第117話:大公家
「さて、コトハ殿。貴族と、大公となるにあたっていろいろ決めてもらう必要がある」
「・・・それは、いいんだけどさ。バイズ辺境伯やカーラ侯爵は、戦争の準備しなくていいの?」
「ん? ああ。戦の準備は進めておる。こちら側の各貴族に、出兵を命じており、その準備が来週までに整うはずだ。それに先だって、この地に、代表格である高位貴族を集めておる。後、2人到着しておらんくてな。道中で盗賊に襲われたため、少し時間を要したと、伝令の早馬が昨日着いた。夜には揃うから、会議は明日行う予定だ。できればそれに、コトハ殿も参加してほしい」
「・・・いいけど」
「感謝する。その場で、コトハ殿のことを紹介する予定だが、それに先だって、コトハ殿の大公家の家名なんかを決めなくてはならんからな」
「なるほど・・・」
「とりあえず、家名や貴族籍に名を連ねる者、領の場所などを決めてほしい」
「分かった」
名前のことは拠点で、カイトから言われていた。貴族になるなら、家名を考える必要がある、と。一応私には、「ミズハラ」という前世からの名字がある。しかしこの名字に思い入れなんて無いし、むしろ変えたいくらいだった。
そこで、レーベルが昔仕えていた、古代『龍族』の最後の王、ガーンドラバル・クルセイルの名前を思い出した。一応私も、その『龍族』に連なる存在、子孫なわけで、「クルセイル」を家名とするのはどうかと提案していた。
この案には、カイトやポーラに異議は無く、レーベルは喜色満面、フェイやレビンも当然知っている名前らしく、賛成とのことだった。というわけで、家名はクルセイルに決めていた。
「家名は、クルセイルで」
「クルセイル?」
「うん。私のご先祖様の家名?みたいなもんなのよ。だから、クルセイルにする」
「承知した。幸い、同じ家名を名乗っている貴族は他におらぬし、問題ない。では、クルセイル大公、だな」
「うん。それでさ、貴族ってミドルネームあるでしょ?」
「ああ。ラシアール王国では貴族を表すものとして、『フォン』をミドルネームに入れるのが一般的だな。加えて、初代当主の名をミドルネームとして入れている家もあるな」
「なるほど・・・」
「コトハお姉ちゃん?」
「じゃあさ、ミドルネームにマーシャグって入れたらダメ?」
「「「え!?」」」
カイト、バイズ辺境伯、カーラ侯爵の声が重なった。
「お姉ちゃん、それって・・・」
「拠点でも話したけど、カイトはこれからも私の家族でいてくれるんでしょ?」
「もちろん。僕もポーラも、ずっと家族でいるよ?」
「ありがと。でも、そうするとカイトの家、マーシャグ子爵家を再興することはできない。だから、せめて私たちの名前に、『マーシャグ』っていうのを入れたらどうかなって思ったんだけど・・・」
「それは、嬉しいけど・・・。でも、クルセイル家はコトハお姉ちゃんの功績で誕生するわけで・・・」
「ううん。私だけじゃ無いよ。グレイムラッドバイパーを倒したのは私たち3人。目立ったのは私かもしれないけど、それは間違いない。それに、そもそもバイズ辺境伯と交流を持ったのだって、あのときカイトが『助けたい』って言ったからでしょ? 私だけだったら、助けずに帰ってたと思う。あの時は、侵略者サイドだったんだしね。それを助けて、縁を繋いだ功績はカイトにある」
「なるほど、道理だな。それに元を辿れば、マーシャグ子爵がカイト殿とポーラ殿にきちんと教育を行い、2人を素晴らしい人物に育てていたから、そしてマーシャグ子爵が素晴らしい貴族であったから、今の関係があるわけだな。名前の使用禁止も今更だろうし、君らの素性がバレても、困ることなど無い」
「・・・・・・・・・・・・」
バイズ辺境伯のフォローにカイトは暫し、黙り込み、考えてから、
「分かった。コトハお姉ちゃんがいいなら、是非名前を入れてほしいです」
「うん。じゃあ、フォン・マーシャグ・クルセイルだね」
「承知した。正式に貴族となるのは、我々が建国を宣言した日になるが、これからはコトハ・フォン・マーシャグ・クルセイルと名乗ってもらうことになる。それと、今更だが、貴族籍に入るのは、コトハ殿、カイト殿、ポーラ殿の3人でいいのだな?」
「・・・・・・ごめん、そもそも貴族籍って?」
「ああ、そうか。貴族は基本的に血縁だ。養子を貴族と認めるかは国による。そしてそれを管理するのが、貴族籍だ。貴族には様々な特権が与えられ、義務がある。それらを管理するために、王宮や王都に専門の部署があり、国中の貴族を管理するのだ。新たに子が産まれれば貴族籍に登録し、亡くなれば外す。基本的に数に制限はないが、余りに多いと調査が入ることもある。コトハ殿とカイト殿、ポーラ殿の間に血縁関係が無いことは承知しているが、この際そこは気にしない。コトハ殿だけでもいいし、3人でもいいが・・・」
「じゃあ、3人で」
「で、あろうな。後は、子を授かったときには登録してくれればいい。新国家は養子を認める予定だから、養子を迎えた場合もな。あまりにも多いと困るが」
「了解」
「後は、結婚した場合だな。基本的に女性は、嫁ぎ先の貴族籍へ所属が移る。例外が、後継の場合だ。子が女性しかおらず、婿を取ってその婿や女性が当主となる場合には、婿となった男性側の所属が移る」
「分かった。今更なんだけどさ、女性の当主もいるの?」
「数は少ないがな。現在のラシアール王国だと、1つの子爵家と、2つの男爵家の現当主が女性だったはずだ。基本的に、爵位が高い貴族ほど、男性を当主に据えようとする」
「なるほどねー」
まあ、この世界ならそんなもんでしょ。前世みたいに、男女平等なんて概念として存在していないわけだしね。私も別に気にしないし、そんな思想を持ち込むつもりもない。というか、私は女性の大公家当主になるし・・・
今更だが、私って生物的にも女性でいいんだよね? さっきも、「子を授かったとき」とか言ってたけど、その可能性ってあるんだろうか・・・
私には無理でも、カイトやポーラは、結婚して子どもができる可能性は十分にある。少なくとも、私よりは『人間』に近いわけだし。
というか、よく考えたら、そういうのも面倒よね・・・
「ねえ、貴族の結婚のルールって?」
「特殊なことはない。貴族だろうが、平民だろうが、一夫多妻が認められている。まあ、平民で一夫多妻をするのは、金持ちの商人くらいだろうがな。貴族にも、妻を1人しか娶らない者も多い。貴族にとっての結婚は、他家との繋がり強化と、世継ぎの誕生が優先目的だが、逆にそこに心配が無ければ、ある意味自由だ」
「なるほどね・・・。じゃあ、他家との繋がりに興味が無くて、自分らが長生きだから世継ぎに興味も無い私たちは、自由ってことね」
「ああ、そういうことか。コトハ殿の言うとおりだ。確かに、コトハ殿はもちろん、カイト殿やポーラ殿に縁談を申し込もうとする輩は多いだろうが、基本的に大公家相手に下手な真似はできない。軽く断るか無視すれば、それ以上は深追いしてはこんよ」
それなら心配ないか。カイトはイケメンだし、ポーラはかわいい。特に、進化してその容姿の、言葉では表しにくい品格というか美しさが増していた。加えて、高位貴族となれば、面倒一直線な気がしたが、その心配はあまりなさそうだ。2人には、自由恋愛で相手を見つけてもらいたい。
・・・・・・けど、私たち3人は正確には分からないけど長寿なわけで、必ず相手を看取ることになる。場合によっては、自分の子や孫、その先の子孫を看取る可能性もある。そのことは十分に理解しておく必要があるかな。
「まあ、貴族の細かいルールは、その都度聞くか、カイトに教えてもらうよ。とりあえず、私とカイト、ポーラの3人を、クルセイル大公家に属するってことで登録してもらおうかな。続柄は・・・・・・、姉弟妹ってことで」
「相分かった。その様に手配しよう」
「・・・それと領地は、クライスの大森林でしょ?」
「うむ。今すぐとは言わんが、少ししたらどの程度の範囲を支配下に置いているかを確認したい。自国の範囲を特定するためにもな。戦争が終わり、建国関連のゴタゴタが済んだらで構わんから、ある程度の目安を教えてもらいたい」
「分かった。少し広げようと思ってたし、そのときになったら伝えられるようにしておくよ」
「よろしく頼む。では、本日はこれで。部屋を用意しているので、そこで休んでくれ。明日の午前中に、集まった貴族への詳しい説明をするので、その後、昼頃に会議に参加してほしい」
「了解」
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