第62話:侵攻の結末1
クソ王子が死ぬのを目撃してから、2週間が経った。
定期的に森を見回ってはいるが、あれ以来、生きている者に出会ったことはない。
数回、人の残骸や、血溜まりを発見はしたが、それだけだ。
レーベルやカイト達も、誰も見ていないという。
もう侵攻は終わったのかな?
一度、森の入り口付近に行って確認してきた方がいいかも?
あまり変わらぬ生活をしているとはいえ、レーベルがほぼ無休で見張りをしてくれているし、カイト達の特訓も中止されたままである。
できたら、そろそろ警戒態勢を解除して、前の状態に戻りたい。
それにもう一度町にも行きたい。
この前買った、食材や調味料を補充したいし、結局できなかった町の散策もしたい。
まだ敵がうろついてるかもしれないし、今回は1人で行くかなー
今回は、一度行った町に、行くだけだし、冒険者登録もしてあるから町に入るのも簡単で、揉めることもないだろうから、カイトも安心してくれる・・・・・・よね?
「・・・ねぇ。一度さ、森の入り口の方まで偵察に行って、町に行ってこようと思うんだけどさー」
そう言うとカイトが訝しげに、
「それって・・・・・・、報復しに行くの?」
そう聞いてきた。
「・・・・・・へ?」
「この森に侵攻してきた報復をしに行くってこと?」
カイトさん・・・?
なにを物騒なことを言ってるの?
「い、や? 単に偵察と、買い物をしに行こうかなーと・・・・・・」
「あ、なるほどね。てっきり、森に侵攻してきた報復として、この間行った町を滅ぼしにでも行くのかと思ったよ・・・」
「ポーラもやるー!」
「・・・いや、ポーラ? そんなことしに行かないからね? 買い物しに行くだけだよ?」
ポーラまで・・・・・・
「コトハ様。まだ侵攻が開始されてから3週間ほどと思われます。森の入り口からの距離を考えますと、まだ森の中にそれなりの規模の部隊が残っている可能性があります。その中で、町を目指すのは、危険かと。現状、我々がここに住んでいることを知られるのは避けた方がよろしいかと思われますので」
確かに。
未開の森で、ただ陣地を広げたり、西行きの道を作ったりするのと、私たちの拠点を目指して進軍するのでは、その危険性や効率が大きく異なる。
今、この拠点を知られると、攻撃目標になりかねない。
何度か兵士達の残骸をみつけて、持ち物を調べたところ、水晶玉のような球体を携帯していることが多かった。
その球体は何か、嫌な気配を感じるものであり、レーベル曰く体内の魔素や魔力に干渉するような魔力が込められているらしい。
説明を聞いても仕組みはよく分からないが、要するにこれがあれば魔獣や魔物が近づかなくなるらしい。
もっとも、それは森の外の話だ。
この森の魔獣や魔物は、森の外の連中に比べて、魔素への親和性が高い。そのため、この水晶玉に込められている程度の魔力では十分に干渉することができず、せいぜい不快に感じる程度だ。
普通に弱かったラシアール王国の兵士がこの森に大群で押し寄せてきたのは、この水晶玉を持っていたからだと思う。
カイトの話では、『人間』は魔法をあまり使えないため、その研究なんかもあまり発展してはいないらしい。
そのため、森の中の魔獣に効果が無いこの水晶玉の効果を過信して、森に入ってきたのであろう。
・・・使う前の実験とかって当然だと思うんだけど?
新しい兵器とかって何度も何度も実験して、改善してから実用化しない?
まあ結局、ラシアール王国軍は、完全に無防備なわけだ。
その中で、一応塀に囲まれている拠点を見つけたら・・・・・・、まあ、占拠しようって思うよね・・・
そうすると、この拠点のことを知られるわけにはいかないか、面倒くさいし・・・
これまでにこの拠点の近くで、死体を含めて兵士を見たことはないから、見つかってはいないと思う。
なので迂闊に森の外へ出て、この森の中に住んでいることを知られたり、拠点の場所を悟られたりする行動は避けるべきかな・・・
そういうわけで、今日も拠点の周辺の見回りをする。
ポーラがレーベルと料理をしているので、カイトと一緒に行くことにする。
もう拠点の周りは地理も大分把握できており、迷うこともない。
カイトやポーラも十分に強くなっているので、単独行動も可能だが、ポーラを1人で森に出したことはない。
これはポーラの安全のため・・・・・・・・・、ではない。
ポーラは、カイト曰く私に似てきたらしく、容赦せずにぶっ飛ばすタイプだ。
そして、力をつけてきたばかりで、加減ができない。
なので、戦いになると相手を跡形もなく消し飛ばしたうえに、周囲の地形も大きく変えてしまう。
私たちの存在をあまり知られたくない現状、それは困るのだ。
いつも通り森の見回りを行い、いくつか戦闘痕を見つけたが、それ以外に異常は無かった。
ここ最近は、『竜人化』して戦う機会もあまりないので、オーラを振りまくことが少ない。
そのせいで、ファングラヴィットやフォレストタイガーが拠点の周りに帰ってきている。
まあ今更、脅威になるわけもなく、むしろ食料が近くに住んでいるだけありがたい。
そうしていると、木の幹にもたれかかり、肩で息をしている少し豪華な鎧を身につけた男性と、その周囲で男性を守るように警戒している、4名の騎士を発見した。
5人とも装備はボロボロで、遠目に見てもそれぞれ複数の怪我をしていることが明らかだ。
どうしたものかな・・・
ほっといたら魔獣に襲われて死ぬとは思う。
ただ、ここは結構、拠点に近いのだ。
彼らが逃げているうちに、拠点にたどり着いてしまう可能性が高い。
まあ、拠点の場所から誰も森の入り口へは生きて戻ることはできないと思うので、あまり気にしなくてもいいのだが・・・
そう考えていると、カイトが、
「お姉ちゃん。あの真ん中で休憩している人、知ってると思う・・・」
「・・・ん? 知り合い?」
「知り合いっていうわけではないんだけど・・・。昔、挨拶をしたことはあると思う。確か、父がお世話になっていた人だったと思うけど・・・」
うーん・・・・・・
ということは貴族かな?
まあ、豪華な鎧付けてるし、それは納得かな。
「・・・それで、カイトは助けたいの?」
まあ、問題はそこだ。
カイトが助けたいなら、助けるのは構わないが、当然リスクもある。
助けるということは拠点へ案内することに繋がる。
そうなると、いろいろ知られる。
その後で、確定的に敵になったら、積極的に手を下さなければならなくなる。
今なら、見て見ぬふりの放置で済むのだ・・・
「・・・・・・う、ん。助けてもいいなら助けたいかな。ラシアール王国の貴族ってだけで、僕の家族を殺した一味ってわけではないからさ。昔、父がお世話になった人なら、助けるのが恩返しになるのかなって・・・」
「・・・そっか。了解」
いろいろ知られることになるけど、まあしょうがないか。
カイトの言いたいことも分かるし。
最悪、私とレーベルで処理しよう・・・
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