第19話:問題を解決しよう2

「カイト!!!」


飛ばされたカイトの方を見て叫ぶが、カイトからの返事はない。

『身体強化』を使っていたようだし、大丈夫だと思うが、飛んでいくカイトのスピードが速く、木にぶつかった音も大きかっただけに、心配だ。

ポーラも、「お兄ちゃん!」と、叫んでいるが、カイトからの返事は同じくない。


・・・・・・カイトを助けないと。

すぐにでもカイトのもとへ駆け寄りたいが、目の前のヘビが、そんなことを許してくれるようには思えない。


・・・こんなことなら、攻撃せずに逃げるべきだったの? 

・・・そもそもカイト達は洞窟に留守番させておくべきだった?

そんな風に、後悔が押し寄せる。


しかし、相手の方は待ってはくれない。

カイトに頭突きをするために突き出した頭を、一度戻して、身体を起こした。

私たちを見下ろしながら、舌をしきりに動かしている。

幸い、ヘビの意識から、カイトは外れているようだ。

・・・・・・それが、悪い意味で無いことを願いながら、対処を考える。


ふと、万が一に備えて、リンの『マジックボックス』に『アマジュの実』をいくつか仕舞っていたことを思いだした。

・・・・・・そうだ、カイト達と出会った日。2人が初めて『アマジュの実』を食べたとき。

カイトの怪我の具合は分からないが、2人が村で負った傷などは完治していた。



注意は私に向いている。

まず、すべきことは、ポーラをカイトのもとへ行かせることだ。それも、リンと一緒に。

・・・・・・・・・よし、やるしかない。


リンにポーラと一緒にカイトのもとへ行き、『マジックボックス』に仕舞っている『アマジュの実』を食べさせるように心の中で伝える。

リンは、私の側から離れたくないのか、迷っているような感情が伝わってきたが、もう一度強く伝えて、説得する。

リンが、「わかった」、とでも言うように、身体を震わせたのを見て、ポーラに告げる。


「・・・ポーラ。私が気を引くから、リンを連れて、カイトの所へ走って。リンから『アマジュの実』を受け取って、カイトに食べさせて」

「・・・え、コトハ姉ちゃんは・・・」


ポーラは、なにか言いたそうにこちらを見たが、無視して、ヘビを睨みつける。

間違っても、ポーラや、カイトの方に、ヘビの注目を行かせてはダメだ。





一呼吸置いてから、


「行って!」


ポーラに向けて叫ぶと同時に、ヘビに向かって『ストーンバレット』を連射する。

連射すると、狙いをうまく付けられないし、威力も下がってしまうが、気を引くことが目的だから関係ない。

ポーラはリンを抱き上げると、カイトの方へダッシュした。


ヘビは、気づかなかったのか、それとも私を倒してからでいいと思っているのか、ポーラは無視して、私の方へ向かってきた。


『ストーンバレット』を打ち続けるが、ほとんど当たらず、当たってものけぞりすらしない。

それでも打ち続けていたが、ヘビは一度身を竦めて、私に向かって頭突きを繰り出してきた。




・・・・・・パリン!パリン!パリン! と、目の前に展開された『自動防御』の障壁を破壊し、ヘビの頭突きは、私に命中した。

この世界に来て初めて攻撃を食らった私は、そのまま後方に吹き飛ばされた。

『自動防御』が威力を弱めたおかげか、身体を動かすことはできるが、体中がジンジンと痛む。




ヘビを見ると、とどめを刺すつもりなのか、口を開き、2本の牙を構えていた。

・・・・・・・・・本格的にまずい! 頭突きで無理なら、あの牙で噛み付かれたら確実に、『自動防御』は貫通するし、致死量のダメージを食らう!


・・・・・・・・・どうする、どうすればいいの。

『ストーンバレット』はだめ。『アイスバレット』もだめだろう。

『ファイアウォール』を作っても、回り込まれたら終わりだし、ポーラ達に注意がいったら、困る。

・・・・でも、ほかに手段が・・・







・・・・・・諦めちゃダメだ。私は、カイトとポーラの保護者なんだ!

前世は、散々だった。きっかけは最悪だったけど、異世界に転生して、新しい暮らしを手に入れたんだ。

そして、カイトとポーラと出会った。

まじめでしっかり者だけど、どこか危なっかしいカイト。

元気いっぱいで明るく、とても優しいポーラ。

それに、私を主人として受け入れ、いつも狩りや散策を手伝ってくれるリン。

小さな身体で、私を助けようと動き回ってくれている。



3人は私の大切な仲間・・・・・・・・・、いや、家族なんだ。

絶対に守ってみせる!



そう思って、立ち上がり、ヘビを睨みつけた時だった。

身体の中心から力が湧き上がってくるような、なにか熱いものが流れているような、そんな感覚が襲ってきた。

それと同時に、私の周りに、小さな光の粒が集まり始めた。

集まってくる光の粒は、どんどん増えていき、私の身体を覆う様に集まった。


次の瞬間、私を覆っていた光の粒と、私の身体が、ものすごい光を放ち、眩しさで思わず目を閉じてしまった。



ゆっくりと目を開けると、目の前で牙を構えていたヘビが、後ろに下がり、こちらを見つめていた。なんとなくだが、その目は怯えているような、そんな感じがした。


身体の奥底から力が湧き上がってくる感覚が、光に覆われる前よりも強くなっていた。


・・・なにが起きたのか。とりあえず、それを確認しようと思い、自分の身体を見下ろした。

すると、両腕に、・・・・・・・・・青白い鱗が生えていた。



「・・・・・・えっ? なんで腕に鱗? それに手もなんか、指が長くなって、鋭い爪まで付いてるし・・・」


私の両腕は、鱗に覆われ、手はそれぞれの指の長さが1.5倍くらいになり、その全体が同じ鱗で覆われている。そして各指には、ナイフかと思えるほどの鋭い爪が生えていた。


それに脚も、太ももあたりから、鱗で覆われている。

足首の先には、手と同じように鱗に覆われ、指が長く生り、鋭い爪の生えた、足が付いていた。

・・・・・・まるでドラゴンの様な、そんな手と足。



・・・分からない。まったくもって、理解が追いつかない。

動かしてみたら、いつもの手や足の様に動くし、指も動く。爪が邪魔だが、手のひらをグーにもできる。


つまり、私の手足が変化したのは間違いない。

どう考えても、アレだ。カイトも知らなかった謎の種族。『魔竜族』。その“竜”の部分だろう。

その特性だか、スキルだか、分からないが、それが発動したんだろう。



・・・・・・・・・どうでもいいか。うん、どうでもいい。

とりあえず、なんか強そうになってる身体と、湧き上がってくる力を使って、目の前のヘビをぶっ飛ばして、カイト達を助けるだけだ!


覚悟しろよ、ヘビ野郎め。

カイトを痛めつけて、ポーラを怖がらせてくれたこと後悔させてやる!


そう心の中で悪態をつき、ヘビを睨みつけると、ヘビに向かって走り出した。



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