第49話:冒険者登録をしよう
『剣と盾』は、店のおじさんが言ってたように、いい宿だった。
食事は美味しかったし、ベッドはフカフカだった。
家のベッドは、何度も改良を重ねて、日本の自宅のベッドと遜色ないまでにアップグレードできているが、やはりマットレスと布のシーツの上で寝るのは大違いだった。
是非とも入手しなくては・・・
宿代は4人で、金貨1枚。10万か・・・
今日は、まず冒険者登録をしに行こう。ギルドとか?
「冒険者登録はどこでできるの?」
「ん? 冒険者ギルドだよ。どの町にも基本的にあるんだ。この町は冒険者が多いし魔獣や魔物関連の依頼も多いから、あると思うよ」
「おっけー。じゃあ行こっか」
そう言ってから、お決まりの展開を思い出した。
冒険者登録をしに行ったら、ベテラン冒険者とかいうでっかい男に絡まれるアレ。
よくわからんけど、面倒くさいのはやだな。
1人で行こうかな・・・
「ねえ、冒険者ギルドへは1人で行くよ。カイト達はここで待ってて。絡まれても困るし・・・」
「え? 一緒に行くよ? お姉ちゃん1人で行ったら、ギルド壊れそうだし・・・」
「・・・・・・ん? なんで?」
「絡まれたら、容赦なくぶっ飛ばすでしょ?」
・・・・・・・・・やっぱ、カイトのイメージがひどい。
そりゃ、ぶっ飛ばすけど・・・
どうするかなー
「4人で行けばよろしいかと。絡んでくる愚か者は、いい勉強ができるでしょう・・・・・・」
レーベル・・・・・・
だから怖いって!
諦めて、全員で冒険者ギルドへ向かうことにした。
宿のフロントで、場所を聞いて向かう。
幸い、冒険者ギルドは宿のすぐ近くにあった。
冒険者御用達って言ってたもんね。
冒険者ギルドの建物は、この町で見た中でも大きい方で、多分3階建てかな。
どっからでもかかってこいやー!と、息巻いて、扉を開けると、奥にカウンターらしきものが4つ並んでいて、両サイドの壁にはなにやら、ボードのようなものがいくつか掛けられていた。
他には丸テーブルと椅子が何組かおいてあったが、それ以外は開けていた。
そして、絡んでくるベテラン冒険者はおろか、ほとんど人がいなかった。
正直、拍子抜け。まあ、面倒にならずに済んだってことで、良しとしておこう。
奥のカウンターにいき、受付のお姉さんに話しかける。
「冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは。冒険者登録がしたいんですけど・・・」
「登録ですね。みなさんですか?」
「いえ、私だけ・・・」
3人は付き添いです、と言おうとしたところで
「僕もお願いします」
そう、カイトが手を上げた。
「カイト? リンを登録するのは私だから、カイトが登録する必要はないんじゃ・・・」
「そうなんだけどさ。僕も正式な身分証ないし、今後のことを考えたら、登録しておいた方がいいかなーって」
「・・・・・・そう? まあ、いいけど」
今後のことって何?
そう、考えていると、
「ポーラも登録する!」
そう、ポーラが手を挙げた。
うーん。別に登録するだけならいいのかなー?
・・・でも、登録したら、なんか義務とか発生する?
魔獣討伐に参加しろ!とか。ポーラなら倒せるだろうけど、できれば必要以上に危険なことをさせたくはない・・・
「・・・えっと、ポーラちゃん?は、いくつかな?」
「6歳だよ!」
「ごめんなさいね。登録できるのは10歳からなのよ・・・」
「えー・・・」
「ポーラ。10歳になったら、登録しに来ようよ。ね?」
「・・・・・・はーい」
ポーラは、渋々といった感じで、了承してくれた。
にしても、10歳て。要するに、その年齢から、冒険者として働かざるを得ない人がいるってことよね・・・
分かってはいたけど、厳しい世界だ。
「それでは、登録について説明しますね。登録には試験があります。最初に、裏の訓練場で、お二人の実力を確認します。武器を使った戦闘でも、素手での格闘でも、魔法でも、なんでも構いません。その実力を、審査官が判定して、初期のランクを決定します」
「・・・なるほど。もし、実力不足だった場合はどうなるんですか?」
おそらく、そんなこと万が一にもあり得ないとは思うが、興味はある。
「その場合は、その日に登録することはできません。1ヶ月間、ギルド内で訓練を受けることができます。その間は、食事や寝る場所はこちらで用意します。1ヶ月後に再度試験を行い、最低ランクである初心者ランクに到達していると判断された場合は、登録できます。到達していなかった場合は、登録はできません。この場合でも、食事代や宿代の返還を求めることは致しません。腕を磨いて、登録に再チャレンジしてくれることを期待することになります」
「・・・なるほど。随分親切なんですね」
「10歳で登録しようとする子のほとんどは、戦闘経験がないですから。ですが、戦闘のセンスがある子や、ごく稀に魔法を使える子もいます。そういった原石を、1か月の間に見つけるんです。それが将来、冒険者ギルドにとっても利益となりますから」
冒険者ギルドは、冒険者に対する依頼を仲介し、手数料を取ることで運営されている。
その大きな役割は、登録している冒険者を、国からの不当な干渉から守ることにある。そのため、能力の無い冒険者が、依頼を失敗するなどして、冒険者ギルド自体の影響力が低下することは避けなければならない。
したがって、キルドに登録できる者には一定の資格、つまりギルドの依頼をこなすことのできる戦闘能力が必要なわけだ。
もちろん戦闘能力は、一朝一夕に身に付くものではない。しかし、将来的に戦闘能力を身につけることができるかどうかは、1ヶ月程度訓練すれば、ある程度分かる。
実際に、私も転生してから初めて戦闘するまでは数日だし、カイトやポーラも少し訓練することで、戦闘能力を備えることができた。
・・・・・・いや、私たちは例外か。
「でも、冒険者の依頼には戦闘能力が必要ないものもあると聞いたんですが・・・」
「ええ。確かに、薬草の採取や連絡役など、直接は戦闘能力が必要ない依頼もあります。ですが、町の外に出る依頼を行うということは、戦闘をする可能性が生じるということになります。いつ、魔獣や魔物、盗賊に襲われるかもしれないということを考えると、一定以上の戦闘能力は必要になります」
「・・・なるほど。ありがとうございます」
「いえ。・・・それでは、お二人の実力の確認をさせていただきます。ついてきてください」
お姉さんについて行くと、訓練場と呼ばれる、屋外の広場に着いた。
さっきの冒険者ギルドの建物の裏側らしい。
数組の冒険者と思われる人たちが、剣を交えたり、素手で組み合ったりして、訓練を行っている。
「マーカス!」
お姉さんがそう叫ぶと、訓練をしていた1人の男性がこちらにやってきた。
「どうした?エリーゼ」
「こちらの女性と、男の子が冒険者登録をしたいそうなので、実力の確認をお願いします」
「・・・・・・ほぉ。この2人が?」
マーカスと呼ばれた男性は、なんか、歩く筋肉、とでも呼ぶのが適切に思えるほど、ムッキムキだった。
そんな歩く筋肉ことマーカスは、私やカイトのことを見定めるような視線で見つめて、
「お嬢ちゃん。種族は『魔族』かい?」
「・・・・・・ええ、そうだけど。『魔族』は登録できないの?」
「いや。種族は関係ない。お嬢ちゃんの雰囲気というか、オーラというかが珍しかったんでな。ジロジロ見てすまんかった。さっさとチェックしようか」
なんだ。びっくりした。
けど、『人間』にもオーラとか分かるもんなんだね。
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