第42話:町を目指そう1
初めて行く人間の町は、バイズ辺境伯領の領都に決まった。
もっとも、そこへ行くには、カイト達の流されてきた川を辿っていく必要がある。
それならば、途中までは全員で行けばいいのではないだろうか?
そう思い提案してみると、
「え? そもそも1人で行くつもりだったの?」
「・・・ん? だって、カイト達をその町に連れて行くのは危険じゃない?」
「うーん、どうだろう。僕らの顔まで知っている人なんてほとんどいないし。お姉ちゃんを1人で町に行かせる方が、何倍も危険だと思うんだけど・・・」
・・・・・・それって、私の心配?
まあ、カイトがそう言うのならいいのかな?
ぶっちゃけ、この世界で初めて人間の町に行くわけだし、1人だと分からないことも多そうだ。それにカイト達以外の人間に会うのも初めてだし・・・
まあ、最悪の場合、全員倒して逃げればなんとかなるかな?
「じゃあ、みんなで行こっか。最初は、川に沿って新しい場所を探索しながら、その領都を目指す感じで」
「うん!」
そう言うと、さっきから私たちの話を詰まらなさそうに聞いていたポーラが元気よく返事をした。
全員で出かけるとなると、問題は拠点をどうするかだ。
もちろん拠点は移動式ではないので、ここに放置だが、魔獣や魔物が住み着いたら困る。
そう思っていると、
「コトハ様が拠点の複数箇所で、オーラを解放したうえで、拠点全体を魔法で囲めばよろしいかと。大体の魔獣や魔物はこれで寄りつきませんし、一部の例外も、コトハ様が全力で作った壁であれば、破壊することは困難かと思います」
なるほどね。
面倒くさいけど、拠点をもう一度作り直すことと比べたら、やるしかないか。
っていうか、もうそれは龍の巣だよね・・・
話し合った結果、出発は明日になった。
今日の午後で準備をする。
といっても、私の仕事は、出発する直前に拠点を巣にするだけなので、それまではカイト達の特訓の成果を見ることになった。
レーベルは、道中の食事の確保として、食料庫にあるファングラヴィットのお肉や、ファイファードのお肉の下処理をしたり、時間が経っても問題ないように保存加工をしたりしている。
特訓の成果を見せてもらおうと思っても、近場に魔獣はいない。
なので、木に向かってそれぞれ、攻撃をしてもらった。
カイトは、動きが素早くなり、攻撃の威力も増していた。何よりも、攻撃が正確になっていた。
ポーラは、命中精度が増して、威力も簡単に木をへし折れるくらいになっていた。
うーん、さすが。
「2人ともすごいね! これなら、一緒に戦えるよ!」
そういって褒めると、とても嬉しそうに、一緒に戦う!と張り切っていた。
カイトとポーラの成果を見ていると、リンが「僕も!」と伝えてきた。
「ん? リンも特訓してたの?」
そう聞くと、リンは木に向かって、何やら液体を発射した。
リンの発射した液体 —色的にこの前、習得していた毒液だとは思うが— は、木に命中すると、そのまま、瞬く間に木を倒してしまった。
確か、前は毒液が命中してから、木が腐って、腐った部分から折れていた感じだったような?
今回のは、なんか、一瞬で木を溶かしたみたいな感じに見えたんだけど。
「・・・・・・うーんと、もしかして毒が強くなったの?」
リンは「うん!」と身体を震わせ、「他にもあるよ!」と伝えてくる。
リンに見せてもらった結果、リンは新たに、先程見たこれまでよりも強力な毒と、煙幕のような煙を大量に放出できるようになったようだ。
これも道中で試せたらいいな。
そうして、諸々の確認を終え、翌日の出発に備え、風呂に入ってゆっくり寝ることにした。
♢ ♢ ♢
翌日、みんなで拠点を出る。
朝のうちに拠点のあちこちで『竜人化』し、オーラを解放しておいた。
それから、『竜人化』状態で最大パワーの『土魔法』を発動し、岩山全体を覆う、巨大なドーム状の壁を作って、拠点を守っておく。
これが壊されたら仕方がない。そう思えるくらいには、頑丈にしておいた。
準備が整ったので、まずは、カイト達の流れてきた川を目指して進んでいく。
危ないから私が先頭に行こうと思ったが、カイトの提案で、交替で先頭を歩いて警戒することにする。
とりあえず、私はいつもの森歩きスタイルで、オーラは隠している。
川に着くと、流れを確認して、その流れに逆らって進んでいく。
少し歩くと、普段の行動範囲から離れたのか、チラホラと魔獣が見えるようになってきた。
カイトやポーラはそれを見つけると、私に「見てて!」と叫んで、突撃していく。
周りを見ずに突撃するのは危険だし、注意しようかと思ったが、私を手伝いたいからという理由で強くなった2人のお披露目を邪魔する気になれず、後回しにした。
まあ、レーベルが警戒はしているし、私たちから離れているわけでもないので、何かあってもフォローはできる。
カイトは、前は苦手だった、相手の攻撃をいなしながら、隙を生み出し、相手を攻撃することが上手くなっていた。
ポーラは、『風魔法』に次いで身に付けた『土魔法』も織り交ぜ、複数の石弾や氷弾を、複数の魔獣の急所に正確に命中させていた。
あの精度は私にはないな。
結局、2人とも、フォレストタイガーぐらいなら、危なげなく倒せるようになっていた。
日が傾いてきたところで、今日の寝る場所を探す。
川の側は危険なので、少し森の奥に入り、あまり木の生えていないスペースを探す。
スペースを見つけたら、周りを『土魔法』で作った壁で囲っていく。外を見ることができるように、数カ所のぞき穴を空けておくのも忘れない。
スペースの中では、カイトが今日の寝床を作り、ポーラがレーベルに教わりながら、今日狩ったファングラヴィットの解体と料理をしていた。
仮拠点の仕上げに、仮拠点内の4方向でオーラを解放し、魔除けをしておく。
夕食は、ポーラの作ったファングラビットの香草焼きだ。
レーベルが道中で、料理に使えるという、良い香りのする薬草をいくつか採取していた。
株ごと採取して、リンに収納させていたので、拠点で栽培するつもりなのだろう。
いい香りだし、肉のくさみも消えるから、ちょうどいい。
夕食を終えると、さっさと寝ることにした。
見張りは、カイト、私、レーベルの順番でやる。
見張りの順番は、真ん中がしんどいんだけど、レーベルには朝食の用意もしてもらうし、カイトにやらせるのも嫌なので私がやると押し切った。
ポーラも見張りをすると主張したが、さすがに6歳の女の子に見張りをさせて寝る気はない。
それに、今日は結構な距離を移動しているし、私に見せようと多くの魔獣 —といっても、種類はウサギと虎のみだが— と戦っている。
明日も移動を続けるのだから、ここはしっかり寝て、休息してほしい。
そういって、ポーラを説得し、最初の見張りをカイトに任せて、眠りについた。
♢ ♢ ♢
「お姉ちゃん、起きて」
「・・・・・・・・・・・・んー? 交替?」
「うん」
「りょうかーい」
カイトと見張りを交替し、見張り場所へ行った。
野営での見張りなんて初めてやったが、基本的にやることはないな。
時たま、仮拠点を回って、予め空けておいた穴から、外を見て、なにか寄りついていないかを確認するくらいだ。
3人が寝ている場所以外は、『光魔法』で明かりを確保しているので、暗闇の中でガサゴソってこともない。
レーベルの話では、今日のペースで行くと、明後日の昼頃には、森を抜けられるそうなので、町でやりたいことでも整理しておこうかな・・・
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