第10話 side深月


「ちょっ!?  いや、待って! 」


 抱きしめた朱莉が腕の中で慌てている。

 私こそ待って欲しい。もう胸がいっぱいで受け止めきれない。


 言えなかった、ローソクを消す時のお願い事。

 朱莉に傍にいてほしい。

 その願い事を口にすれば、優しい朱莉の負担になってしまいそうで言えなかった。

 誰かを願うなんて、私には怖くて出来なかった。


「みっ、深月?」

「うん」

「ちょっと離れて欲しいかなぁ?」

「やだ」

「やだっ!? なんで!?」

「離れたくない」


 そっちこそなんで。離れたくないに決まってる。

 私は願い事を言えなかったのに、朱莉は叶えてくれた。思い出をくれて、寂しくないようにってうさぎをプレゼントしてくれた。一緒にいるって言ってくれたんだ。

 気持ちが溢れて止まらない。

 

「わっ、分かった、から。少し落ち着いて。ね?」


 むっ⋯⋯。私は朱莉を困らせたいわけじゃないから、ちょっとだけ離れてあげる。嫌だけど。

 開いた距離に、いっぱいだった気持ちが減ってくような感じがした。

 なんだろうこれ。なんか、嫌だな⋯⋯。

 朱莉が起き上がり、私はまた朱莉を抱きしめる。

 

「朱莉に言われたとおり、ちょっと離れたからもう離れない」


 むしろ、私は我慢したんだから、今度は朱莉が我慢する番だ。私が寂しくないようにってうさぎをくれたんだから、朱莉は責任を持つべきだ。

 きっと、さっきの嫌な感じが寂しいって気持ちだから。


「朱莉、ぎゅってして?」

 減った気持ちを埋めたくて、物理的な距離を埋めていく。


 朱莉は責任を持つべきなんだ。だって朱莉が言ったんたから。

 うさぎ寂しいと死んじゃうんだって。




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