犬はスプレー缶をくわえて

八木辰

犬はスプレー缶をくわえて

真っ黒な朝に朝日を描くために犬はスプレー缶をくわえて


アストラル体は生身を失ってまだ僕である執念はなに


魂は丸いものだと信じたい時々ネジのようにおもえる


複数の過去がありただ一つさえ思い出はない人造兵士


この星に残されたまま朝九時の久遠にそっとタイムカードを


焼ける街 焼けていた街 跡形もない風の跡、その地平線


綿菓子の棒が朽ちずに流れ着く島には赤い戦車の部品


雨雲の端に隙間があるでしょうあれを覗くと死んでしまうよ


さざ波は銀紙にして逆光は百万ワットの想像にして


修理した方の身体を使うからプールに浮いた使わない方


ビル群の生きた部分が引き合って分裂もしてできた怪獣


今日咲いた花をどこかに植えなおすために錯綜するプログラム


もう誰も雨に泣いたり恋したりせずにしとしとしとしと降った


目ん玉を宇宙に飛ばし脳みそは地球に残し考えている


便所だけ残った街は生きているたまに洗浄水が流れて


狂暴な自動販売機が弱い自動販売機を食べていく


唯一にして絶対の存在を今日はカメラが突撃取材


青空が大きな穴に居直って落下していく地上のすべて


スプレー缶くわえた犬は犬かきを月にむかって短い脚で


PCを閉じて世界は暗くなり再起動まであと三世紀

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犬はスプレー缶をくわえて 八木辰 @tsugikisakura

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