第138話:奴隷たちの事情
第3章と第4章の間に幕間として、カイトやポーラに関する章を追加しているので、是非ご覧ください。
〜以下本文〜
野営地に連れ帰った奴隷たちには、魔法薬を与えて怪我を治し、体力を回復させた。それから食事を提供すると、一心不乱に食べていた。特に馬に乗せた2人の子どもとドワーフのもう1人の子どもは、「こんなおいしいの、初めて食べた!」と大喜びだった。
それから少しして3人は寝てしまった。大人たち3人も疲れているだろうし早いところ寝させてあげたいが、少し事情を聞いておく必要もあった。
とりあえずいくつか質問をすることにした。
「まずは、6人の関係を聞きたいんだけど・・・」
私の問いかけに答えてくれたのは、先程と同じドワーフの男性と魔族の女性だった。
「私たち4人のドワーフは、夫婦とその長男、長女になります」
「私とこの子も親子です。夫は既に死んでいます」
と教えてくれた。
ただ、なんで名乗らないの? そう思って聞いてみると、
「我々は奴隷にされた際に、従前の名を名乗ることを禁じられました。それに長女に至っては、奴隷になってから生まれたので、そもそも名前を付けておりません」
・・・なるほど。そういえば、カイトとポーラも最初会ったとき、名乗るのを禁じられたとか言ってたっけ?
「とりあえず、私の前では名前を名乗ってくれない? じゃないと会話しにくいし・・・。それに、金輪際あなたたちがさっきの男の奴隷に戻ることはないから、そこは心配しなくていいよ。それと慣れてないんだろうし、敬語使わないでいいよ。貴族だけどそういうの全く気にならないから」
私は、自分が不便だし名前を教えてほしいくらいの気持ちで言ったのだが、私の言葉は話していた2人と後ろで聞いていたドワーフの奥さんを泣かせるには十分だった。まあ、名前の話もそうだけど、「奴隷になることはない」って部分かな。
3人が落ち着いたのを待って、
「それじゃあ、改めて自己紹介してもらっていいかな?」
「ああ。儂の名前はドランド。妻のカベアに、長男のベイズだ。それから長女の名前は、考えていたんだが呼ぶ機会が無くて・・・」
「今日からは毎日呼ぶことになるよ」
「あ、ああ。そうだな。ありがとう。長女には、ノエルと名付ける予定だった」
「そっか。よろしくね、ドランド、カベア」
ドワーフ一家は父親のドランドに母親のカベア。長男ベイズ君に、まだ呼べたことは無いそうだが長女のノエルちゃんだ。無理して付けていた敬語を外したことで、ドランドは話しやすくなったようだ。見るからに年上のおじさんだし、敬語で話されるよりはこれくらいぶっきらぼうな感じの方が楽とすらいえる。
そして魔族の2人。
「私はヤリスと申します。そして娘のフラメアです」
母親のヤリスさんに長女のフラメアちゃんだ。ヤリスさんはドランドと違って、この口調が素っぽいし、まあ、そのままで。
こちらも自己紹介したところで、事情を聞いてみた。
分かっていたとおり、この6人はさっきの趣味の悪い奴隷商人が所有していた奴隷だそうだ。ドランド一家は15年ほど前に、生まれたばかりの長男ベイズ君を連れて3人で、西方諸国からジャームル王国に移住することを目指して旅をしていたそうだ。奴隷狩りを恐れてダーバルド帝国を避けるように移動し、ジャームル王国にたどり着いたのだが潜入していた奴隷狩りに襲われて奴隷にされ、複数の商人に買われてあの男の下へ流れたらしい。カベアさんは旅の途中でノエルちゃんを身籠もっており、奴隷にされてから出産したそうだ。
つまり、4人は15年間も奴隷にされていたのか・・・・・・。ベイズ君とノエルちゃんにいたっては生まれてから今までずっと奴隷だったのか・・・・・・
ヤリスさんとフラメアちゃんはご主人が亡くなり、その借金を返せなくなったため奴隷に落とされたそうだ。最初は借金奴隷という、西方諸国の一部では合法な制度の下で働いていたそうだが、5年前に裏でダーバルド帝国の奴隷商人に買われてしまったそうだ。
そして6人とも、東の大陸に奴隷として出荷される予定だったとか。ドランドは有名な鍛冶師の弟子であり、奴隷としての価値が高いそうだ。そしてそのドランドをしっかり働かせるために、家族もまとめて売り払う予定だったらしい。
魔族のヤリスさんとフラメアちゃんに関してはもっと非道だった。東の大陸では、魔法の研究と称して、魔力量の多い『エルフ』や『魔族』を人体実験の道具にする下衆がいるらしい。2人の売り先もそういう相手だったみたい。
そんな6人を売るためにあの奴隷商人は、入手した魔除けの魔道具を使って森を抜けて東の港に向かった。最近はジャームル王国とダーバルド帝国の小競り合いが激化しており、奴隷を連れて国境を通るよりも、魔除けの魔道具を使って森を抜ける方が安全だと思ったらしい。ちなみにその魔除けの魔道具は、魔力切れで効果を失ったようだった。
話を聞いているだけで吐き気がしてきたし、一緒に聞いていたジョナスら騎士は気絶させてる奴隷商人を八つ裂きにしそうな怒気を放っていた。あのレーベルですら、怒りの表情を出していたのである。
私はそんなレーベルに、6人の腕にはめられていた手枷を外すように頼んだ。この手枷は単に金属製の手枷というわけではなく、体内の魔力の流れを阻害する効果のある魔道具だったようで、魔力量の多い『魔族』を封じるために使われていたようだった。そんなわけで、レーベルに手枷を外すように頼んだのだ。
「それで、これからどうしたい? さっきも言ったけど私は一応、カーラルド王国のクルセイル大公という地位にあるの。だから、全員を保護することはできる。それに、あの奴隷商人を解放することも無い」
「そ、その、カーラルド王国ってのは?」
ん?
・・・6人は奴隷であって、情報に触れる機会が無かったので、数ヶ月前に建国されたカーラルド王国を知らなかった。なので、軽く事情を説明しついでに領都のことも話した。
「それに、カーラルド王国は種族差別をしないし、一般に奴隷も禁じられている。うちの領都が難しかったら、近くの公爵領や王都に移住させてあげることもできるよ?」
私の提案に大人たち3人は考え込んでいる。
結論が出ないようなので聞いてみると、
「ベイズにノエル、それにフラメアちゃんも長い間、『人間』に奴隷として扱われていたから、『人間』を怖がっているんだ。失礼ながら、クルセイル大公殿下やその騎士の皆様は怖がらなかったようだが、朝起きて緊張が解けたら、怖がってしまうんじゃないかと・・・・・・」
「それは仕方ないよね・・・」
数年、十数年の間、『人間』に奴隷にされ虐げられてきたのだから、そうなってしまっても不思議ではない。そうするとバイズ公爵領の領都ガッドもカーラルド王国王都キャバンも難しいか。他種族もいるとはいえ、大多数は『人間』だし・・・
私が頭を抱えているとレーベルが、
「お子様方の心中は察するに余り有りますが、コトハ様を怖がらなかったのは別の理由があるのかと。コトハ様は戻ってきたときから、怒りのあまり普段は抑えているオーラが漏れ出しております。『ドワーフ』も『魔族』も魔素親和度が高く、魔力を感じる能力に秀でていますので、コトハ様のオーラを感じて本能的に安全だと認識したのではないでしょうか」
「・・・・・・なるほど。ひどいことしてきた『人間』とは違うって気がついたから・・・」
キョトンとしている3人に私の種族やレーベルの種族を説明したところ、同じくオーラを感じていたのであろう3人はすんなりと納得した。
そして、
「「是非、クルセイル大公殿下の下で生活させていただきたく思います」」
と言ってきた。
私も拒む理由はない。もちろん助けると決めたときから面倒を見るつもりだった。
それにうちの領都なら『人間』はいるけど数は多くない。少ない数で慣れてもらえればいいし、困ったら私がいる。最善策は『人間』の少ないディルディリス王国に行くことかもしれないが、それは簡単ではない。どれだけ続くか分からない森を南下するか、ダーバルド帝国を通るしかないからね。
こうして6人を新たに領民として受け入れることになった。拘束している奴隷商人は、一旦は領都へ連れ帰り尋問する。他にも森に入った奴隷がいないのかや、ダーバルド帝国の事情を聞く有用な情報源となるからだ。
だが、6人の心情に配慮して、姿が見えないように『土魔法』で封じて荷車に積むことにした。そして情報を聞き出したら、始末するかアーマスさんに相談するかな・・・
ただ、生きたまま解放することは絶対にしない。それは絶対だ。
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