第36話:勉強しよう②ー1

『アマジュの実』のジュースは、好評だったし、私もおいしいと感じたので、いつでも飲めるようにストックしておくことにした。

先程と同様の作り方で、小さな入れ物10個分のジュースを作った。

ジュースの入った入れ物は、食料庫の一角に、保管しておく。

周りを氷の板で囲んでおけば、冷たい状態で保管できるだろう。

常温のジュースよりも、冷たいジュースのほうが、圧倒的においしいと思うのだ。





レーベルの作ってくれた夕食を食べているときに、魔素について聞いてみた。

カイトに聞いてみたのだが、この間、魔素と魔力との関係について教えてくれた以上のことは知らないらしい。


レーベルは、少し考えながら、


「魔素は全ての源になります。生物の身体は、多かれ少なかれ魔素によって構成されていますし、空気や水、土や火にも魔素は含まれます。ですがそれ以上のことは、実はあまりよく分からないのです」

「レーベルでも?」

「左様でございます。私のような『悪魔族』は、身体構成比率における魔素の割合は、この世の生物の中でも高い方です。それこそ、古の龍族や、コトハ様の『魔竜族』の次くらい、ですかね。現存する生物だと、ドラゴン種と同じくらいでしょうか。ですが、いえ、だからこそ、魔素というものが身近に、特に意識することなく存在しているため、深い理解を得ることができていないのです」

「・・・そうなんだ。というかさ、ドラゴンは龍族とは違うの?」

「ドラゴン種は、さまざまな種類のドラゴンの総称で、現在も生存しております。といいますか、ドラゴン種が見られるようになったのは、龍族が滅んで少ししてからです。龍族はそれほど数がいませんでしたが、ドラゴン種はそれなりの数がいます。そして、龍族とドラゴン種の関係は定かではありません。龍族が死んだ際に放出した魔力から生まれたという説や、龍族が別の生物と交わったという説などがありますが、よく分かりません。いずれにせよ、現存する生物の中で、最上位に君臨する生物であることは間違いないかと」

「なるほどねー」

「ですが、どちらも見たことがある身からすると、龍族とドラゴン種では、なんといいますか、生物としての“格”が違うように思います」


“格”、ね。

私もそんな龍族の末裔?なんだったら、まだまだ強くなれるのかね・・・

今でも、だいぶ脳筋戦闘よりだし、これ以上そうなったら困るかも?


それにしても、やっぱ見てみたいよなー、ドラゴン。

私の身体も一部ドラゴンっぽくなるけど、やっぱ完全体として、生のドラゴンを拝んでみたいよね、せっかく異世界だし!





「あ、あの。今、レーベルの言った種族ってお姉ちゃん含めて、強い種族ばっかだけど、魔素を多く含んだ種族の方が、やっぱり強いんですか?」

「一概にそうは言えないかと思います。身体における魔素割合が多い種族は、なにをするにも魔素を消費し、循環させています。呼吸をするにも、歩くのにも、食事をするのにも、です。そのため、魔素濃度の低い地域では、魔素の循環が行えず、簡単に言えば弱ります。その反面、『人間』のように魔素割合の少ない種族は、生活するにおいて必要な魔素は、僅か、ほとんど不要とすら言えます。そのため、魔素濃度の少ない地域では、魔素の影響を受けない『人間』の方が強いこともあります」

「・・・・・・じゃあ、私は魔素が濃い地域でしか生活できないの?」

「簡単に言うとそうなりますが、コトハ様は少し特殊です。先程申しました、魔素の循環が行えない場合、まずは体内の魔力を消費して、それを補います。魔力は魔素を変換して作り出すわけですが、その逆、魔力を魔素に変換するわけです。コトハ様の、体内に蓄積できる魔力の量は、古の龍族に匹敵致します。そのため、少なくとも数年間、魔素の薄い地域にいたとしても、弱体化することは無いと思います」

「・・・・・・お姉ちゃん、やっぱすごい」

「・・・うん」


カイトとポーラがそう言うが、褒められている感じはしない。

ついに、ポーラまで呆れるカイト側に付いてしまった・・・


そう言われると、『魔竜族』は魔素への親和性が極めて高いって書いてあったな。

ちなみに、魔素の薄い地域は基本的に、『人間』の町や村などになっているようだ。

魔素が濃い地域は、この森を筆頭に、多くの森林や、海、山などがあげられるらしい。





「じゃあ、さっきの『アマジュの実』の話は?」

「『アマジュの実』といいますか、『アマジュ』は、クライスの大森林という、世界で最も魔素濃度の高い場所にしか生えていません。詳細なメカニズムは不明ですが、他の場所で生えているのを目撃された例はありません。植物も、当然魔素を含有していますし、人型種と同様に、魔素への親和性には種ごとの差があります。『アマジュ』は、親和性が最も高い植物と言えるのでしょう。そして魔素が豊富な地域で、大量の魔素を取り込んで付ける実には、当然多くの魔素が含まれるのです。その含有量は、実1つで、『魔族』や『エルフ』1人が有する魔素量よりも多いとされています」


・・・そんなに含まれてるの!

ってか、そんな木の実をバクバク食べてるけど大丈夫なんだろうか・・・


「その『アマジュの実』を、私たちは、一月以上食べ続けてるけど、大丈夫なの?」

「はい。まず、もともと魔素保有量が多いコトハ様は問題にすらなりません。次にカイト様とポーラ様ですが、普通は魔素量が少ない『人間』が、それほどの量の魔素を摂取し続けると、身体が大量の魔素を扱いきれず、体外へ放出されてしまいます。まあ要するに、勿体ないだけです。しかしお二人は、どういうわけか、その大量の魔素を体内で扱うことができているようなのです」

「・・・へ?」

「私も最初は驚きましたが、お二人の身体における魔素割合は、既に『人間』を遥かに超え、『魔族』や『エルフ』をも凌駕していると思われます。『悪魔族』やドラゴン種にこそ及びませんが、人型種では、コトハ様に次ぐものと思われます。お二人がここで生活するようになった経緯を考えると、村での暮らしで、満足に食事を得られず、身体の成熟が不十分だった状態で、この森にやってきて、『アマジュの実』や、魔獣であり、当然多くの魔素を含むファングラヴィットの肉を食べ続けた結果、身体構成において、魔素量が多くなったのではないかと愚考致します」

「・・・・・・・・・え、じゃあ、私のせい?」


私がここで一緒に暮らそうって言ったから? 『アマジュの実』やファングラヴィットを食事にしていたから? そのせいで、二人は・・・・・・


「違うよ! お姉ちゃんのおかげだよ!」

「え?」

「お姉ちゃんのおかげで、普通じゃ食べられない食事をして、魔素が増えたから、強くなったんだよ! だから、お姉ちゃんのおかげだよ!」

「でも! 魔素が多いと、魔素が薄い場所では生活しにくいんだよ!? 2人が将来、ここから出て行こうとしたとき、困るかもしれないんだよ!?」

「・・・え? ここから出て行く? なんで? 大人になったら、お姉ちゃんと一緒に暮らしちゃいけないの!? そんなの、ヤダよ・・・」

「私もコトハ姉ちゃんとずっと一緒!」

「2人とも・・・」


2人は泣きそうになりながら、そう訴えた。


勝手に、大きくなったら2人は、『人間』の住んでいる国に行くものだと思っていた。

こんな危険な森で、一生暮らしたくはないだろう、と。


でも、2人は一緒に居たいと思ってくれていたようだ。

とっても嬉しかった。


涙が出そうになるのを必死に堪えながら、


「ありがとう。2人とも。ずっと一緒に居ようね」

「はい!」

「うん!」


そう、感動していると、レーベルが、


「お言葉ですが、カイト様もポーラ様も、数ヶ月程度なら、魔素の薄い地域でも支障なく活動することができると思われます。それに、いざとなったら『アマジュの実』を食べれば、魔素の補給は可能かと・・・」


と、少し言いにくそうに伝えてきた。

・・・・・・まあ、生活が可能なら、それに越したことはないか。





そういえば、2人の魔素量が増えていると聞いて、思い当たる節があった。


「じゃあ、2人が魔法を無詠唱で使えたり、結構、高威力で魔法を使えたりするのもそのおかげ?」

「左様かと。お二人は、魔素量が増え、身体の魔素への親和性が向上した結果、魔素の魔力への変換効率や蓄積量も、『魔族』や『エルフ』を超えています。ですので、多少の無駄遣いは気にせずに、魔法を使用できるのかと。それにカイト様の『身体強化』は魔力で身体能力を上げるスキルですが、これも魔力の変換効率・蓄積量が多いほど、身体能力の上昇幅や継続時間が上がります。現時点のカイト様でさえ、『人間』はもちろん。『魔族』や『エルフ』で太刀打ちできるものは希有かと」

「・・・・・・カイトもポーラもすごいね」

「お姉ちゃんに言われたくない!」

「コトハ姉ちゃんのがすごい!」


まあ、とりあえず、2人もこっち側だ。

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