幕間④:盗賊討伐
〜カイト視点〜
翌朝、オランドさんとグレイさんに勉強の予定や訓練の予定を調整してもらい、フォブスと朝から冒険者ギルドに向かっていた。
ギルドへ入ると受付のお姉さんに、盗賊の討伐依頼を受けに来たと伝える。すると奥の大部屋に案内された。大部屋には既に、10人の冒険者と思われる人たちが集まっていた。3箇所に分かれているので、3パーティかな?
一応「おはようございます」と挨拶をしながら部屋に入ると、一番近くにいた4人組のパーティの中の男性が声を掛けてくれた。
「おはようさん。君たちも盗賊の討伐かい?」
「はい。昨日ソメインさんに、参加するように言われました」
「ほぅ。ギルマスにか。ああ、悪い。俺はシルバーランク冒険者のカルロス。パーティメンバーのドム、ミーシャ、フーリャだ」
「僕はカイト。こっちはフォブスです。アイアンランクです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。にしてもその若さでアイアンランクか」
カルロスさんのパーティメンバーや他のパーティメンバーとも挨拶を交わし、話をしているとソメインさんが入ってきた。
「揃っていますね。まずは集まってくれて感謝します。伝えているとおり、本日は東の街道に出る盗賊の討伐を行います。出没する位置と襲われた商隊の護衛をしていた冒険者からの情報で概ねアジトの場所は分かっています。なので、商隊に扮してそのアジトがあると思われる周辺に向かいます。向こうが襲ってくればよし、こなければアジトを見つけて攻めます。配役としては、エコーとケイジュのパーティが護衛役を。カルロスのパーティは2台の馬車に分かれて商人役をお願いします。カイトとフォブスはカルロスと一緒に行動してください。カルロス。この2人の戦闘能力は私が保証しますが、盗賊討伐の経験はありません。いろいろ教えてあげてください。最後に、今回は私も同行します。指示は私が出すので従ってください」
ソメインさんの説明と指示に、カルロスさん、エコーさん、ケイジュさん3人のパーティリーダーが頷く。当然僕たちにも異論はないので、頷いておく。
ちなみに、僕たちが貴族の身分を持っていることは隠すようにお願いしてある。なので、いつもと違って呼び捨てだ。
それにしてもソメインさんも参加するのって、僕たちに何かあると困るからなのかな・・・。そう考えると、迷惑を掛けてしまう。フォブスもそう思ったようで申し訳なさそうにしていた。
「それで、質問がある人はいますか?」
手を上げる人はいなかったので、準備に入ることになった。
僕たちはカルロスさんと一緒にギルドの裏手にある馬車置き場に向かう。
「それじゃあ、馬車の用意をするか。カイト、フォブス、一緒に来てくれ」
カルロスさんの指示に従い、ギルドで飼育している馬を馬車に繋いでいく。馬の扱いにもここ2ヶ月でかなり慣れたと思う。スティアは何も言わなくても動いてくれるけど、騎士団の軍馬はそうはいかない。なので、乗り方に世話の仕方、指示の出し方や機嫌の治し方を習った。フォブスもさすがに馬にはなれているので問題ない。
僕たちが問題なく馬を扱っているのを見てカルロスさんが、
「ほぅ。馬の扱いもできるのか。戦闘能力もギルマスのお墨付きがあるわけだし、こりゃぁ、将来有望だな」
「あ、ありがとうございます」
「それで、カイトにフォブス。御者をした経験はあるのか?」
「えっと、それはないです」
「そうか。なら、道中で教えてやろう。冒険者をしてると、護衛依頼や自分たちの移動で馬車をレンタルすることがある。そのときに御者ができると便利だぞ」
「「お願いします」」
正直僕たちが御者をすることが後々あるかは分からない。けれど、何事も知っていて損はない。それにフォブスはともかく、僕は冒険者を長く続ける可能性もある。カルロスさんの好意に甘えることにした。
それから準備を終わらせ、予定通りガッドの東側へ出発した。ふと上空を見ると、フェイも着いてきている。フェイには、盗賊の討伐に行くことを話し、僕が合図したら助けに入るようにお願いしてある。周りへの説明が面倒なので、そうならないことを願うばかりだけど・・・
襲撃が予想されるポイントまでは、片道2時間ほど掛かるので、エコーさんとケイジュさんのパーティは交替で護衛を装いながら、休憩している。僕とフォブスは、カルロスさんが御者をしている馬車に乗り、御者のやり方や盗賊の討伐依頼の際の注意点を教えてもらっていた。
そうして進むこと2時間ほど。同じ馬車に乗り書類仕事をしていたソメインさんが、いきなり顔を上げた。
「カルロス、来ますよ。この先500メートル。小さな林の中に12人います」
「了解」
そう言うとカルロスさんは、後ろの馬車で御者をしているドムさんに合図を送り、それから護衛をしているエコーさんとケイジュさんにも合図を送った。
こちら側の緊張感が高まり、全員が飛び出してくる盗賊に集中していた。
それから少しして、右前方にある小さな林の中から盗賊が飛び出してきた。
ソメインさんの情報通り12人だ。
盗賊たちはこちらを見てニヤッとしてから、
「そこの商隊! その場で停まれ! 抵抗すると痛い目を見るぞ!」
と、脅し文句を掛けてきた。盗賊で確定だ。
ソメインさんがカルロスさんに合図を送り、それを見たカルロスさんが護衛に扮していたエコーさんとケイジュさんに合図を出した。合図を受けてエコーさんとケイジュさんのパーティ6人が、盗賊の背後を取るように走り出した。
盗賊はいきなり走り出した6人に驚いたようだが、残っているのは商人だけで護衛の冒険者は逃げたのだと思ったようで、笑みを崩さないままこちらに近づいてきた。そもそも護衛の人数は盗賊の半分なので、戦闘になっても問題ないと思ったのだろう。
それを確認して、2台の馬車からカルロスさんのパーティと僕たち、そしてソメインさんが下りて戦闘態勢に入る。
今日はフォブスも剣を抜いている。魔法が使えること自体を厳密に隠す必要はないが、ここまで使いこなせることは隠しておきたいらしい。まあ剣術もきちんと身に付けているフォブスなので問題ない。
ここにきて初めて盗賊は違和感に気がついたようだった。逃げたと思った護衛が背後を固めている。商人しかいないと思っていた馬車から抜剣した冒険者風の戦闘員が出てくる。ようやく罠に嵌まったと気がついたようだった。
けどもう遅い。
「かかれ!」
というソメインさんの号令の下、盗賊討伐が開始された。
僕も双剣を抜剣し、直線上にいた男に接近する。盗賊の男は剣を構え振り上げるが、その動きは騎士団のそれには遠く及ばない。左手の剣で軽く受け止めて、男の左の肩口を斬りつける。それと同時に、男の左斜め後ろに回り込み、左の膝裏を蹴り上げた。
肩口を斬られ膝を蹴られたことで、剣を落とし、バランスを崩して膝をついた男の右側に回り込んで。今度は腹を蹴りつけた。
男は「うぐっ」と声にならない呻き声を上げて、気を失った。ちなみに、『身体強化』は使っていない。騎士団との訓練で、殺さずに相手を無力化する方法も習ったのだが、その1つを使っただけだ。
それから周りを見渡すと、それぞれ盗賊を制圧し終わっていた。全体を管理しているソメインさんを除いて、人数は12対12の同数だったのでそれぞれ1人ずつ相手にすることで、問題なく制圧できた。
ソメインさんの指示で捕らえた盗賊を馬車に積んであった縄で縛っていき、盗賊の討伐はものの数分で完了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます