに。むしろお姉ちゃんは「貴族らしい振る舞いを勉強して!」って言われてる側だからね。


「そ、そうか。なら、まあ。俺としてはその方がありがたいが・・・」

「はい。全く問題ないので、今まで通り後輩の新人冒険者として扱ってください。お願いします」

「ああ。分かった。よろしくな」

「はい!」



それからエコーさんケイジュさんも加わり、5人で作戦などを話し合った。僕もスキルの詳細や種族のことは誤魔化しながらも、ある程度は戦えることを説明した。それにフェイが戦っているところをほとんど見たことはないが、捕らえている盗賊程度であれば全く問題ないというので、そのことも伝えておいた。


4人は、完璧にメイド服を着こなす、見た目はただの若い女性であるフェイが強いというのに懐疑的であったが、僕とフォブスの身分を改めて説明し、そんな身分の2人を単独で護衛していることを理解すると、納得してくれた。


それから、捕らえた盗賊の案内で、アジトを目指して出発した。


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