第19話 青の牛
「双眼鏡で太陽見んなよ。」
「そんなことわかってるよ。」
窓の前で祖父と孫。並んでメカと怪獣の闘いを見る。
平太郎は大袈裟な本能を鎮めるため、現物を見るため必死に覗く。
双眼鏡の中には、羽が四枚で身体は蝉によく似た昆虫型メカと『ナメクジ型怪獣』が闘っているのが見えた。
『蝉型メカ』は地上とコードで繋がっており、無数の光弾を怪獣に浴びせている。
「あのコードは何?」
隣を見ると、どこから取り出したのか源三も双眼鏡を目に当てていた。
「多分。エネルギーやら燃料やらを地上から送っているんだろう。もしくは下で操作しているか、その両方か。」
ドローンのようなものなのだろう。
しかしながらメカに乗らないで怪獣と闘うなんて怖くはないのだろうか。
実際。平太郎は途轍もなく怖い。メカに乗っているときはこんな恐怖心は湧かなかったのだが、ただの建物越しに見る怪獣には恐れてしまう。
建物はメカと違って動けないからだろうか。それとも反撃能力がないからだろうか。その無力感からなのか怪獣が次元の違う存在に思えた。
しかし怪獣を見ていないと心の中で現実よりも恐ろしいものになってしまうので、しっかりと見ている必要があるのである。
そんな調子で二人が真剣に窓の奥を観察しているので、友子も興味を持ったのかそそくさと二人の後ろにまできた。
「平太郎君まで、真剣に見ちゃって。そんなことされたら私だって気になるじゃない!」
彼女がそう言うとテレビに電源が入る。
気を利かせて社長が、外での戦闘のテレビ中継をつけたようだ。
四人一列でテレビを見る。
「やっぱ上からの方が見やすいな。」
テレビ局は複数のドローンを飛ばし、中継を行っている。
「あ。」「あ。」
平太郎と友子の声が重なった。
画面の向こうではメカが被弾し、墜落していく。
それを脳が認識したと同時に大きな揺れが小屋を襲う。
『蝉型メカ』が敗れたことを肌で実感する。
思わず平太郎は窓に急いだ。
双眼鏡を構えるとその先には地面に倒れるメカとそれに群がる羽虫のようなドローン郡がみえた。
壊れたメカは地下へ運ばれた。
その間も『ナメクジ型怪獣』は刻一刻と『居住区』に進行している。
すると怪獣の後ろの地面が動き、メカ搬出用のエレベーターの出口をつくる。
下から真っ青の機体。平太郎も知っている『人型メカ』がせり上がってきた。
【ニュース速報 『ネオ・ジャージー』の出撃を確認】
とテレビの上の方にテロップが流れる。
すると『居住区』側から一斉に大量のドローンが職場の上を通って行った。
世間ではとても人気なのかもしれない。
メタリックブルー。特徴的な牛のデザインの『人型メカ』は背中に二本携える棒状の武器を一つ手に取り臨戦態勢に入る。
それに気づいたのか『ナメクジ型怪獣』がゆっくりと振り返る。
数秒間の睨み合う。
先手を打ったのは怪獣。
口から粘性のある弾をメカに向かって吐き出した。
それに『人型メカ』は怯む様子もなく、両手で持っている金属の棒でそれを振り払う。
武器が吐いた弾に当たる。それはその場で爆発したが、メカの本体どころかその武器まで壊れておらず若干表面が焦げた程度。
真っ黒な爆風を貫くように一突き。
『ネオ・ジャージー』の反撃で棒状の武器が怪獣の身体に刺さる。
棒を伝って怪獣の薄紫の体液が漏れ出る。
逆鱗に触れたか痛覚を刺激したのか怪獣は咆哮を上げて、下半身をメカに向かってぶん回す。
青いメカはそれをジェットを使ったジャンプで避けた。
空中でもう一本の武器を取り出すと、落下の勢いでそれを怪獣にねじり込む。
『ナメクジ型怪獣』は杭が打たれたように地面に磔にされ身動きがとれない。
そこを狙いメカは怪獣の頭に殴りを入れる。
拳が突き抜けると、怪獣は液体のように床に広がり動かなくなった。
「圧倒的だ。」
テレビの前で平太郎がそうこぼす。
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