第125話:拠点への帰還

部屋から出て行くマーカスさんを見送った後、アーマスさんから軍馬を人数分の32頭購入した。彼らの武具も、騎士団所属のために貸与されていたものが多かったので、買い取っておいた。私の下で働いてもらうとして、使い慣れた武具を使えた方がいいだろうから、アーマスさんに頼んで、買い取らせてもらったのだ。


騎士団に所属すると、騎士鎧や剣など装備一式を貸与される。剣などは、それまで自分が使っていたものを使用してもいいらしい。そのため、お金を貯めて、自分専用の剣を手に入れる人が多い。一方で騎士鎧は、マーカスさんみたいな例外を除いて、貸与のままのことが多いとのことだった。



それから、アーマスさんに売ろうと思っていた、余った素材をソメインさんに売る。ソメインさんは大喜びで、ギルドに戻り、お金を持ってきてくれた。

グレイムラッドバイパーの肉は、アーマスさんに売った。グレイムラッドバイパーの肉は、特別おいしいというわけでもないが、問題なく食用だ。かなりの量になるので、ランダル討伐軍のために食材を放出したバイズ公爵領にとってはありがたかったらしい。


素材やお肉は、かなりの売値になり、軍馬や武具を購入した金額を余裕で賄えた。私に仕えてくれる32人には、お給料を支払わないといけない。食事と住居は、こちらで準備する予定だ。帰ったらやろうと思っていた拠点の改造計画をより大規模にするつもりである。衣服は、今あるものを持ってきてもらい、武具は買い取ったものを使ってもらう。


支払うべきお給料から、衣食住に必要な額を引かせてもらったのが、実際に支払うお給料になる。たぶん、大した金額を支払うことができないと思うので、早急に金策をしないといけない。現状、私たちがお金を稼げるのは、森で狩った魔獣の素材を売ることでだけだ。ある程度、森の中で自給自足の生活ができるとはいえ、今後のことを考えると、特産品になるものを考えないといけない。



最後に今後のことを話し合って、今日はお開きとなった。ひとまず、私たちと新たに仕えてくれることになった32名は、このまま拠点に向かうことになる。拠点にはかなりの量の食料が備蓄してあるし、岩山をレーベルが改造していたので、問題なく滞在できる。その間に、みんなの生活場所を作ればいい。


1か月を目処に、私たちは、バイズ公爵領の領都 —新たに名をガッドとしたらしい— この都市を訪れる予定だ。アーマスさん曰く、それくらいでランダルの討伐は済んでる予定らしい。その確認をして、問題が無ければ、カイトとポーラはここに残って貴族教育を受けさせてもらうことになっている。


どれくらい掛かるのかは分からないが、おそらく2、3か月で終わるだろうとのこと。まあ、貴族教育の半分を占める戦闘訓練は、ほとんど必要ないからね。カイトは、剣術を習いたいと思っていたらしいが、とりあえずマーカスさんやレーノさんに、拠点で習ってみることにしたらしい。騎士団の現副団長と旧副団長の手ほどきを受けられるんだから、お願いするべきだよね。



 ♢ ♢ ♢



トレイロ商会に生地や装飾品を買いに行っていた、ポーラとレビンが戻ってきたので、帰る支度をする。私に仕えてくれる騎士たちは、先程の広場に集合しているらしいので、とりあえず広場へ向かう。


広場では、マーカスさんとレーノさんを筆頭に30名の騎士が並んでいた。みんな領都の防衛戦で挨拶をした覚えがある人ばかりだった。アーマスさんによれば、あの戦いで特に私たちに恩義を感じ、また一緒に戦いたいと思い、願い出た人たちらしいが、それを証明するかのように、よく覚えているひとばかりだ。



騎士たちが集まっている前に、指揮台のような踏み台が置かれていた。アーマスさんはそこに立つと、


「クルセイル大公殿下のお許しが出た。現在をもって、貴殿らのバイズ公爵領騎士団の任を解く。これまでの忠義、働き、大義であった! 今後は、クルセイル大公殿下のもとで、存分に働くが良い!」


そう叫んだ。すると、マーカスさん以外の31名が、腰に差していた剣を抜き、地面に突き刺して、跪いた。この前、カイトに教わった騎士の最敬礼だ。彼らからすれば、忠誠を誓った主の下を去り、新たな主を得たいと申し出たわけだ。それを受け入れ、最後に感謝まで述べたアーマスさんは、やはり素晴らしい人だと思う。それに、さっきの威厳たっぷりな感じ、あれが貴族、人の上に立つ者の在り方なんだろうけど、とても私に身に付くようには思えない。



それからアーマスさんは、マーカスさんにも別に礼を述べて、台を下りた。そして、私に上るように視線で合図してくる。


私は困りながらも台に上り、


「コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイルです。武勇ある皆さんが一緒に来てくれること、とても心強いです。クルセイル大公領を発展させるために、力を貸してください!」


と叫んだ。今の私に出せる精一杯の威厳を込めて、かつ、未開の地であるクルセイル大公領に移住することを決めてくれた騎士たちへの感謝を込めたつもりだ。


私の叫びが終わると、騎士たちは「うぉーっ!」と雄叫びを上げている。それは、とても30人そこらしかいないとは思えないような、迫力があるものだった。それが落ち着くと、マーカスさんの合図で、先程と同じ最敬礼をしてくれた。敬礼されるのなんて初めての経験で、あたふたしてしまったが、私の感謝が伝わったと理解しておこう。



台を下りてカイトとアーマスさんの横に戻る。アーマスさんは、もう少し威厳が欲しかったと言いながらも合格点をくれたし、なぜか騎士たちの受け入れに最初から前向きなカイトも満足そうだ。ポーラには事情を説明していないが、目をキラキラさせて私を見ていた。もちろん私も、受け入れると決めた以上は、彼らに責任を持つつもりだし、一生懸命働いてもらう予定だ。


それからボードさんが、軍馬や武具について、私が買い取ったことなどを説明した。騎士たちは私に感謝を述べると、軍馬や武具を装着しに急いだ。すでに身の回りの持ち物は用意しているようだし、彼らが戻ってきたら、拠点に向けて出発かな。そう思い、マーラたちを連れてきてもらうようにお願いしておいた。



 ♢ ♢ ♢



みんなの用意が完了したので、拠点へ向けて出発する。アーマスさんから購入した軍馬は、良い血筋の馬で、体格も良くきちんと成長している上に、訓練を積んだ優秀な馬だ。しかし、元々スレイドホースで、拠点で生活し『アマジュの実』をバカ食いした結果、スレイドホースかも怪しい存在になっているマーラたちに、その能力が及ぶことはあり得ない。それに、人数が多いと必然的に、移動速度が落ちる。というわけで、今日は森の入り口で野宿し、明日朝一で拠点へ向けて出発する。上手くいけば、明日中に拠点へ帰れるかな?


まあ、私がいれば、魔獣が近づいてくることもないからね。気にせず、ゆっくり行こう。いろいろ教えておきたいこともあるしね。





さすがに、旧バイズ辺境伯領の騎士団に所属していただけあって、騎士たちの動きはスムーズだった。森に入るまではオーラを隠していたので、時折、ナミプトルなどの襲撃を受けたが、なんの問題も無く狩っていた。


森の入り口付近で野宿をして、翌朝、太陽が昇るのと同時に移動を開始する。森の中では、私がオーラをフル開放したおかげで、一度も魔獣に遭遇することなく、陽が落ちるのと同時に、拠点へ到着した。



とりあえず、厩舎を大増築して、連れてきた軍馬32頭が入れるスペースを作る。道中見ている感じ、スレイドホースと軍馬は争うことは無さそうだった。というか、軍馬たちは、スレイドホースに完全服従といった感じだった。とはいえ、特に生まれたばかりのロンとバズを、今日来たばかりの軍馬と同じ厩舎に入れるのも不安だったので、スペースを分けておいた。


騎士たちは、レーベルが日々岩山を改造して作っていた空き部屋に分かれて入ってもらった。私も詳しく把握できていないが、私たちが領都を防衛している間に、岩山を補強し、一回り大きくした上で、4階層に改造していた。明日以降、拠点そのものを広げて、寮のような建物を建ててみたいと思っているので、それまでは5人一部屋で我慢してもらう。


騎士たちのリーダー的なポジションには、マーカスさんとレーノさんが就いていた。なので、2人と、私、カイト、レーベル、フェイの6人で今後のことを話し合うことにした。ポーラは拠点に着くと同時に寝ていたので、レビンに任せて寝かせている。


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