第33話:実験しよう

レーベルを迎えた翌日、私は、新たな食材を求めて、再び森を探索することにした。

今日も、昨日と同様に、食材探しをしながら、『竜人化』の特訓などをするため、カイト達はお留守番だ。

レーベルがいるから、2人を置いていくのも安心できる。

レーベルは、家や拠点を掃除しつつ、補強や修繕をしてくれるらしい。レーベル曰く、「これも執事の仕事です」、だそうだ。

・・・まあ、彼がやってくれるなら安心だろう。


カイトとポーラは、それぞれ魔法や『身体強化』での戦闘の練習をすると言っていた。なんでも、レーベルが訓練相手を務めてくれるらしい。

・・・レーベル有能すぎないか?


ちなみに、カイト達がすっかりレーベルに懐いていることに若干拗ねて、「1人で行く私の心配はしてないの?」と、面倒くさい女をしてみたところ、


「お姉ちゃん、めっちゃ強いし。やり過ぎないかだけが心配」

「コトハ姉ちゃんは、誰にも負けないもん!」

「コトハ様がこの森の魔獣ごときに負けるはずがございません」


と、なんとも、嬉しい?コメントが返ってきた。

・・・・・・カイトのコメントの後半部分は解せないが。




というわけで、今日もリンと2人で探索だ。

昨日は、拠点の南側に行ってみたので、今日は、西側へ行ってみることにする。

東側は、カイト達の流れてきた川があり、川を渡らないと、そこまで探索できる範囲が広くないので、後回し。北側は、最初からなにかと探索しているのだ。


西側へ進んでいく際に、昨日思いついた、『竜人化』を『身体装甲』で覆うことができるのか、実験してみる。

左腕を、指先まで『竜人化』、その上から上着を羽織って、手袋を付けるイメージして、『身体装甲』で覆ってみた。


・・・・・・できた、けど。

『竜人化』により、腕には鱗が生えて、手は指が長くなり、爪も伸びている。そのため、上着を羽織った腕の部分は、鱗がある分だけ腕が太くなりピチピチに、左手は手袋の各指先から爪が飛び出すような形になった。


まあ、失敗だ。求めていたのは、こういうことじゃない。

これでは、『竜人化』していることは隠せても、何か変なことをやろうとしているのは見え見えだ。完全に変なヤツである。

余計に警戒させてしまう・・・


失敗はしたが、第一段階として、『竜人化』の上から『身体装甲』を纏えることは確認できた。

ただ、『身体装甲』によって、『竜人化』により変化した特徴を押さえつけることはできないらしい。

となると、腕の部分は、ローブのような、ゆったりした形状にすれば、いいかな。

そう思い、左腕を『竜人化』させたまま、『身体装甲』でローブを羽織ってみた。

うん、うまくいった。


・・・・・・ただ、ローブを羽織って、その下が竜の鱗に覆われていて、手まで竜のそれに変化するとか、どっかのラスボスよね。

なんか、高出力の魔法でオーバーキルかましたり、竜の爪で切り裂いたりと、私、悪役要素多くない?


いや、まあ、この森の生き物にとっては悪役か。

でも、生きるためだし仕方がない。

「殺すのが可哀想だから、肉は食べない」とかいう偽善を振りまいている余裕はない。

相手は基本的に殺しにくるし、食うか食われるかだ。





とりあえず、森を歩くときは、全身をできるだけ『竜人化』により鱗で覆った上で、『身体装甲』でローブを羽織ることにした。ローブの下は、下着の上にタイト目のシャツとレギンス。靴はスニーカーだ。

これで、基本的に動きやすく、万が一『自動防御』を貫通する攻撃で奇襲されても、鱗が守ってくれるはずだ。そして、いざ戦闘となれば、ローブを脱いで、手足を『竜人化』させればいい。

『身体装甲』の後から『竜人化』を発動させると、『身体装甲』は消えるみたいなので、靴を履いていても問題ない。



 ♢ ♢ ♢



森の探索スタイルが確立され、喜々として森を歩いていたが、今日はやたらと、ファングラヴィットやフォレストタイガーに遭遇する。

大体2時間で、合計7体目だ。もちろん全部倒している。

最初は、ファングラヴィットやフォレストタイガーに遭遇すると、恐怖感と、地球上に存在しない生物に対する興奮がどこかあった。しかし、もはやそんな感情は欠片もなく、倒すのも作業と化している。より多く狩り主食にしているファングラヴィットなど、ただの“肉”だ。



・・・それにしても、なんで今日はこんなにファングラヴィットやフォレストタイガーに遭遇するんだろう。

普段の行動範囲からは出ているが、だからといってこんなに遭遇した経験はない。

それに、今日は魔獣の方から向かって来るのだ。


これまでは、ファングラヴィットは食事をしていたり、寝ていたりするところを強襲して倒していた。

敏感なのかフォレストタイガーは向こうから来るが、最近は全く見なかった。

それなのに、今日は向こうから・・・







・・・・・・オーラが無くなってる?

私から漏れ出した、魔力。それを感じた魔獣は、私から逃げていく。だから、最近は拠点の近く、行動範囲にファングラヴィットはいなかった。

フォレストタイガーも、私のオーラに気がついて、近づかないようにしていたんだろう。



そうすると、今日は近づいてくるのは、オーラが無いからでは?

でも、どうして?


・・・・・・・・・・・・思い当たるのは、『身体装甲』だ。

これまでも、森に行くときは、当然『身体装甲』で動きやすい服を作って着ていた。しかし、動きやすさ重視だったし、この森は結構歩きやすいので、全身を覆っていたわけではなかった。覆っていたのは大体、身体の7割くらいだ。

それに対して、今日は? 今、『身体装甲』の外に出ているのは、頭だけだ。

つまり、『身体装甲』で覆っている部分が多いほど、オーラを遮断できるということ?



うーん。なんか違う気がする。

『身体装甲』は関係していそうだけど、覆っている面積というのが引っかかる。

確かに、これまでよりも、今日のほうが、身体を覆っている面積は大きい。けど、劇的に変わる程かと言われれば、そうじゃない。



じゃあ、他に違うのは?

・・・・・・・・・鱗だ。今、私の身体は、顔面以外ほとんど鱗に覆われている。

厳密にいうと、鱗を身体に生やしてから、『身体装甲』で身体を覆っている。

それも、鱗が見えないように、鱗の上は全部・・・・・・



 ♢ ♢ ♢



いろいろと、可能性が出てきたので、『竜人化』や『身体装甲』を、切り替えて、どの状態が一番魔獣に遭遇するか、比較実験をしてみた。

その結果、やはり森の探索スタイル、『竜人化』して全身になるべく鱗を生やして、その上から『身体装甲』を纏うスタイルが、一番魔獣に遭遇した。つまり一番オーラを抑えられている。

逆に、一番魔獣と遭遇しなかったのは、意外なことにこれまでの移動スタイルではなくて、鱗のみのスタイルだった。どうやら、鱗は単にオーラを抑えるわけではなさそうだ。


結果として、少なくとも『身体装甲』に一定のオーラを抑える効果があるのは間違いない。あとは、鱗とオーラの関係が分からないと、見えてこない。

まあ、実験で、魔獣を狩りまくったので、今日はここまでにして、帰るとしよう。






・・・・・・帰ると、狩ってきた魔獣の多さに、「やっぱりやり過ぎた」とカイトから冷たい視線を浴びた。



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