怪獣産業アイランド

香具師の木

第1話 搭の乗

「やっぱ、じいちゃんの家、回線悪いわ。」


 太平洋に浮かぶ小さな人工島に住まう少年、平太郎へいたろう


 彼は今、祖父の家に居候になっていた。


 今日も中学校に行かずに引きこもり、ゲームをしていると。


「上手いもんだな。」


 と、彼の祖父の源三げんぞうの声が背後から聞えた。白髪で身長は170センチ程度の七十手前の声だ。


「じいちゃん。ゲーム知らないだろ?」


 知った口をきく祖父に、少し強い口調で返事をする。


「銃。撃ってんだろ?見ればわかる。」


「どうだか。」


 源三はその後もしばらく平太郎の後ろに立っていた。「あまり見ないでほしい」との旨を伝えようと振り向くと、何やら閃いたかように手のひらをグーでたたいていた。


「よしっ!決めた。」


「何が?…てか、じろじろ見んな、あっち行っ」


 平太郎がまだ言いかけである事も気にせず。


「ちょっと、ついてきて」


 と嬉しそうに源三は平太郎の腕を掴んで玄関からでた。



 外に出ると頭頂を燦々と照らす太陽が短い影をつくる。庭のプランターにはきゅうりとなすが大きく実っていた。まさに夏本番。


「まだゲームの途中なんだけど!」


 平太郎がそう言っていたが、源三はもう車に乗り込んでいた。窓から顔を出して「待っているけど」的な顔で平太郎を見つめている。


 しょうがなく助手席に座ると、車は東の海辺方面に発進した。



 この人工島。『狭間島さまじま』は文字通り伊豆諸島と小笠原諸島の狭間はざまに浮ぶ島であり独立国。

 また、伊豆諸島と小笠原諸島を城壁に例えたときに、その隙間から怪獣を撃退する様が城壁から矢や銃を放つための狭間さまのように捉えられた為。


 本城である日本列島を守ってもらいたいとの願いが狭間島の由来だとか。


 つまり怪獣から日本を、世界を、守ってほしいとの想いで造られた狭間島。

 

 

 その想いは、この島の東部一点で引き受けている。狭間島は大まかに『西の居住区』と『東の戦闘区(戦闘許可区)』の二つに分かれており、そして平太郎を乗せた車は今。東へと向かっている。


「ちょっと!こっちは怪獣が出る危ない方じゃ?」


「そうだとも。今からそのおっかない怪獣を狩るんだよ!」


「なんで急にそうなんだよーー!」


 徐々に海に近づく車は『怪獣狩ってます。』という看板が立て掛けられいるプレハブ小屋の前に止まった。

 

「ここだ。降りよう。」


 源三はシートベルトを外して車を降りた。どうせ降りなければならないと分っていたので、平太郎も後に続いた。



 怪獣が現れて五十年が経とうしている現在では怪獣は大衆化しており世界中の人々、企業が狭間島に集まり怪獣を狩る様になっている。


 そうなった経緯はただ単に安全保障の為だけではない。怪獣の死骸、素材は画期的な物質であった。その為。エネルギーに建材、兵器に家具まで怪獣の素材に置き換わった。


 世界は怪獣製品で溢れ、人類とその素材は今や切っても切れない関係にある。そこに目を付けた企業が一つ、また一つと集まり狭間島に新たなが生れた。


 その流れに乗った小さな会社が目の前のプレハブ小屋の正体だ。どうやら源三はここの一員らしくずかずかと入っていった。


「社長いるか~。」


「おーう源ちゃん。」


 中から老人の声が聞こえる。扉の前で入ろうかどうか迷っていると、若い女性に「どうぞ入って下さい。」と言われ。平太郎は、恐る恐る足を踏み入れた。


「この子が。」


 扉の奥に入るとほぼ毛の生えていないお爺さんにそう言われた。多分、いや確実に源三より年上。


「はい、ぴったりな人材です。」


 かしこまった態度で源三が答える。


「新たな乗組員になってくれるのか!」


「やっと見つかったんですね。」


 老人とその隣にいる女性が嬉しそうな反応を見せる。平太郎は薄々感づいてはいた。


 これから自分が怪獣と闘うことを...。




 



 

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