第48話:町に入ろう(8月14日、トレイロの回想部分に一文追加しました。内容に影響はありません)

壁を眺め呆けていると、カイトに引っ張られ、壁に空いた穴の場所、入り口へと連れて行かれた。

・・・・・・ん? 私が連れて行かれた入り口の他に、もう一つ入り口がある?

こちらの入り口は歩いている人が多いのに対して、向こうの入り口は大きな馬車がいくつも並んでいる。

貴族とか商人用?


「ねえ、カイト。あっちは貴族用?」

「うん、多分そう。貴族とか軍とかは専用の入り口があることが多いよ。でも、あんなに貴族っているのかな・・・」

「ふーん。それで、ここでお金払うんだよね?」

「そうだよ。記憶が確かなら、1人銀貨一枚」

「・・・了解。そういえばさ、金貨と銀貨の価値の大きさとか、その辺のお金周りの知識教えてくれない? 買い物するときとか困るし」

「うん、いいよ」



カイトに聞いた話によれば、この国の貨幣は、全部で6種類。

価値の大きい順に、白金貨、金貨、銀貨、大銅貨、小銅貨、鉄貨だ。

それぞれの交換比率は少しややこしい。

白金貨は、金貨が100枚。金貨は、銀貨が100枚。銀貨は、大銅貨が10枚。大銅貨は、小銅貨が100枚。小銅貨は、鉄貨が10枚だ。

うーん、複雑。しばらく使わないと忘れるやつだな。


大銅貨1枚で、拳ほどの大きさの木の実 —カイトの説明を聞く限りリンゴに思える— が1つ買えるらしい。1食分のパンも買えるんだとか。

・・・・・・大雑把にだけど、大銅貨1枚が、日本円で100円くらい?

まあ、細かく考えてもややこしいし、とりあえず大銅貨1枚を100円ってことで、考えておこう。


となると、入都税は1000円くらいか。まあ、そんなもん?

って、『セルの実』、1個200万!?

・・・・・・まじか。『セルの実』って、拠点に戻れば山ほどあるんだけど!?



カイトにお金について習っていると、私たちの順番になった。

さっき、森の入り口付近で見た、金属の甲冑から、頭部分だけを取り外したような出で立ちの男が、待ち構えていた。

その人が、私たちを見て、怪訝な面持ちをしながら、


「・・・えっと、バイズ辺境伯領の領都へようこそ。身分証はあるか?」


彼は、この中で一番、話ができそうと思ったのであろう、レーベルに問いかけた。

ただ、レーベルは基本的に私の後ろに控えようとするので、


「身分証はないです、4人とも。お金を支払うので、領都に入れてもらいたいです。後、従魔のスライムを登録したいです」


と答えると、ますます分からないといった様子で、


「お、おう。まず、税金を支払ってくれれば、町に入ることはできるぞ。1人銀貨2枚だ。それから、お嬢ちゃんのスライムだが、従魔登録できるのは、この町の市民カードを持っている者か、冒険者登録されている者だけだ。だから、そのどっちかをしないといけないんだが・・・」

「・・・銀貨は持っていないので、金貨で払ってもお釣りはもらえますか? 後、市民カードって私でも貰えますか?」

「釣りは問題ない。今、持ってこさせる。それから市民カードは、この町や、他の村など、この領内のどこかに住んでいる者にしか与えられない。お嬢ちゃんたちは、見たところ、そうではなさそうだから、厳しいな。冒険者登録をすることをオススメするぜ」


うーん。まあ、そりゃ住んでなかったら市民カードは貰えないか。

冒険者登録しますかー


「分かりました。その、私だけすれば大丈夫ですか?」

「ああ。他の3人は、領都の滞在許可証を発行するから、それを携帯しててくれ。有効期限は4日間。それ以上滞在したい場合は、もう一度ここに来て、税を納めて貰う必要がある。それから、延長はそう何回も認められないから気を付けてな。それからお嬢ちゃんの冒険者登録は、今日・・・はすこし時間が遅いから、明日中に頼むな。自分の従魔の面倒はちゃんと見てくれよな」

「了解です。丁寧に教えていただいてありがとうございます」


礼を言って、お釣りを受け取って町の中に入った。





入り口を入って正面は、幅の広い道が通っていて、その両サイドには屋台が並んでいた。

町は、その周りを覆っている壁のイメージそのままに、全体的にゴツゴツした、質実剛健っていう感じの建物が並んでいた。

魔獣の侵入にでも備えてる?

もちろん建物といっても、せいぜい3階建くらいで、当然高層ビルなんてない。


この町は、中央が少し盛り上がった、台地とその周辺を囲っているようで、目線の先に、一際大きな建造物とそれを囲っている、この街の壁と同じような、囲いが見えた。

あれが、領主の住んでる場所かな?



「とりあえず。どこから行く? 冒険者登録は明日行くとして・・・」


少し興奮しながらそう問いかけると、


「まずは、今晩の宿をお決めになるべきかと。お金もありますし、野宿する必要はないですから」


そっか。もうじき日も暮れてくるわけだし、泊まる場所探さないと。

けど、初めて来た町なわけで、宿のあてなんかあるわけない。



とりあえず、目に付いた屋台のおじさんに声を掛けてみることにした。


「こんにちはー。何を売ってますか?」

「おー、嬢ちゃん。ここはウサギの肉焼きだぜ。ウマいぞ。食ってくか?」

「・・・ええ。4本お願い」

「毎度あり! 4本で銀貨1枚だぜ」


銀貨1枚を渡し、ウサギの肉焼きを受け取る。

トランプほどの大きさのウサギ肉が、3枚刺さった串を4本受け取り、それぞれ食べてみる。

・・・うん。美味しいんだけど、ちょっと味が薄いというか、味付けがされてない?


「・・・聞きたいことがあるんだけどいい?」

「ん? なんだ?」

「初めてこの町に来たんだけど、オススメの宿ってある? 値段は気にしないんだけど・・・」

「んー、そうだな。・・・・・・この先、少し行ったところに、剣と盾が描かれた看板が掲げてある、そのまま『剣と盾』っていう名前の宿がある。部屋も結構広いらしいし、食事もいいらしい。それなりに値段がするから、町に来た商人や、高ランクの冒険者がよく泊まってるって話だぜ」

「なるほど。ありがとう!」


とりあえず、その、『剣と盾』っていう宿を目指すことにした。



♢ ♢ ♢


〜トレイロ視点〜


よく分からない4人だった。

執事風の若い男性に、綺麗な若い女性。まだ少年と呼ぶべきであろう男の子に、可愛らしい女の子。

その面子で、領都に物見遊山に来たという。

まるっきり嘘か、重要な事実を隠しているか・・・


・・・まあ、どうでもいいか。

彼らが、私たちを助けてくれたことに変わりない。

それにしても、あの執事の男性の腕は凄かった。

私の護衛として、ついてきてくれている2人の冒険者、レイルとキエラ。

最近冒険者に復帰したらしいが、どちらも腕は一流だ。

今回の護衛も、辺境伯領軍が安全を確保してるとはいえ、あのクライスの大森林近くに出向くだけあって、金額に糸目を付けずに、優秀な2人を雇った。

その2人でも太刀打ちできない魔獣。

それを、簡単に倒したあの執事、レーベルは一体何者なんだろう。


そんな冒険者2人は、彼らと別れて以来、ずっと何かを考え込んでいる。

2人とは今回が初対面で、事情なんかは知らないので、聞くことはしない。だが最初、男の子と女の子を見て、驚いたような表情をしていたように感じた。

知り合いに似ているとか?

会話を聞いている限りでは、執事以外の3人が姉弟という話だったか。まあ、そう見えたのは間違いない。


そして、何よりの衝撃は、『セルの実』だ。

商人をやっているのだから、数回扱ったことはあるが、一度に5つも売り込まれるとは驚いた。

それに、どうやらまだまだ持っている感じであった。

だが、ここで深追いするのは危険だと、勘が告げていた。

商人として、長年経験してきて培ってきた経験と、己の直感は、まずもって信じるべきものだ。

貴族への贈り物に最適であるし、今後良き関係を築いていきたいため、相場の倍に近い値段で買い取ったが、正解だと思う。


4人は領都に滞在するらしいし、私の店を訪ねてくれることになっている。

できたらもう少し、関係を深めておきたい、そう思ったのだった。


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