第99話:領都防衛1

「来たぞ! 戦闘用意!」


ファングラヴィットの接近を認識し、レーノさんの命令が下る。

陣地を形成し始めてから、それなりに時間があったので、準備万端だ。


第3部隊の面々は、散開し討ち漏らしが無いようにする。

この場における敗北事由は,魔獣を討ち漏らし,領都方面へ進まれることなのだ。

私たちは、第3部隊の面々よりは前に出て、とにかく数を減らす。

私とポーラは、石弾の弾幕を張る。

カイト、シャロン、マーラとスティアは遊撃で、1羽でも多く、ファングラヴィットを始末する。





ファングラヴィットが迫ってきた。

ふと思いつき、『竜人化』を発動しつつ、オーラを全開にする。

ゴーレム作りの際に、体内の魔力の流れを意識しコントロールできるようになったおかげで、オーラのコントロールも上手くなった。

前までは、『身体装甲』で覆わなければ、オーラを封じ込めることができなかったが、それをしなくても出し入れ自由になったのだ。


普段森では、オーラを振りまくと一定期間は魔獣が寄りつかなくなる。

それを期待してのことだった。

しかし、私のオーラよりも、魔道具の効果が強いらしく、100羽のファングラヴィットはほとんど欠けることなく、突進を継続していた。


「くっそ。逃げていってくれないか・・・」

「お姉ちゃん、オーラ出したの?」

「・・・うん。けど、意味なかったみたい」

「・・・そうだね」

「こいつらはまだ序の口だろうし、なるべく後ろに行かさないように、仕留めるよ!」



私がそう言うと、2人は深く頷き、戦闘態勢にはいった。

私とポーラの周りには、無数の石弾が展開される。

カイトは『身体強化』を発動し、巨大化したシャロンと、全速力で突撃するマーラ、スティアと一緒に、突撃していった。



私とポーラの放った石弾は、突進してくるファングラヴィットを両翼から撃破していく。

突撃した、カイトは、1羽1羽確実に急所を攻撃し、絶命させていく。

シャロンはファングラヴィットの中心で風の刃をばらまき、マーラとスティアは真っ直ぐに突っ走り、走路上のファングラヴィットを轢き殺し、踏み潰していく。


たった100羽ごときでは、まともな戦いにもならず、10分そこらで、片付いた。

結果、1羽たりとも、後ろに行かせることはなく、第3部隊に戦闘の機会を与えることはなかったのだった。





 ♢ ♢ ♢

〜レーノ視点〜





「・・・・・・凄まじいな」


目の前で起こった戦闘の様子を見ながら、そんな言葉が漏れた。

コトハ殿たちや、連れている従魔の魔獣たちが強いのは分かっていたが、正直、想像の遥か上だった。


多数の敵を同時に対処できるコトハ殿とポーラ殿。1羽ずつだが確実に撃破していくカイト殿。直線上に死体の山を築くマーラ殿とスティア殿。敵の中心で四方八方に攻撃を振りまくシャロン殿。

100羽という恐ろしい数のファングラヴィットを全滅させるのに、時間はかからなかった。


何度もファングラヴィットと戦った経験があるとはいえ、群れを成して突進してくるのでは話が違う。

当然、騎士たちにも恐怖の色が見えた。

そのため、「我々が領を守る最後の砦だ!」、「我々に民の命が掛かっている!」と、必死に鼓舞し続けたのだが、それ以前の話であった。



「レーノ様。ファングラヴィットは全滅したようです」

「その様だな。何名か送って、状態が良い個体は回収させろ。それ以外は、コトハ殿に頼んで焼却処分を。それから、アーマス様へ伝令を送れ」

「はっ!」



魔獣撃退後の処理も、既に話し合い済みなので、問題ない。

今後のことを考えれば、ファングラヴィットの素材は必要だ。

場合によっては、ランダル公爵率いる旧ラシアール王国軍、ジャームル王国軍との戦争になるのだから、戦力強化は欠かせない。


この戦争にも、コトハ殿たちが参戦してくれたら、とても助かるだろう。それに、ジャームル王国の貴族の屋敷に簡単に侵入し、調査活動をしたというレーベル殿に頼んで、ランダル公爵を秘密裏に処理できたら、戦争にならずに済むかもしれない。


しかし、この考えは、アーマス様が明確に否定していた。

コトハ殿たちには先の遠征で多大なる迷惑をかけている。にも関わらず、我々を助け、その後も交流を継続してくれた恩がある。

そして、カイト殿とポーラ殿。2人の家族は、ラシアール王国により殺されたのに、そのラシアール王国を救うための助力を求めるなど論外である。

オリアス団長含め、領の幹部はその意見に完全に賛成であり、コトハ殿たちに、こちらから助力を求めることはしないとの決定がされていた。

・・・・・・そもそも、領都の防衛を手伝ってくれているだけで、一生をかけても返すことのできない恩を受けているのだからな。





指示を出し終えた、第3部隊長が、


「それにしても、コトハ様方は凄まじいですね。最初、クライスの大森林に住んでいると聞いたときは、にわかには信じられませんでしたが、あの光景を見れば、嫌でも信じてしまいますな。防壁を構築された際も驚きましたが、それ以上ですね」

「・・・・・・ああ。あの程度の数では相手にならんようだな。だが、数が増えれば、当然討ち漏らしも出てくる。それに、ファングラヴィットよりも強力な魔獣が出現した場合には、コトハ殿たちにはそちらを対応してもらう必要がある。皆に再度気を引き締めるよう注意せよ」

「はっ!」



第3部隊では、ファングラヴィットに対処するのが限界だ。

そもそも、ファングラヴィットに対処できるというだけで、ラシアール王国では精鋭中の精鋭なのだ。

コトハ殿曰く、クライスの大森林にはフォレストタイガーはもちろん、それ以上に強い魔獣も生息しているらしい。

それらが攻めてきてからが、本番よな・・・・・・





 ♢ ♢ ♢



最初の襲撃は、あっけなく終了した。

ファングラヴィットは数え切れないくらい倒してきたし、今更苦労もしない。

騎士たちが、何羽かの状態の良い個体 —たぶんカイトが殺した個体— を回収したので、残りを燃やしてしまう。

私やポーラが仕留めた個体は、体中穴だらけだし、マーラやスティアが踏みつけた個体は、文字通りグチャグチャだ。

シャロンはおいしくいただいているしね。



後処理を終えて、一度陣地まで戻ろうとしていたとき、再び土煙が見え始め、大きな足音が聞こえてきた。

・・・・・・第二陣かな?

そう思い、音のする方向を見ると、先程と同じく、100羽近いファングラヴィットが向かってきているのが見えた。


・・・まあ、それはいい。

今回は別の参加メンバーもいたのだ。

ファングラヴィットが走っている上空を埋め尽くす黒い影、100頭近いツイバルドが飛んできているのだ。



「・・・・・・あれは、まずくない?」

「ツイバルドだよね。100頭くらいいる?」

「・・・うん。ツイバルドを騎士団に任せるわけにはいかないよね・・・」

「だと思うよ。魔法を使える人でも、飛び回ってるツイバルドに、魔法を当てるのは難しいし、数も多いから」

「だよねー・・・・・・」


仕方がない。

アイツらは、空中にとどまり、地上目がけて突進しては空中へ戻るという、ヒットアンドアウェイを得意とする。

また、上空から風の刃を乱射することもある。

そのため、シャロンみたいに空中にも突進できるか、私やポーラのように空中にも魔法で攻撃できないと、対処が難しい。

第3部隊が精鋭とはいえ、『人間』である彼らでは、そこまで魔法を操ることはできないし、もちろん飛ぶこともできない。



「マーラとスティアは、好きに突撃させるとして・・・、カイトは騎士団のとこまで戻って、一緒に戦って! 私とポーラ、シャロンで、ツイバルドの相手をするから!」

「了解!」


カイトは後ろへ下がった。

一方で、マーラたちは突進していく。

・・・・・・あの子たち、本当に突進好きよね。



「ポーラ、シャロン。うるさい鳥を、叩き落とすよ!」

「はーい!」


ポーラが元気よく声を上げ、シャロンが「了解!」とでも言うように吠えた。


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