第139話:貴重な人材

第3章と第4章の間に、「幕間:ガッドでの新生活」として、カイトやポーラの日々を描いたエピソードを投稿しています。こちらも順次更新していきますので、是非ご覧ください。

時系列としては、第3章と第4章の間の数ヶ月間のお話になります。



〜以下本文〜

翌日は朝早くから領都へ移動を開始し、日が暮れる前には領都へたどり着くことができた。交替で馬に乗ったり、リンに持たせていた『アマジュの実』を食べさせて体力を回復させたりしながらの移動であった。


領都に着くと、マーカスとレーノ、そして騎士以外の住民のとりまとめをしてくれているマーカスの奥さんのメアリさんに6人を紹介し、事情を説明した。

幸い、大人たち3名は、『人間』相手でも普通に接することができるようで、相談するのは問題なかった。やはり『人間』を怖がってしまう子ども3人の側には、それぞれの家族や私、レーベルがいることでどうにか話を進めることができた。


捕らえた奴隷商人は、急いで設置した地下牢 —『土魔法』で穴を掘って、木で作った柵で入り口を塞いだだけだが— に放り込んでおいた。絶えず2つの騎士隊が警備しているし、あの男は戦えないようだったので問題ないだろう。


それから急いで、ドワーフのドランド一家と魔族のヤリス親子が暮らす家を建てた。さすがに簡単な戸建てを建てるのにそう時間はかからなくなっており、その日の内に建てることはできた。まあ、家具とかがないので、今日は私のお屋敷に泊まってもらい、明日以降諸々の用意をする予定だ。


彼らの家は、移住してきた騎士たちの家族用に建てた住居が並ぶエリアではなく、私のお屋敷の近くに建ててある。うちの領民の中には彼らに悪意を持って接する輩はいない —そういった連中は事前に弾かれているし、数名紛れていたバカも既に追放してある— が、ノエルちゃんたちの精神状態を考慮すると、まずは離れた場所で生活するのがいいと考えたのだ。





翌朝から私は6人を連れて、領都の中を案内して回った。子どもたちはいろいろ初めて見る光景に大はしゃぎで、仕事をしている領民をそこまで意識することが無かったのは良かったと思う。ドランドさんは私の作ったゴーレムに興味があるようで、歩哨で立っているゴーレムを隅々まで観察していた。・・・・・・そういえば、有名な鍛冶師の弟子で、技術者なんだっけ? 奥さんのカベアさんも一緒になってゴーレムを観察していたのは驚いた。


魔族のヤリスさんは、レーベルが管理する薬草畑に興味津々だった。なんでもヤリスさんは、小さな商会出身らしく、レーベルの育てている薬草がとても貴重で高価なものや未知のものであることに驚いたそうだ。



そうして領都内の案内を終えると屋敷に戻り、マーカス、レーノ、メアリさんに私とレーベルを加えた昨日の面子で、今後のことを相談した。


とりあえず、報告と主に奴隷商人の処遇についての相談のために、今朝方ジョナスら数名の騎士をバイズ公爵領へ向かわせた。今では森を抜けるだけなら彼らだけでも問題ないが、今回はジョナスがポスに乗っている。


マーラたちスレイドホースは基本的に、私や家族と認めているカイトにポーラ、そしてレーベルたち以外を乗せることを嫌がる。しかし、私がきちんとお願いすれば、「仕方ないなー」といった感じで受けてくれる。軍馬たちにとってスレイドホースは完全な上位者なので、集団に1頭でもスレイドホースが入るだけで、完全に統率が取られる。

加えて、フォレストタイガーごときではマーラたちに勝てるわけもない。なので、ポスが行くことで、ジョナスらの安全が約束される。まあ、帰ってきたらポスのご機嫌を取らないとだけどね・・・


奴隷商人は、マーカスやアーロンがじっくり尋問を進めている。多少手荒なことをするのを許しているし、所詮は小物の木っ端商人のようで、ベラベラ質問に答えているらしい。



「じゃあ、あの奴隷商人とアーマスさんとこへの方向はとりあえずそんな感じね。で、本題の6人のこれからなんだけど・・・。やりたいこととかある?」


しばらくは静養のため、ゆっくりしてくれればいいが、ずっとそのままというわけにもいかない。私は気にしないし、領民の多くも気にしないだろうが、それがかえってドランドたちの居心地を悪くしてしまう。なので、午前中に見た領都で行われている仕事の中で、やりたいことがあればそれをさせてあげたいんだけど・・・



私がそう伝え聞いてみると、ドランドが手を上げた。


「ドランド、何かやりたいことある?」

「儂は元々鍛冶師だった。奴隷にされた後は、鍛冶の仕事だけじゃなく、幅広く物作りをやらされておったし、鍛冶の腕は落ちちゃいない。だから可能なら鍛冶、それか物作りの仕事をしたいんだが・・・」

「・・・・・・鍛冶か。うちの領には鍛冶師はいないし、技術者もいないからありがたいけど・・・」


そういってレーノの方を向くと、レーノも頷いていた。

問題は鍛冶師が仕事をする場所、そして材料の調達だ。



「とりあえず、希望は分かった。仕事場作ったり、材料の工面を考えたりですぐには難しいかもしれないけど、検討するね」

「ああ、頼む」


ドランドの妻のカベアさんもドランドの仕事を手伝ったり、本人は手先が器用で昔は装飾品などを作ったりしていたそうだ。これも実現できるのなら、やってもらいたい。


それからヤリスさんは、商人の家の生まれということもあって、読み書き計算が完璧だった。それに薬草や素材などの知識も豊富だったので、レーノの部下の文官の1人として働いてもらうことになった。


3人とも、我が領の足りていなかった部分を補ってくれることになったのは僥倖だった。見返りを求めて人助けをしたわけではないが、結果的にいい人材をゲットできた。



 ♢ ♢ ♢



ドランドたちを受け入れてから1週間、大人3人はそれぞれ仕事を始めていた。ドランドのために鍛治工房を建設することが決まってはいたが、場所の検討や、必要な道具の入手などやらなければならないことが多く、まだ着手できていない。特に道具類や材料はガッドで買うしかないため、近々ドランドを連れて出向くことが計画されていた。

それまでの間は、槌があればできる武具の簡単な修復や、宝物庫に溜め込まれている素材を吟味して、使えるものがないかを検討してもらっている。加えて、ゴーレムに興味があるようなので、私の研究を手伝ってもらっている。


ドランドの妻のカベアさんは裁縫も得意らしいので、ひとまず服やシーツ、タオルなどの布製品を作っている我が領唯一の服飾工房にて仕事をしてもらっている。案内人はメアリさんだ。カベアさんは、6人に提供した衣服がここで作られていると知ると、積極的に手伝いを申し出てくれたので、採用したのだった。


ヤリスさんはレーノの副官として、それまでレーノがほとんど1人で切り盛りしていた事務仕事の一部を担っている。一応、完全に信用できると分かるまでは、重要な仕事はさせず、能力を見ながら鍛えて行くとのことだったので、レーノに任せた。



子どもたち3人は、私と一緒にいることが多い。私が領内の視察で人の多いとこに行ったり、狩りのために領土の外へ出たりするときは、レーベルと一緒にいることが多かった。領都で暮らし始めて1週間、毎日『アマジュの実』を食べさせて、食事も栄養バランスを考慮しつつ、魔素の豊富な魔獣の肉を食べているので、身体はかなり健康に近づいている。


しかし、心はそうはいかない。生まれてから今までや幼少期の大切な時間を、奴隷として酷い扱いを受けてきたことによる心の傷はそう簡単には癒えない。こればかりは、ゆっくり時間をかけていくしかないので、なるべく不安にならないように心を許してくれている私やレーベルが、3人が家族と一緒にいられないときは、側にいるようにしているのだ。



ガッドへ行っていたジョナスらは、昨日戻ってきた。アーマスさんは王都キャバンにいたので会えなかったらしいが、ラムスさんとしっかり相談してきたらしい。


ラムスさんの要望は1つ。奴隷商人からできる限りダーバルド帝国の内情を聞き出すこと。その後の処理は任せるとのことだった。情報を聞き出すのは確定だったし、処理を任せてもらえるのはありがたい。尋問も手詰まりになりつつあったので、今晩あたりレーベルに任せ、終わり次第始末するかな。




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