第124話:決着と仕官

マーカスさんは、かなり重そうなロングソードを、片手で、まるでナイフを振るっているかのごとく、振り回す。よく見ると、マーカスさんの身体から魔力が溢れ出ている。カイトと同じく『身体強化』かな?


カイトは、その攻撃を躱し、剣の腹を殴ったり蹴ったりして軌道を変えて、防いでいる。あの大きさの剣を、マーカスさんほどの大男がカイトに向けているのを見ると、怖い気持ちもあるが、カイトがかなり強くなっていることは知っているので、黙って見守る。



マーカスさんの攻めが始まって、10分が経過したか、まだ5分くらいか。いや、実際には数十秒な気がする。突如、マーカスさんの身体から溢れていた魔力が消え去った。それと同時に、マーカスさんの動きが鈍る。

それを見逃すカイトではなくて、一度、後ろへジャンプし、距離を取ったかと思うと、再び急接近した。


マーカスさんもとっさに盾を構えるが、カイトは盾を正面から攻撃することを避け、2、3回ステップを踏んで、マーカスさんの横に回り、盾を持つ腕を蹴りつけた。マーカスさんは、自分の前方向に力を込めていたらしく、カイトの横からの攻撃を受けて、バランスを崩す。


さらにカイトは、バランスを崩してがら空きになった、マーカスさんの背中を、振りかぶって殴りつけた。その拳は、バランスを崩していたマーカスさんを転倒させるには十分だったようで、前のめりに倒れ込んだ。


カイトは、盾を蹴飛ばし、剣を踏みつけて、腰に差していた双剣で、マーカスさんの首を挟んだ。





「そこまで!」


あまりの急展開に私が言葉を失っていると、アーマスさんが叫んだ。


「勝者、カイト殿!」


アーマスさんがそう叫ぶと、カイトが双剣を鞘に納めた。


「大丈夫か!? マーカス!」


ソメインさんがそう叫びながら、マーカスさんのもとへ走って行く。

私とアーマスさん、ボードさんもそれに続く。



「ギルマス。大丈夫ですよ。武具はもうダメですけどね」

「えーっと・・・」


確かに、マーカスさんの防具はボロボロだ。最後にカイトが殴ったところは大きく凹んでいるし、何箇所か金属が割れている。魔法武具だという盾も、大きくひしゃげているし、剣も少し曲がっている。

それを見て、カイトが申し訳なさそうにしているが・・・


「カイト様。お気になさる必要はございませんぞ。武具をこれだけ痛めつけることができる相手と手合わせできたこと、心から嬉しく思います。私のわがままにお付き合いいただいたこと、感謝の念に堪えません」


そう言って、マーカスさんが頭を下げた。



「いえ、僕も剣を持つ相手と戦った経験はあまりなかったので、いい経験になりました。ありがとうございました」


カイトも頭を下げる。貴族云々は置いといて、これは訓練を付けてもらった相手に対する感謝のようなものだろう。





カイトとマーカスさんが握手を交わして、手合わせは終了した。

アーマスさんに促され、再び応接室へ戻る。マーカスさんは、身に付けていた武具をしまってから合流した。



みんなが落ち着いたのを確認して、アーマスさんが話し始める。


「さて、カイト殿、マーカス。今日は素晴らしいものを見させてもらった。コトハ殿もカイト殿も、マーカスの願いを聞いてくれたこと、改めて感謝する」

「いえ、僕も戦えてよかったです」


カイトがそう答え、私は頷きで返す。私は見ていただけだし、カイトにとっていい経験になったのならよかった。



「マーカスはこれで満足か?」

「はい。とても楽しかったです。全力で攻撃したのですが、掠りもせず、魔力が切れたところを仕留められました。完敗です」

「そうか。ソメインもよいか?」

「はい。これからもコトハ様、カイト様とは良き関係を築いていきたいと、再確認致しました」

「そうだな。それでは、コトハ殿、カイト殿。こちら側の用は以上だ。そちらから何も無ければ、終わりにするが・・・」


そう言われて考える。特に用事は無い。ポーラたちが戻ってきたら、拠点へ帰る予定だ。しかし、聞きたいことはいくつかあった。



「カイトとポーラに、教育受けさせてくれるっていうのは、どうしたらいいの?」

「ああ。その話は、ランダルの討伐が終わったら、詳しくしようと思っていた。こちらから提案しておいてなんだが、今は人手が足りんくてな・・・」

「そう、了解。それとさ、馬って買える? それに武具とか。さっきマーカスさんが使っていた、魔法武具ってヤツに興味があるんだけど」

「お、おお、そうだな。1つずつ行くぞ?」


いけない、いけない。つい、興奮してしまった。私は頷いて、アーマスさんに同意する。



「まず、馬は、レーノたち用か?」

「ええ。拠点まで歩かせるわけにもいかないし」

「そうだな。レーノたちが乗っていた軍馬を売ることはできる。厩舎が広いだけあって、軍馬は多く飼育しているからな。だが、一流の軍馬故、かなり値が張るが・・・」

「それは大丈夫。人数分、買うね」

「承知した」


そこまで話して、マーカスさんが、耐えきれないとばかりに口を挟んだ。


「も、申し訳ありません。今、レーノ、と?」

「ん? そうだが? お前の息子が、コトハ殿に仕官したいと申し出たのだ。先程、コトハ殿がそれを受け入れたので、レーノはコトハ殿に仕えることになる」

「なっ!?」


話について行けないが、聞いた感じ、レーノさんて、マーカスさんの息子だったの?

それに、アーマスさんのとこの騎士団を辞めて、私に仕える話を、父親であるマーカスさんにはしてなかったの!?



マーカスさんが、黙って私に仕えようとしていた息子、レーノさんに怒っているのだと思い、謝ろうかとしたとき、


「レーノだけ抜け駆けなど許せませぬ! コトハ様! 是非、私も召し抱えてはくださいませんか?」


と、言い出した。

・・・・・・・・・・・・はい?


「えっと、マーカスさん? ちょっと、話の流れが分かんないんだけど・・・」

「コトハ様麾下の、栄えある騎士団の第一陣。そのトップをレーノに任せるわけにはまいりません! ヤツもそれなりに力を付けてはおりますが、まだまだ軟弱です。私が鍛え直したいと思います!」



・・・・・・話がわけの分からない方向へと進んでいる。“栄えある”とかはおいといて、確かにマーカスさんの方がレーノさんより強い。元騎士団の副団長だし、指揮したり鍛えたりするのは得意そうだけど・・・


「コトハお姉ちゃん。僕は賛成かな。マーカスさんがいれば、クルセイル大公領の騎士団も強くなりそうだし!」


カイトはかなり前向きだ。なんだかカイトは、クルセイル大公領を発展させることにこだわっているような気がする。別にいいけど、最初はそんな感じじゃ無かった気がするんだけど・・・?



「私も別にいいけど・・・。2人に、アーマスさんとソメインさんに話を聞かなくてもいいの?」


私がそう言うと、思い出したとばかりに、2人の方を向く。やっぱ、マーカスさんは、いろいろ全力過ぎる気がする。


「私は問題ない。マーカスは既に退官している身だしな。こいつの能力は、私が保証する」

「私としては、筆頭冒険者のマーカスが抜けるのは痛いですが・・・。まあ、次世代も育ちつつありますし、クライスの大森林の魔獣対策に割く労力が減るわけですから、やりくりはできると。これまで多分に協力してもらいましたし、応援しますよ」


アーマスさんは少し呆れながら、ソメインさんは困り顔で、そう答えた。後は、レーノさんだけど、それはここでする話じゃ無い。



「分かった。じゃあ、レーノさんと話してきて。2人が問題なかったら、受け入れるよ。ただし、騎士団云々は、まだ未確定だからね?」

「承知しました! では、早速行って参ります!」


そう言うと、マーカスさんは、足早に退室していった。

本当に嵐のような人だな。この部屋に入ってきたときの、ガチガチぶりを思い出すと笑えてくる。


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