第2章

第13話


「はぁ⋯⋯、ふたりとも睨み合ってないで仲良くしてよ」



 今わたしは、ほとほと困り果てていた。

 なぜなら、深月と麻里が目の前で睨み合っているから――正確には、不機嫌そうに麻里を睨みつける深月と、新しいおもちゃを目の前にして、楽しくて仕方ない様子で深月を見る麻里だ。

 試験も無事終わり、カフェで楽しく会話していたはずなのに⋯⋯。いつの間にかこんなことになっていた。


「仲良くしてるよー? だよね? 長谷川さん」

「してない」

「あはは、振られちゃった」

「麻里、あんまり深月をからかわないで」


 はぁ、麻里の悪いとこでちゃってるな。

 麻里は普段はサバサバした性格で付き合いやすい反面、Sっ気が強いというかいじめっ子気質というか、からかえる対象を見つけるとやたら絡むところがあった。

 まさに今その矛先が深月に向けられていて⋯⋯。


「だってただの優等生かと思ってたら、長谷川さんって面白いんだもん」

 笑顔でわたしの手を握る麻里。途端、深月の機嫌が更に悪化していく。


 これはわざとやってるな。わたしをネタにしないでほしいんだけど⋯⋯。


「別に優等生じゃない」

「そうかなぁ? 成績もトップクラスに良くて生活態度も良かったら、立派な優等生のいい子ちゃんじゃない?」

「いい子なんかじゃないから。それより朱莉の手離して」

「えー? どうしよっかなぁ。っていうか、そもそも長谷川さんにそんなこと言う資格なくない?」

「朱莉は友達だから」

「あたしも朱莉の友達だけど。しかも長谷川さんより前からね?」

「それは⋯⋯そう、だけど」


 深月が悔しそうに俯く。

 これはもうだめだ。いじめっ子が過ぎる。


「麻里、ちょっと言い過ぎ。あと、手離して」

 わたしは握られた手を引きながら、真面目な顔で麻里を叱りつける。

「えっ、言い過ぎた? まじか、ごめん」

「わたしに謝っても意味無いでしょ」

「長谷川さんごめんね?」

「⋯⋯」


 素直に謝る麻里を余所に、深月は視線を逸らしたまま返事をしない。思わずため息が漏れそうになるのを、すんでのところで飲み込む。

 

「深月も麻里がからかってるだけなのわかってるでしょ? そんなムキにならないでよ」

「だって⋯⋯」

「朱莉のことだから、余計ムキになっちゃうんだよねー?」

 


 あぁ、もう⋯⋯。謝ったのに、すぐからかうじゃん。わたしに叱られた深月は、よっぽどショックだったのか目に見えてしょんぼりしてるし。どうしたらいいんだ――っていうか、そもそもどうしてこうなった⋯⋯?




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