第18話:問題を解決しよう1

いま抱えている2つの問題。

カイトとポーラの新しい服が必要なこと、狩りの獲物がいなくなっていること。

特に、2人の服は、早急になんとかしてあげたいが、そう簡単な話ではない。

3人とも、服の作り方、というか、糸や布の作り方なんか知らないし、材料もない。

私たちにとって現実的なのは、幸いカイトが下処理の方法を知っている、魔獣の毛皮を、どうにかして、身体に巻き付けて、服を補うことくらいだ。


というわけで、先に獲物が減少している問題について、考えることにする。

といっても、できることといえば、普段の行動範囲を少し広げて、魔獣がいる場所に行くことくらいしかない。


そう考えて、2人に、少し遠出してくると伝えると


「お姉ちゃん、僕たちも行くよ」

「うん! ポーラも探検したい!」


そう、2人に言われた。


・・・・・・正直、迷う。これから向かうのは、未知の場所だ

不思議なもので、最初は景色の見分けが付かなかった森の中でも、慣れてくると、目の前の木の生え方や、地面の様子で、大体の場所がわかり、迷わないようになった。

まあ、念のため、土を耕して目印は残しているが。


それに対して、これから向かうのは、これまで散策していない場所だ。とっさに逃げるときに、迷ってしまうかもしれない。それに、獲物を探すという目的から、洞窟のある岩山から離れることになる。つまり、洞窟に逃げ帰るために要する時間も増えるのだ。

そう、考え、2人には留守番してもらうことにしよう、と考えていると・・・


「お姉ちゃんだけに、危険なことはさせられないよ。僕たちはまだ全然戦えないけど、周りを見たり、地面を調べたりはできるよ。本当は、ポーラには留守番してもらいたいけど、1人で留守番させるわけにもいかないし・・・」

「お兄ちゃん! ポーラ留守番もできるよー! でも、今日はコトハ姉ちゃんと一緒に行くの!」


・・・仕方がない。

カイトの思いを無碍にはできないし、森を調べるのなら、カイトの知識は役に立つ。

ポーラも連れて行くのは不安だが、確かに、洞窟に1人にするのも怖い。


「・・・分かった。でも、私から離れちゃダメだからね!」

「うん!」

「はーい!」


そうして、3人で、これまでの行動範囲の外側へ、カイト達が流されてきた川に沿って、森を調べてみることにした。


 ♢ ♢ ♢



それから3日間、川に沿って、いつもより遠出をして、何体かファングラヴィットやフォレストタイガーを狩ることに成功した。

一番の成果は、カイトとポーラが、それぞれ1人で、ファングラヴィットの狩りに成功したことだろう。


ポーラの方法は私と同じく、高火力の遠距離狙撃。といってもポーラは、『土魔法』を使うことはできないので、『水魔法』で氷の弾丸を作って、撃ち込んだ。『アイスバレット』と名付けて、発動キーとしている。

『水魔法』により、氷を生み出すのは、私が作った氷塊を見て、触れていた2人にはイメージがしやすかったようで、2人とも使えるようになっている。

もっとも、殺傷力を高めるために氷塊の形を整え、弾丸のように放つ、『アイスバレット』を使えるのは、魔法が得意なポーラだけだ。

カイトの『水魔法』は、レベル2になっているが、生み出したものを操るのは難しいみたい。


初めてファングラヴィットを狩ったポーラは、それはもう、嬉しそうにずっとニコニコしていた。

初めての獲物の記念、ということで、ポーラが狩ったファングラヴィットの魔石は、ポーラが持っているのだが、事あるごとに、その魔石を見つめては、嬉しそうにしている。


カイトはカイトで、『身体強化』による戦い方を身につけようとしていた。

ファングラヴィットの突進を食らっても、『身体強化』を発動中ならば、問題ないようで、何回か突進を食らいながらも、スキを見つけて、牙を掴んでへし折り、頭部を蹴り込んで、ファングラヴィットを倒していた。もっとも、ファングラヴィットの行動によっては、『身体強化』の時間制限内で倒しきれず、私やポーラにバトンタッチすることも多い。

こればかりは、数をこなして、慣れていくしかないのだろう。

ただ、『身体強化』を使っていることで、魔力量が増えたのか、『身体強化』の継続時間が若干だが延び始めている。

カイトが強くなるためには、『身体強化』を使って、戦う訓練をこなすのが最適なようだ。


狩った獲物はいつも通り、リンが『マジックボックス』で収納し、洞窟に帰ってから、ゆっくり解体している。

『マジックボックス』の中は、時間経過はするようだが、空気が無く、また魔法により劣化防止の効果がかかっているのか、洞窟に戻ってから解体等をしても、肉の鮮度に問題はない。

ただ、『マジックボックス』に収納できるのは、ファングラヴィットで4羽ほど、フォレストタイガーだと1頭が限界だった。

リンの『マジックボックス』は“小”なので、おそらくこれが容量的な限界なのだろう。





そんな風に、狩りを続けて4日目、今日もファングラヴィットを2羽、カイトとポーラが1羽ずつ仕留めて、帰路についた、そんな時だった。

突然リンが、プルプルっと見たことのない震え方をしたかと思うと、数回その場でジャンプをした。

なにかを伝えようとしている気がして、リンに集中すると、伝わってくるのは、焦りや、恐怖、そして、逃げて!という強い感情だった。


私はわけがわからず、周囲を見渡す。しかし、何も見えない。

ここは既に、私たちの基本的な行動範囲の内側で、魔獣を見なくなっているエリアだ。

それに、ファングラヴィットやフォレストタイガーが出てきても、今更問題にはならない。

そう思い、リンを抱き上げて、洞窟に帰ろうとした時だった。



ドゴッン! と、大きな音がして、目の前の地面から、大きな何かが飛び出してきた。



・・・土煙が晴れると、目の前には、大きなヘビが地面から身体を出して、こちらを向いていた。



 ♢ ♢ ♢



真っ黒の太い身体に、黄色い、稲妻の様な模様。

開かれた口からは、鋭い2本の牙が輝き、赤い舌をヒュルヒュルと、動かしている。確かヘビは、舌を使って匂いを嗅ぎ、周囲の状況を調べるんだっけ・・・

そしてその目は、赤黒い、不気味な輝きを放ちながら、こちらをジッと見つめていた。



私たちは、まさに、蛇に睨まれた蛙かのように、足がすくみ、動くことができなかった。

いままで相対してきた、ファングラヴィットやフォレストタイガーが、小さく思えるような、そんな体躯。





・・・・・・逃げることはできない。後ろを向いて走り出したらすぐに食べられる。そう思い、私は、震える足をなんとか押さえ込んで、ヘビに向かって『ストーンバレット』を叩き込んだ。


石の弾丸はヘビの首付近、頭と身体の境目辺りに命中したが、いつものようにそれで戦闘終了とはいかなかった。

いつもは命中した部分を抉り取るほどの威力の攻撃、それを全力で放ったはずなのに、ヘビの身体は無傷だった。

僅かに、ヘビの身体が後ろに仰け反った程度だ。



私の攻撃を受けて、私を敵と判断したのか、ヘビは私に、噛み付こうと、頭を近づけてきた。

『自動防御』でなんとかなることを願いつつ、もう一度、『ストーンバレット』を放とうとしていると、


「お姉ちゃんに何するんだー!!!!」


と叫びながら、カイトがジャンプし、ヘビの顔に殴りかかった。


しかし、ヘビは、首をクイッと動かして、カイトの攻撃を受け止めると、一度カイトから距離を取り、空中でバランスを崩しているカイトに、そのまま頭突きを食らわせた。



・・・・・・・・・カイトは吹き飛ばされ、近くの木に叩き付けられた。




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