第121話:貴族生活のスタート

バイズ辺境伯に案内され、カーラ侯爵やバイズ辺境伯の側近の貴族と挨拶を交わした。どうやら、私のことを受け入れてくれたらしいので、愛想良く振る舞っておく。まあ貴族なんて、表に出している態度と腹の中で考えていることは全く別だろうから、用心しないとだけどね。


新国家の名前は、カーラルド王国。カーラ侯爵家が、カーラルド王家となり、現在のカーラ侯爵であるハールさんが、国王になる。バイズ辺境伯は公爵となって、宰相の地位に就くらしい。私が挨拶した貴族たちは、それぞれ侯爵や辺境伯として、ハールさんを支えることになる。


私が参加するわけではないが、今後の話も聞いた。ランダル公爵の軍勢は、大した戦力ではないようで、横槍が入ることさえなければ、問題なく倒せるとのこと。戦争なんて詳しくないし、特にコメントも無いが、カイトは真剣に聞いていた。



現在は、私とカイト、フェイがこの場にいる。ポーラはレビンと一緒に、トレイロ商会へ行っている。普段は、私やカイト、ポーラは『身体装甲』のスキルで、服を作り出して身に纏っていた。しかし、貴族として、人目に付く場所に赴くときは、それなりに煌びやかな格好をすることが望ましいと言われたのだ。


レビンが、服飾関係の作業が得意だと言っていたので、任せることにした。トレイロ商会で、生地や装飾品を購入し、必要そうな服を作ってもらうことにした。私にドレスが似合うかはともかく、カイトやポーラには、綺麗な格好で人前に出てほしいしね。



 ♢ ♢ ♢



貴族たちとの挨拶を終えた翌日、バイズ辺境伯・・・、いやバイズ公爵に呼ばれた。


「呼び出して申し訳ない、コトハ様」

「・・・・・・え?」


なんで様付け? いきなり怖いんだけど・・・・・・



「はっは。私は公爵。コトハ様は大公であらせられるからな。様付けするのは当然よ」

「・・・いや、やめてほしいんだけど」

「ん、そうか? なら遠慮無く。コトハ殿、よく来てくれた」

「・・・からかってる?」

「いやいや。コトハ殿は大公。これまでの経緯を踏まえても、許可無く『殿』呼びなどできぬよ。私もわざわざ攻撃されうる弱点を作る気は無いからな」

「貴族って面倒よね・・・」

「そうだな。だが、コトハ殿もその貴族の一員になったわけだからな。面倒を避ける技術を身につけることを勧めるぞ」

「・・・・・・カイトに任せる」

「えっ!?」


カイトに丸投げすると、驚いたような、呆れたような声と視線を浴びせられた。

それから、カイトもこれまで通りの呼び方でいいと伝えていた。



「・・・それで、今日は何の用?」

「うむ。2つほど提案というか相談というかな・・・」

「頼み?」

「ああ。まず、我が騎士団に属していた者が何名か、コトハ殿に仕えたいと申しておる」

「・・・はい?」

「筆頭はレーノだな。そしてレーノ以下、領都の南でコトハ殿と共に戦った騎士30名ほどが、コトハ殿に仕えたいと陳情してきた」

「えーっと、それはいいの?」

「通常なら、あまり好ましいことでは無い。騎士が主を変える理由に、喜ばしい理由はあまり無いからな。だが、今回はレーノたちの気持ちも分からんでもない。共に戦い、命を救われたのだ。コトハ殿に仕える機会があるのなら、仕えたいと思うのも不思議ではないわな」

「そうなんだ。バイズ・・・公爵は、いいの?」

「アーマスでいいぞ?」

「じゃあ、アーマスさんで」

「コトハ殿のが高位なのだから呼び捨てで構わんのだがな・・・」

「いや、さすがに結構年上のおじさんを呼び捨てはキツいって・・・」

「はっは。そういうもんか。コトハ殿は最高位の貴族なのだから、細かいことは気にせんでも問題ないがな。だが、他に人がいる場面では、呼び捨てか家名呼びをする方が良いぞ」

「分かった、ありがと」

「・・・それで、レーノのことだが。別に問題ない。もちろん優秀な騎士を失うことは痛い。しかし、コトハ殿のクルセイル大公領が我が領の南に誕生した以上、我が領がクライスの大森林の魔獣対策に必要とする戦力は減る。レーノはこれまで十二分に尽くしてくれたわけだし、本人の希望を優先することも構わないと考えておる」

「・・・・・・そっか。けど、私に仕えるって言われてもなー・・・」


私と一緒にいるのは、カイトたちとレーベルたち。『人間』の騎士が配下になるなど考えたことも無かったので、正直に言えば戸惑っている。

カイトとポーラは弟妹のような存在だし、レーベルたちは特殊だ。私がレーベルたちの安全や生活をわざわざ守ることをしなくても、3人は問題ない。しかし、『人間』の騎士を受け入れるとすると、私は彼らの命に、生活に、責任を負うことになる。

それを考えると・・・・・・



「コトハお姉ちゃん。レーノさんたちを受け入れるべきだと思うよ」


私が悩んでいると、カイトがそう言い出した。


「なんで?」

「だってコトハお姉ちゃんは大公なんだよ? 事情が特殊だとはいえ、ある程度の配下がいて然るべきだって。それに、これから森を開拓するんでしょ? なら人手は多い方が良いと思うけど?」

「・・・それはそうだけどさ。でも、私たちの生活って特殊だよ? 自分のことだし慣れたから気にしてないけど、クライスの大森林に住んでるって、おかしなことなんでしょ?」

「・・・確かにそうだけど」

「クライスの大森林に住んでいることについては気にせずとも良いと思うぞ。レーノたちもそのことは了解した上で、コトハ殿に仕えたいと申しておるわけだしな」

「・・・・・・そういうことなら、別にいいけど。でもアーマスさん。レーノさんたちが、森での生活に馴染めなかったら、バイズ公爵領の騎士団に戻ることを許してあげてね?」

「ああ、無論だ」


そういうわけで、レーノさんと騎士たち31名が私の配下になった。レーノさんや騎士たち20名には家族がいたので、希望すれば受け入れることにしたが、ひとまず公爵領の領都となった、この町での暮らしを続けることになった。戦いが専門の騎士たちと、普通の人たちではクライスの大森林で暮らす負担は大きく違うからね。



「それで、2つ目は?」

「ああ。この町の冒険者ギルドのギルドマスターが、コトハ殿との面会を希望している」

「冒険者ギルド?」

「ああ。この町の冒険者ギルドは、騎士団と協力してクライスの大森林の魔獣や、周辺に生息する多くの魔獣に対処していた。コトハ殿が今後、クライスの大森林を支配していくにあたっての影響を確認したいのだろう」

「・・・・・・なるほど。そういえば、私たちって冒険者登録したよね」

「うん。一度も依頼を受けたこと無いけどね」

「そうなのか?」

「うん。最初、身分証が欲しくてね」

「なるほど。落ち着いたら貴族の身分を証明する、身分証を発行する予定だ。今後はそちらを使う方が、トラブルも防げるであろう。2人は、冒険者として活動する予定はあるのか? カイト殿はともかく、貴族家の当主が冒険者として活動するなど聞いたことが無いがな・・・」「うーん、どうだろ。暇になったらするかも?」

「僕も、今はクルセイル大公領のために働くつもりなので」

「そうか。まあ、とりあえず、ギルドマスターに会ってはくれるか?」

「うん、会うよ」

「了解だ。使いを出すので少し待っていてほしい」





少しして、私とカイトの待つ応接室に、アーマスさんと、2人の男性が入ってきた。1人は、割とスラッとした、だが見えている顔や腕などに数多の傷があり、かすかに魔力を放っている白髪の男性だ。そしてもう1人は、見覚えのある、歩く筋肉。私たちが冒険者登録したときに、審査官をしてくれた、マーカスさんだ。


「待たせたな、クルセイル大公。こちら、この町の冒険者ギルドのギルドマスターである、ソメイン・ジェスラージュ。そして、筆頭冒険者のマーカスだ」

「本日はお時間をいただきありがとうございます。今、紹介いただきました、ソメイン・ジェスラージュと申します。この町の冒険者ギルドのギルドマスターをしております」

「同じく、筆頭冒険者のマーカスです。お久しぶりでございます」


白髪の男性、ソメイン・ジェスラージュさんは、髪の色の通りそれなりに高齢らしい。だが、どう見ても歴戦の戦士の風格がある。

一方のマーカスは、審査官の時の強そうな豪快な感じとは打って変わって、とてもおとなしい、静かな感じになっていた。


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