第98話:防衛準備
王都から急ぎ帰ってきた騎士から聞いた話によれば、王都では大きな戦闘は起こらなかったようだ。
圧倒的な数のランダル公爵軍の前に、王都を守護していた王宮直属の騎士団は、軽く戦闘を行った後に降伏したらしい。
ランダル公爵と敵対している貴族の屋敷には、公爵軍が押し寄せていたようで、王都にあるバイズ辺境伯の屋敷も攻められたそうだ。
ラムスさんは、それを読み、ランダル公爵軍が王都を包囲した時点で、王都を脱出する準備を整え、王都に突入した際のゴタゴタに乗じて、脱出を図ったらしい。
国王含め王族の安否は不明なようだった。
「・・・・・・やはり、我らにできることはないな。オリアスよ、ラムスたちを回収後、少数の監視部隊を残して、王都方面より撤退せよ。我が領の境目まで下げて、防衛陣地を構築せよ。ランダル公爵軍や通じておるジャームル王国の軍が南下してくる可能性に備えるのだ」
「はっ!」
バイズ辺境伯領の領軍の召集に数日はかかるらしい。
それまでは、領都に常駐している騎士団のうち、ラムスさんを救出に向かった部隊以外の部隊を、周辺に展開させる。
私たちは、領都の南側、クライスの大森林の方面に陣取る部隊 ―第3部隊というらしい― に同行することになった。
バイズ辺境伯が私たちをこの部隊に付けたのには理由があった。
第3部隊は、対魔獣・魔物の専門であり、バイズ辺境伯領軍の中でも特に重要な役割を担っており、魔獣や魔物の相手を得意としているらしい。
定期的に、クライスの大森林周辺を見回り、ファングラヴィットを数人で倒したことが何度もあるとのことだった。
そして、私の提供した魔獣の素材を用いた武具を最初に供与され、身に付けている。
今回、その提供元が私たちであると伝えられたのだ。
その結果、第3部隊の皆さんは私たちを快く受け入れてくれた。
元より、バイズ辺境伯の命令に異論など無かったらしいが、私たちの提供した魔獣の素材を用いた武具のおかげで、任務の成功率も上がり、死傷する騎士の数が大きく減っていたため、感謝の気持ちが強いとのことだった。
そして、クライスの大森林の魔獣や魔物を狩ることができる私たちであれば、この非常事態に共闘するのに、異論など無いとのことだった。
そうして、私たち3人は第3部隊の皆さんと、そして騎士団の副団長であるレーノさんと一緒に、領都の南側に展開した。
第3部隊は、急いで駐屯するための陣地を形成し始めた。
今回の作戦において最も厄介なのが、要する時間が分からないことだ。
クライスの大森林や森と領都の間にどれほどの数の魔獣や魔物が生息しているのかは分からない。
ただ、これまでの経験から、かなりの数生息していることは間違いない。
そして、ヤツらは何らかの作戦ではなく、魔道具におびき寄せられた結果、ある種の本能的に攻撃してくるわけで、王都でのゴタゴタが終わっても、魔道具の効果がある限り、攻撃してくるだろう。
結局、領都やその周辺に設置されていると思われる、魔道具を全て見つけ、破壊するまで、ここでの防衛は続く。
バイズ辺境伯が、必死に領都の中を調べさせているが、かなり広い領都の中を調べ終わるのにどれほどの時間がかかるかは分からない。
そんなわけで、防衛戦は長期戦になると思われていた。
というわけで陣地の形成をしていたのだが、レーノさんが、
「コトハ殿。頼みがあるのですが・・・」
「何? こっちから協力を申し出た以上、できる限りのことはするよ?」
「かたじけない。コトハ殿の家を囲っていた防壁。あれを構築することは可能ですか?」
「防壁? できるよ?」
「本当ですか! であれば、陣地を守るための防壁の構築をお願いしたい。騎士団にも魔法を使える者はおるのですが、効果的な防壁を短時間で構築するなど不可能でありまして・・・。それに、領の魔法師団は、領都内で魔道具の捜索に当たっていますので・・・。いや、そもそも魔法師団であってもあれほどのものを構築するなど不可能なのですが・・・」
「了解。どこに、どういう形のものを作ればいいか、指示してくれる? ポーラと一緒に作るから」
「ポーラ殿も作れるのですね・・・・・・。承知しました。すぐに、調整して参ります」
そう言って、レーノさんは第3部隊の人たちが陣地を作っている場所へ走っていった。
ちなみに、カイトも『土魔法』を使うことはできるが、防壁のような巨大な物を作るのは得意ではない。
おそらく魔力量の問題であろう。私とポーラには、『魔法能力』のスキルもあるしね。
逆に、私やポーラが苦手な、細かい作業や、装飾を施すといった、丁寧な神経を使う作業は、カイトの方が得意だったりする。
そのため、拠点の家具や食器などは、買ってきた物以外はカイトのお手製だ。
第3部隊が作っていた陣地の周りに、防壁を構築していく。
魔獣や魔物が襲ってくると予測される南側に向かって、緩やかな弧を描くように、防壁を作っていく。
防壁の主目的は、魔獣や魔物の突進を防ぐことにある。
そのため、小細工はせずに、とにかく硬く強靱であることのみを意識して、防壁を構築していく。
ポーラと構築する場所を分担しながら、陣地のある場所を含めて、かなりの広範囲をカバーできる防壁を構築した。
防壁を全体としてみると、領都のある場所を中心に、クライスの大森林から出てくる魔獣や魔物は必ずこの防壁に引っかかるようになった。
もちろん、魔獣や魔物が魔道具におびき寄せられて、領都を目指して猛進してくるとはいえ、防壁を見つけると迂回する可能性もあるが、領都全体を覆うことなど不可能であるし、防壁の周辺で騎士団や私たちが迎撃すれば、大多数の魔獣や魔物を、引きつけることができると思う。
♢ ♢ ♢
私たちと第3部隊が領都の南へ展開して3日が経った。
まだ、魔獣や魔物の大規模な襲撃は発生していない。
少数のナミプトルの群れや、『タンダム』という名の狼型の魔獣の群れの襲撃はあった。
もっとも、どちらも第3部隊を含むバイズ辺境伯領の騎士団が日頃から対処している魔獣のようで、問題なく処理しており、私たちは見ているだけだった。
・・・・・・エサだと認識したシャロンが、巨大化して群れに突っ込み、ムシャムシャ食べていたけれど。
王都の状況は、未だよく分かっていない。
ラムスさんや部下の人たちは無事に保護され、領都へ戻っている。
それにジャームル王国が、ランダル公爵の領地付近から侵入し、東の海を目指して、いくつかの領主を打ち破ったとの情報を得ているらしいが、詳しくは分かっていない。
ただ、一度様子を見に来たバイズ辺境伯は、すでにラシアール王国が陥落したものと考えているようで、ランダル公爵軍、ジャームル王国と今後どのように関わっていくかを考え始めているらしい。
そのため、バイズ辺境伯領の北側に騎士団の別部隊や、召集された領軍を多く派遣しており、ここでの対応は、第3部隊に委ねられることとなっていた。
これは私たちも納得している。
魔獣や魔物から領都を守る重要性が高いといえども、半端な者では邪魔になるだけだった。
それこそ、常日頃から魔獣や魔物と戦っている第3部隊のような精鋭はともかく、召集された兵士では、為す術無くエサになるだけだった。
それならば、かなり広い領の境界線を監視すべく、北側に配置する方が有用だと考えたのだ。
加えて、クライスの大森林以外の場所からも魔獣や魔物が領を目指して攻めてくる。
その備えも必要だったのだ。
そうして、陣地で警戒して過ごしていたのだが、クライスの大森林の方角に、土煙が上がるとともに、大きな足音、そしてよく聞く鳴き声が聞こえてきた。
目を凝らして見てみると、100羽近いファングラヴィットが、こちらに向かって猛然と走って来るのが見えた。
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