第61話:クライスの大森林への侵攻5
〜カイト視点〜
ラシアール王国第二王子ロップス、ラシアール王国侯爵レンロー。
この2人が死亡したことを、お姉ちゃんとレーベルが確認したそうです。
この2人が中心となった陰謀によって、両親や兄は殺されたそうです。
当時の生活が奪われ、ポーラと2人、カナン村へ送られたのは2年ほど前でした。
なにも分からないまま、辺境の村へ送られ、過酷な生活が始まりました。
その村でひどい扱いを受け、最終的には殺されるとこでした。
殺し方が川流しであったこと、運良く陸地に打ち上げられたこと、コトハお姉ちゃんに出会ったこと。
その全てが幸運であったと思います。
僕の中では、コトハお姉ちゃんに出会い、名前を付けてもらい、新しい生活が始まったことで、過去のことには区切りを付けたつもりでした。
クライスの大森林での生活は、思っていたよりも快適でした。
最初は、毎日が命がけだと思っていましたが、とても強いコトハお姉ちゃんが横にいて、安全な拠点を作って、強いレーベルも一緒に暮らすようになって・・・
僕やポーラも、おそらくラシアール王国に住む『人間』程度では敵にならないほど強くなっていると思います。
しかし、少し前に、事件の真相を聞きました。
もう終わったこと、そう思ってはいましたが、真相を聞いたときには、感情がぐちゃぐちゃになりました。
父親や兄が罪を犯したとは思っていませんでしたが、真相は思っていた以上にひどいものでした。
コトハお姉ちゃんが、僕の味方をしてくれると言ってくれたのは、とても嬉しかったです。
復讐したい、と考えなかったとは言えません。
目の前にいたら、殺していたかもしれません。
今の僕なら、確実に殺せるでしょう。
でも、結局、殺す前に死んだようです。
コトハお姉ちゃんやレーベルも、死んだことを確認しただけなようで、直接手を下したわけではないようです。
自分で殺すか、お姉ちゃん達が殺すか、それ以外で死ぬか。
どれが望ましかったのかは分かりませんが、これで良かったと思います。
2人は、自分の強欲さに身を滅ぼされたのです。
まさに、自業自得です。
何よりも大事なのは、家族、コトハお姉ちゃんにポーラ、レーベルとリンが無事であること。今の生活を守ることです。
それを守るためなら、誰を敵に回そうとも戦います。
それで十分です。
今はまだ、コトハお姉ちゃんやレーベルには遠く及ばないけれど、いつかコトハお姉ちゃんを守れるようになりたいです。
そのためにも、今は自分にできること、僕たちにできる仕事をこなしていきたいです。
♢ ♢ ♢
〜バイズ辺境伯視点〜
開拓軍がクライスの大森林へ入ってから7日が経過した。
これまで、森から出てきた者は皆無である
私は此度の軍事作戦には最後まで反対であった。
そもそも、クライスの大森林は我々の手に負える場所ではない。
生息する魔獣や魔物の強さは、周辺に生息する魔獣らの強さを遥かに上回る。
それに、森は広大で正確な広さはいまだに分かっていない。
加えて、最近の森には異変が起きていた。
森に生息している代表的な魔獣である、ファングラヴィットが森の外で頻繁に目撃されていた。
そして、そのファングラヴィットを追ってなのか、フォレストタイガーの目撃証言もでている。
うちの騎士や、冒険者ギルドのギルドマスターと度々意見を交わしたが、理由は分からなかった。
考えられるのは、森の中に新たな魔獣が住み着いた可能性や、森の中で食糧難が発生している可能性などだが、推測の域を出ない。
まあ、これらが事実であれば、すぐ隣にある我がバイズ辺境伯領としては、致命的なのは間違いないがな。
此度の作戦についての検討を重ねる段階で、当然ながらこのことは何度も指摘した。
これまで以上に謎に包まれ、危険が増していると思われるクライスの大森林に進軍するなどもってのほかだと主張した。
しかし、会議はロップス殿下とレンロー侯爵の描いた通りに進み、進軍が決定した。
しかも、その規模は総勢5000名を動員するという大規模なものとなった。
殿下たちは、開発した魔除けの魔道具を信頼している様だが、眉唾物である。
レンロー侯爵領の周辺の魔獣を相手に実験したというが、クライスの大森林に住む魔獣は強さの桁がちがう。
果たしてその実験結果が、信用できるのか・・・
そんな、私の危惧は、現実のものとなったと思われる。
計画では、3日以内に仮拠点となる場所を選定し、拠点の形成を開始する。
仮拠点と候補地を見つけることができたかどうかにかかわらず、複数の伝令を、部隊ごとに陣地に送ることとなっていた。
しかし、森へ入って7日経った今になっても、伝令の1人も戻ってはこない。
伝令が個別にやられた可能性もあるが、伝令も例の魔道具を装備する予定であるし、出される数も多い。
それが、誰もやってこない。
部隊自体が打撃を受けたのか、伝令が各個撃破されたのか不明だが、魔除けの魔道具の効果が想定よりも弱いことは間違いないだろう。
とすると、此度の軍事作戦は、その前提から誤りであったことになる。
どうにかして、森の中にいる殿下やレンロー侯爵、そして軍務卿のラッドヴィン侯爵と連絡を取りたいが、難しい。
もはや、魔除けの魔道具を身につけて森へ入れという命令は、死ねと命ずるに等しい。
上に立つ者である以上、その様な命令を出す覚悟はあるし、兵士にもその様な命令を受ける覚悟はあるとは思う。
しかし、森の中で部隊と合流し、状況を確認して、ここへ戻ってくるという任務が達成される可能性は皆無である以上、送り出した兵士は確実に無駄死にする。
この場所の兵力は、森から魔獣が出てきた場合に備えたものであるため、いたずらに減らすわけにはいかない。
となると、森の中に兵を送るわけにはいかない。
とはいえ、このまま待ち続けるわけにも・・・・・・
そんな、不安と焦りが高まっていた、進軍開始10日目、森から1人の兵士が出てきた。
急いで司令部に呼んで話を聞く。
兵士は右腕をおそらく骨折しており、身体中が擦り傷だらけだ。
数日間何も食べていないようで、衰弱しきっていた。
だが、いち早く話を聞かねばなるまい。
「・・・よく戻った。状況の説明をしてくれ」
「はっ! 私は軍務卿ラットヴィン侯爵の率いる部隊におりました。一言で申し上げれば、部隊は壊滅でございます。計画通りに魔除けの魔道具を装備し、安全地帯を広げておりましたが、魔獣どもは多少嫌そうにするだけで、大した効果はありませんでした。魔除けの魔道具を装備している兵から順に魔獣に襲われました。侯爵がどうなったかは分からず、生き残り数名で逃げましたが、追ってきた魔獣に襲われ散り散りに、その後他の者がどうなったかは分かりません」
言葉を失った。
予想はしていたが、報告として聞かされると、その重みが増す。
「・・・・・・・・・・・・そう、か。ここへは?」
「はい。魔獣の目を掻い潜り、木の上などをつたってなんとか森の外を目指しました。おそらく運がかなり良かったと思います・・・。途中で、多くの兵士が死んだのであろう血溜まりや残骸を見てきました。他の部隊も似たような結果になっていると思われます・・・」
認めたくはない現実だが、認めざるを得ない。
此度の遠征は失敗だ。
ラシアール王国は、4000名近い軍勢を失った。
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