第15話:勉強しよう

魔法についていろいろ考えていると、洞窟のある崖が見えてきた。

崖のすぐ近くで、ファングラヴィットを発見したので、いつものように『ストーンバレット』で、頭を吹き飛ばして、絶命させる。

階段を作って、洞窟入り口前の広場まで上がると、カイトが『セルの実』のゴミを集めていた。


「ただいま、カイト」


そういうと、カイトは嬉しそうに、


「おかえり、お姉ちゃん!」


と返してくれた。「おかえり」、と言われたのも久しぶりだ。

母が死んでからはもちろん、母が生きている間も、母は夜遅くまで仕事をしていて、私が帰ったときには、家に誰もいなかった。

そんなことを思い出しながら、ポーラがいないことに気がつく。


「・・・ポーラは?」

「あー、ポーラは、洞窟の奥で眠ってるよ。魔法が使えるのが嬉しかったみたいで、何回も使ってたら、魔力切れを起こしたみたい」


魔力切れ? 気にはなるが、カイトの様子から問題ないのだと判断する。奥で寝ているのなら安心だ。

ひとまず、カイトに一度、階段を下りてもらい、ファングラヴィットの解体をお願いする。

氷を作れるようになったことを伝え、今日の夜食べる分よりも多くお肉を切り出してもらう。他に、魔石も取り出し、肉と一緒に持ち帰る。

残りはいつも通り燃やしておいた。


洞窟前の広場に戻り、カイトの後片付けを手伝いつつ、先程気になった、魔力切れについて、聞いてみた。


「ねえ、カイト。ポーラがなったっていう、魔力切れって、なに?」

「えーっと、魔法を使いすぎると、体内の魔力量が減っていって、動けなくなっちゃうんだよ。・・・・・・お姉ちゃんはなったことないの?」

「うーん。ないかなー」

「・・・・・・・・・そうなんだ。あれだけすごい魔法を使ってるのに、魔力切れにならないんだね・・・」


相変わらずの若干の呆れた目をされた。

だが、そういわれても、私には魔法をいくら使っても、疲れた記憶がない。

初日にはしゃいで、いろいろ試してた時や、さっき狩りをしていた時。

正確には分からないが、ポーラが魔法で遊んでいたのよりは、たくさん魔法を使っていると思う。

それに、ポーラの使う魔法よりも、おそらく、魔法の規模や質は上のはずだ。

そうすると、普通に考えて、ポーラよりも魔力を多く使うような気がする。



・・・というか、魔力?

いままでいろいろ『鑑定』してきて説明に書いてあったのは、魔素だった気がする。

『身体装甲』を作るものや、『アマジュの実』に多く含まれているものは、魔素だった。

魔素は魔力とは、違うものなのだろうか。


気になったので、カイトに聞いてみた。

カイトは、「昔習ったことだから曖昧だけど」と、思い出しながらも、丁寧に説明してくれた。



魔素は全ての源。魔素は空気中、水中、地中等のありとあらゆるところに存在している。

一方で魔力は、魔素を取り込んだ生物が、体内で魔素を変換させ、蓄積するもの。

生物が魔法を使うときは、魔力を媒介に魔素へ命令を出し、魔法を発動する。魔法発動のために、魔力を使用すると、蓄積された魔力は失われる。そして、再度、魔素から変換し、体内に蓄積されていく。

そして、発動する魔法により、消費する魔力の量も変化する。発動する魔法の威力が高かったり、大きかったり。とにかく、生み出すものや現象が大きく強ければ、その分、多くの魔力を消費する。



また、生物によって、体内に蓄積できる魔力の量や、魔素を魔力に変換する効率に差がある。


蓄積量・変換効率ともに優れているのは、体内に魔石を有する、魔獣や魔物だ。魔獣や魔物が魔素を魔力に変換し、魔力を体内に蓄積するときは、体内にある魔石がその流れ・働きをコントロールする。そのため、体内に魔石を有しない生物と比べて、遥かに蓄積量・変換効率が優れている。


その次が、『魔族』や『エルフ』などの種族。彼らは、体内に魔石は保有していないが、身体の構造上、魔素への親和度が高く、蓄積量・変換効率が優れている。


最後に、『人間』だ。『人間』は、蓄積量・変換効率のどちらをとっても、魔獣や魔物、『エルフ』や『魔族』に劣る。それに、魔素への親和性がかなり低いため、『魔族』や『エルフ』と比べて、発動できる魔法の強さも、魔力の回復スピードも劣る。

それを補っているのが、魔法発動の際の詠唱らしい。呪文は、魔法発動の際に、余計なイメージをしてしまうことで、余計な魔力の使用と魔素への命令が分散されることを防止し、目的の事象へストレートに働き掛けるために生み出されたもののようだ。

その詠唱を駆使しても、一般人には魔法を発動できるような魔力が無いことが通常で、魔法に長けた者同士で、数世代、数十世代に渡って子をなしてきた貴族だけが魔法を使えるというのが一般的な理解らしい。


イメージのみで、つまり無詠唱や簡単な詠唱のみで魔法が連発できるのは、魔力に優れた種族の『魔族』や『エルフ』とか、魔法を長く研究してきた大魔法使いと呼ばれるような、ごく一部の『人間』— 賢人と呼ばれるような人だけだという。


私が今まで、魔力切れなるものに遭遇しなかったのは、『魔竜族』っていう種族による恩恵ということだろうか。少なくとも、『魔族』に近しいものを感じるし。



・・・・・・それにしても、人間が詠唱を重視していたのは、種族の性質上仕方が無いことだったのか。イメージという本質部分にたどり着くために、生み出されたのが呪文ということなんだろう。



しかし、それではカイトやポーラが僅かではあるが無詠唱でいきなり魔法を使えたことの説明ができない。

ポーラは、ユニークスキルで『魔法能力』の“中”を備えている。おそらくこのスキルは、魔法を使う際に何らかの恩恵があるのだろう。ぱっと思いつくのは、魔力による魔素への命令がスムーズとか、効率がいいとか、かな。

しかしカイトには、『魔法能力』のスキルはない。それでもカイトは、試してみて一発目で、不完全ながらも魔法の発動に成功している。

・・・・・・うーん、よくわからない。



 ♢ ♢ ♢



カイトの説明で魔力や魔素に関する知識を得て、また自分の経験や仮説に合わせて、情報をアップグレードできた。依然として謎なことは多いが、それも追々分かってくることだろう。


教えてくれた礼をカイトに言い、何気なく「よく知ってるね」と頭をなでてあげると、嬉しそうな、恥ずかしそうな表情をして、顔を逸らされた。

うん、かわいい。



それから、カイト達の成果を確認する。

『セルの実』を砕き、実を煮出して塩を精製する作業は、うまくいったようだ。

作っておいた、できあがった塩を入れておく用のコップは満杯になっており、似たようなコップが更に3つ、満杯になっている。


「この入れ物は、カイトが作ったの?」

「うん。お姉ちゃんの作った入れ物を真似して作ってみた。最初何回か失敗したけど、すぐに作れるようになったよ」

「そっか。ちゃんとカイトも魔法が使えるんだね」

「・・・うん。けど、魔法はポーラの方が得意みたい。『セルの実』を煮るときの水とか火とか、全部ポーラにやってもらったし。煮立つの待っている間も、お姉ちゃんの使ってた魔法を真似して、『光魔法』で明かりつくったり、『火魔法』で『ファイヤーウォール』出したりしてたから。・・・まあ、はしゃぎすぎて、魔力切れ起こして、眠っちゃったんだけどね」


カイトは少し悔しそうに、それでいて妹のことを誇らしそうに説明してくれた。


・・・・・・ポーラ、やっぱり魔法が得意だったか。

そんな風に話しながら、片付けを終えると、いつのまにか、太陽がもうじき沈もうとしていた。


「奥に入って、夜ご飯にしよっか。ポーラも食べるでしょうし」

「うん!」



そういって、2人で奥へと入っていった。







・・・・・・あ、カイトに、リンを紹介するのを忘れてた!

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