第77話:辺境伯の依頼

従魔なのを隠していたのは、従魔契約が珍しいからだ。

別にバレたからといって、大きな問題になるわけでもない。


「それで、マーラが私の従魔なのはその通りだし、見つけたときは鎧を身につけていたから、軍馬なのもその通りだよ。でもカイトが言うには、描かれていた紋章は、ラシアール王国のものじゃないみたいだけど・・・」

「おそらく、スレイドホースを保有していた貴族家の紋章であろうな。どんな紋章か分かるか?」

「うーんとねー、緑色の鳥みたいな紋章と白い虎みたいな紋章があったのは覚えてるけど・・・」

「・・・なるほど」


バイズ辺境伯はそう言って、ボードさんを見た。

するとボードさんが、


「前者は旧ペラス子爵家、後者は旧ビアス伯爵家の紋章かと思われます」

「・・・であれば気にする必要は全くないな。ともに取り潰されたからな」

「・・・そっか。それは朗報だね」

「そうだな。でな、この話を始めたのには、理由があってな。端的に言えば、コトハ殿に依頼したいことがあるのだよ」

「・・・依頼?」

「うむ。森でスレイドホースを見つけたら、保護して連れてきてほしいのだ。そして買い取らせてほしい」

「・・・・・・買い取る?」

「ああ。スレイドホースは貴族であってもそう簡単に購入できるような魔獣ではない。絶対的な数が少ないし、ラシアール王国だけでなく、ジャームル王国やダーバルド帝国も欲しがるからな。ラシアール王国では王家直属の軍の他に、各貴族が保有している軍がある。今回の遠征ではレンロー侯爵家を中心とした貴族家の軍が多く投入され、8割・・・・・・というか、バイズ辺境伯領所属の軍以外がほとんど全滅した。そして全滅したのは人だけではない。馬も失ったのだ」


馬を与えられている騎士や兵士は、自分の馬に乗って森へと入った。

その馬は、動物の馬もいればマーラたちスレイドホースもいた。


森へ入った馬は、兵と一緒に魔獣に襲われ、散り散りになった。

当然、既に食われた個体もいるだろうし、マーラたちのように生き延びている個体もいるだろう。

バイズ辺境伯の依頼は、生き残っているスレイドホースを見つけたら、捕まえてきて欲しいってことか・・・


「どれほどの数が生き延びておるか分からない。だが1頭であっても貴重なスレイドホースを回収できるのであれば、回収したいのだ。スレイドホースの数が戦力に直結はしないが、不可欠な存在だからな・・・」

「・・・うーん、了解。スレイドホースって森の中では弱い存在だから生き延びている見込は薄いけど、見つけたら保護するよ」

「感謝する。値段は言い値で払う故、頼む」





スレイドホースに関する頼みも聞いて、今度こそ終了かと思ったら、バイズ辺境伯が「最後に」と話し始めた。


「今回の遠征の失敗で、幸か不幸かラシアール王国に巣くうバカを概ね排除できた。国王陛下も次期国王となる第一王子殿下も聡明な御方であり、再度の遠征は計画されないであろう。その意味ではコトハ殿に害を及ぼす可能性は極めて低くなった」

「・・・・・・でも?」

「・・・ああ。後1人、宰相を務めるランダル公爵。彼が何か企む可能性がある。公爵であり宰相の地位にあることから、私であってもコントロールすることは難しい。実際、今回、救出軍を編成し森へ入ったのは彼の命令によるものだが、そのことを国王陛下に訴え、公爵の責任を追及することはできなかった。というより、先に手を回されていた・・・」


なんでも、バイズ辺境伯が命がけで回収してきたクソ王子の武具などについて、公爵が回収を命じた点が評価されているらしい。

国王も本当に称えるべきなのが誰であるかは分かっているとは思うが、宰相であり公爵であるランダルと揉めるのを嫌がり、公式にランダルへ感謝したとのことだ。


「そのランダルが何かを企むの?」

「可能性の話だ。だが彼が権力と富に執着していることは有名な話だ。クライスの大森林を狙って、自己の軍や派閥の軍を派遣してくる可能性は否定できない。もちろんその軍も、今回遠征に参加した軍と、強さの程は似たものであり、長くは保たんであろうがな・・・」

「・・・うーん、なるほど。鬱陶しいし、来たら潰すけど、そんだけ弱いならあんま気にしなくてもいいかなー。一応覚えておくね」

「ああ。こちらも何か分かったら知らせることとしよう」





バイズ辺境伯との話が終わった頃にはお昼時を過ぎていた。

昼食に招待されたので、ご馳走になる。

貴族と聞くと豪華な食事をイメージするが、そういうわけでもなく、シンプルな感じだった。とはいえ、味付けや組み合わせにこだわったもので、とても美味しかった。


食事中は、ラムスさんから森の中についての質問をいくつか受けたので、答えられる範囲で答えておいた。

なんでもラムスさんは、領地の運営や貴族とのやり取りなどが得意な文官タイプで、武の方は全然ダメなのだとか。


父であるバイズ辺境伯は、武の方が得意なタイプで、領地の運営はボードさんの補佐を受けながらなんとかやっているらしい。貴族とのやり取りは大嫌いなのだとか。

この前の拠点での会話といい、今日の会話といい、バイズ辺境伯は結構強かで、油断できない感じだったけど、あれで苦手なの?

それともボードさんと打ち合わせ済み?

・・・だとしても、前回のは完全に偶然だから、やっぱ強かだよね・・・



昼食をいただいた後は、次回の情報のやり取りについて取り決めをして、屋敷を後にする。

といっても、大体3週間後に、私が再びここを訪れるという約束をしただけだ。

今後どうなっていくかはともかく、私はしばらくの間、定期的に町に来て、町を散策しようと考えていた。

なので、ついでに寄ることも問題ないのだ。



 ♢ ♢ ♢



厩舎でマーラを回収し、屋敷の門を出た。

町中を馬に乗って歩くことは問題ないらしいので、マーラに乗って移動する。

・・・さっきから「乗れ乗れ」って圧が凄かった。


今日の午後と明日は町で用事や散策をして、明後日森に帰るつもりだ。

今回はリンを連れてきてはいないが、マーラがある程度なら乗せて歩けるし、最悪私は歩けばいいので、野菜や調味料を買って帰る。

なので、まずはトレイロ商会を目指すことにする。



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