第18話 復の帰
「皆さん。これでまた怪獣狩りできます。」
改まった挨拶を社長がする。
珍しく源三たちの職場では朝礼が行われていた。
あの演習から三日後の出来事である。
「それも、ここにいる皆様のお陰であります。」
社長が友子、源三、平太郎と一人一人の顔を順に見て話す。
朝礼が終わると皆、いつもの定位置に戻る。
平太郎は応接用の長椅子に座り、ほか三人はそれぞれの机に向かってそれぞれ業務を行っている。
皆が己の作業に取り掛かり会社全体が静まり返ったその時、遠くから凄まじい爆発音と共に窓が揺れたのを感じた。
小屋に吊る下がった風鈴が暴れている。
友子と社長は気にせずに作業を続けている中、源三ただ一人が窓辺まで行きブラインドを上げた。
「始まったか!」
怪獣退治を生業としている企業は国に申請することで、居住しないことを条件に『戦闘許可区』に特別、本社ではない建物を建設する事が認められている。
ここの職場も『戦闘許可区』にある為、大型怪獣が出現すると窓から遠くにその姿を見ることができる。
「どうしたんですか?怪獣なんていつもの事じゃないですか。」
友子がパソコンを見ながら源三に声だけを向ける。
「いや!いつものとはひと味違う。ここ最近じゃ一番強い奴だって専門家は睨んでるらしい。」
「専門家って。源三さんまた変な記事読んだんでしょ。」
「平太郎。もしかしたら俺たち番が回ってくるかもしれないぞ。」
源三は友子の言葉を気にせず、話し相手を変えた。
「うん。わかった。」
平太郎がそう返事をすると、今度は友子が彼に話し掛ける。
「平太郎君。お爺さんの言うことだからって何でも聞く必要ないんだよ?それに確かうちの順番は十六あたりだったし多分回ってこないよ。」
「そうかもですね。」
たまにでたらめを源三は言うので彼女の言葉も一応頭に入れておく。
突如。建物が揺れるほどの地響きが轟き、源三のタブレット端末が鳴る。
「一番目の奴、やっぱしやられたみたいだ。」
「なんでメカがやられて喜ぶんですか!このまま押されたらこっちも避難しなければならないんですよ。」
源三がそんなことを言う友子が反応した。
「まあまあ落ち着いて。最初に出撃した人がやられるなんてよくあることじゃない。」
さっきまで湯のみでお茶を飲んでいた社長が、割って入り二人を鎮める。
皆が各々の椅子に座ろうとした時。遠くから連続して爆撃音が聞えた。
咄嗟に源三は窓へ向かう。
「今度の奴は勝てるのか?」
窓辺で独り言を呟く。
先ほどよりも激しい音と揺れ。
しかし十分も経たないうちにそれは止んだ。
「やはりただ者じゃあないな。あの怪獣。」
そう言う源三はタブレット端末を見ていた。
恐らく二番目の人も敗れたのだろう。
続く三番目だがさっきまでとは違う。あまり揺れを感じず音も聞こえない。
闘っていないのではないかというとも思えるのだが、源三が必死に双眼鏡で覗いているので多分闘っている。
「音も聞こえないし二番手のメカが勝ったんじゃないんですか?」
「さっきよりも静かなのは三番目が近接攻撃。つまり肉弾戦で挑んでいるからさ。」
友子は「ふーん。」とだけ言ってパソコンを見つめ直す。
「あー負けた。」
源三は双眼鏡を降ろす。
三番目はあっさり負けたようだ。
するとなると四番目。
二分の静寂の
コンクリートの粉を若干含む強風が通りすぎ、風鈴は糸だけを残してなくなっていた。
「そろそろ避難命令が出るんじゃないんですか...?」
彼女の言う通り小屋と怪獣との距離が徐々に縮まっている。
爆風や振動もさっきよりも近くに感じる。
それを平太郎の本能は危険、命の危機と受け取ってしまう。そうは言ってもまだまだ遠くで闘っているのに。
妄想で恐怖が膨張する前に、たまらず平太郎は源三と窓に並んだ。
「やっぱり、見たいよな怪獣退治。」
源三は隣に立つ平太郎に双眼鏡を渡した。
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