第41話:目的地を決めよう
カイトとレーベルに、町に行ってみたいこと、森の探索範囲を広げたいことを伝えてみた。
意外にも、2人とも特に難色は示さず、了解してくれた。
てっきり、反対されるかと思っていたので驚いたな。
カイトは、
「この森が危険とはいえ、お姉ちゃんが負けることはないだろうから。それに僕とレーベルとお姉ちゃんが交替で見張りをすれば夜も安全だと思うよ」
といって、私の不安を否定してくれた。
そしてレーベルが、
「町に行かれましても、コトハ様の見た目は、『竜人化』しなければ『人間』と変わりませんし、私のように龍族の気配に気がつける者などおりませんので、ご安心を。もっとも、気がつかないからといって、コトハ様に無礼な行いをする者がいれば、その場で始末致しますが」
レーベルは留守番かな。
町に行ってみるにしても、森の探索範囲を広げるにしても、私は拠点を中心とした行動範囲の外について全然知らない。なので、カイトに説明を求めた。
「えーっとね、このクライスの大森林は、大陸の南東側にあるんだよね。東に進んでいくと、海に出るらしいよ。それで、接している国は全部で、4つあって、僕たちのいた『ラシアール王国』もその1つ。『ラシアール王国』は、森の北側にあるよ。他の国は、『ラシアール王国』の西側、森の北西方向と接しているのが『ジャームル王国』で、『ジャームル王国』の南にあって、森の西側に接しているのが『ダーバルド帝国』で、南に接しているのが『ディルディリス王国』だよ」
多くて覚えられない・・・
とりあえず、この森は4つの国と東側を海に囲まれているってことね。
「それにしても、4つの国と接するってことは、この森ってそんなにでかいの?」
「うーん、大きさは分かんないなー。誰も調べられないし・・・」
「そりゃそうか。じゃあさ、その4つの国はどんな国なの?」
「『ラシアール王国』は『人間』が多く暮らしているかな。他の人型種も暮らしているし、来たりするけどね。住んでいた王都と、カナン村しか知らないけど」
「『人間』以外の人型種を、排斥してはいないんだね」
「うん。そういうのは、『ダーバルド帝国』かな。あそこは、「『魔族』も『エルフ』も魔獣や魔物と同じだ」って言って、『人間』以外は帝国民になれないって聞いたよ。奴隷としてはいるらしいけど・・・」
うーん。他人種、多種族の排斥や、奴隷はやはりあるのか・・・
それからカイトは、4つの国について、貴族として勉強していたことを思い出しながらいろいろ説明してくれた。
『ラシアール王国』は、まあ、普通の国だ。北と東を海に接しているため、漁業や、塩作りが盛んで、特に塩は多く輸出しているらしい。しかし近年は、西にあり同じく北側を海に面している『ジャームル王国』も、塩作りの技術を発展させ、『ラシアール王国』はそのシェアを落としているんだとか。
『ジャームル王国』は、その塩作りと、農業が盛んらしい。
『人間』第一の、『ダーバルド帝国』は、いわゆる軍事国家で、周りを多くの国に囲まれているが、あちこちにちょっかいをかけて、徐々に領土の拡張を狙っているんだとか。
とはいえ、カイトのいた『ラシアール王国』は、国境を接しておらず、戦争するには、『ジャームル王国』を超えるか、クライスの大森林を越える必要があるから、そこまで警戒はしていなかったそうだ。
そして、『ディルディリス王国』。この国は多民族国家で、『魔族』や『エルフ』、獣人、それに『人間』と多くの人型種が暮らしているらしい。
もっとも、『ラシアール王国』とは、森を挟んで、北と南の関係で、海を渡っての交流もなく、ほとんど情報がないらしい。
ちなみにレーベルは、あまり興味が無く、召喚されても、どこの国に召喚されたのか知る前に用事を済ませて帰っていたそうで、カイト以上の情報は知らなかった。
うーん。行くとしたら、『ダーバルド帝国』以外の3つなのは確定なんだけど。
というか、この場所って、森のどの辺なんだろう?
「拠点があるのは、クライスの大森林の北側で、先程のカイト様の話を合わせると、『ラシアール王国』が最も近いでしょうか」
「うーん。ラシアールかー。カイト達をいじめた国でしょ?」
「・・・まあ。でも、もしお姉ちゃんが『人間』じゃないってバレても、問題があまりないし、僕も賛成かな。いまさら国はどうでもいいし・・・」
「そっかー。そういえば、カイト達のいたカナン村は、森の端の近くなんだよね?」
「うん。『ラシアール王国』の森の近くは、バイズ辺境伯領なんだけど、その領都が大きな城塞都市で、カナン村はその近くにあるよ。流された川も、その近くにあるかな」
「この森に北側から流れ込んでいる川は、1つですし、枝分かれもしていないので、川をたどれば、その村の近くに着くと思われます」
うーむ。
カイト達をいじめた村に用はないし、行くならその、辺境伯領の領都かな?
というか、ふらっと行って入れるもんなの?
「私でもその領都には入れるの?」
「カナン村とか田舎の村の人が初めて行く大きな町が、その領都ってことは多いから、身分証とか持ってなくても入れると思うよ。でも、入るのに銀貨1枚くらい必要だと思う」
「税金的なやつか。・・・銀貨どころかお金なんて持ってないよねー。ファングラヴィットでも持って行って売る?」
「・・・売れるとは思うけど、『何者だ!?』ってなると思うよ?」
「だよね・・・。ちなみに売ったとして銀貨何枚くらい?」
「・・・えーっと、わかんない。というか、ファングラヴィットなんかほとんど売られたことないんだから。オークションとかで金貨何百枚とかになるんじゃない?」
・・・ダメだ。あのウサギですらそんな扱いなのか。
ウサギでダメなら、『アマジュの実』も当然ダメだし・・・
「売るんだったら、『セルの実』の方がいいと思うよ」
「『セルの実』は大丈夫なの?」
「うん。『ラシアール王国』は海から塩を作れるけど、それでも海から遠くに住んでいる人は、『セルの実』に似た木の実で塩を作ってるんだ。『セルの実』もたまに高級な塩の材料として出てくるから、持ち込んでもそこまで変じゃないよ。『森で見つけました』って言えば怪しまれないと思う」
「なるほどねー。なら、『セルの実』いくつか持ち込んで、お金に換えて、町に行ってみようかなー」
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