魔女と共に在る者《ワン・ウィズ・ザ・ウィッチ》
N/2
第0章 始まりの2人
プロローグ
王都アルトバート、大陸の中心部に位置するこの国はかつてない程に好景気の真っ只中にあった。
魔女の存在が人々の中から出始め、人が魔法を使い始める事で生活水準が格段に向上。
様々な分野で発展を遂げていき、ビジネスチャンスを掴んで成功させた者も多数いる。
経済が回ることで、人口が爆発的に増加してそれ以上に経済が潤う。
まるで何者かが描いた壮大なシナリオの中に入り込んだのではないかと思うほど発展した都、それが王都アルトバートである。
しかし、誰しもが成功者として多くの富を得ているわけではない。
王都アルトバートの市街地、その奥の方に佇む一軒家の一室で、オクタヴィオは飢え死に寸前の憂き目にあっていた。
「は、腹減ったァ……」
オクタヴィオは何でも屋と自宅を兼ねた部屋の真ん中で倒れていた。寧ろ昏倒しかけていたと言っても過言ではないだろう。
空腹による目眩でオクタヴィオの視界が霞む。このままでは意識を失ってしまいそうだ。
「何か……食べ物……」
呟く声すら掠れている。
もう限界だ。オクタヴィオは床に手を突き、何とか立ち上がろうとするが、上手く力が入らない。
(あぁ……もう駄目だ)
オクタヴィオが諦めかけたその時だった。
バタンッ!と勢いよくドアが開かれて、そこから一人の女性が現れた。
オクタヴィオはその姿を目にして、驚愕すると同時に歓喜した。
「た、助かった……」
そう言ってオクタヴィオが安堵の息を吐いた瞬間、彼のの前に現れた女性はにっこりと微笑み、彼の前まで来て言った。
「貴方、お腹が空いているのね。 これ、あげるわ」
そう言いながら彼女が差し出したのは、なんとサンドイッチだった。
それを見た途端、オクタヴィオの腹がグウゥ~ッと大きな音を立てる。
その音を聞いた彼女はクスクスと笑って、オクタヴィオにサンドイッチを差し出したままこう言った。
「お腹空いてるんでしょう? 食べていいわよ」
彼女の言葉に甘えて、ありがたく頂くことにする。
早速一口かじると、口の中に爽やかな風味が広がる。シャキッとしたレタスの食感と、トマトの酸味、ハムの旨味、それらが渾然一体となって調和している。これは美味い。
あっという間に食べ終えてしまうと、オクタヴィオは改めて女性の姿をまじまじと見つめた。
年齢は二十代前半くらいだろうか。ふんわりとしたショートの白銀の髪に、透き通るような空色の瞳を持つ美しい顔立ちをしている。スタイルも抜群で、出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいるという理想的な体型をしていた。
着ている服はとても上質な物のようで、黒のドレスローブ姿で首元に掛かるファーとスカート部分の幾重にも重ねられたフリルが特徴的だ。生地の良さが一目で分かる程であった。
そんな女性が自分に向けて微笑みかけてくれているという事実だけで、オクタヴィオの心は満たされていくのだった。
だが同時に不安にもなる。こんな美人が自分のような貧乏人に何の用なのだろうか。
まさかとは思うが、借金取りとかではないだろうなと思うのは無理もなかった。
何故なら自分は生まれてこの方ロクな人生を歩んでいないからだ。
幼い頃から殺し屋として育てられ、銃の扱い方を徹底的に叩き込まれてきたのである。当然学校にも通ったことがないし、友達と呼べる存在もいない。
だから、もし仮にこの女が取り立てに来たというのなら、金は全くないが素直に払うしか選択肢はない。そう覚悟を決めていると、女が口を開いた。
「貴方、何でも屋さんよね?」
その言葉にドキリとする。何故それを知っているのだろうか。自分が何でも屋をやっていることはごく一部の人間しか知らないはずだというのに。
「……そうだが」
オクタヴィオが警戒しながら答えると、女性は嬉しそうに微笑んだ後、こう続けた。
「お願いがあるんだけど、聞いてくれるかしら?」
嫌な予感がしたが、断れば何をされるか分からないので仕方なく話を聞くことにした。すると、彼女は驚くべき提案をしてきたのである。
「私の護衛になってほしいの」
それを聞いて、オクタヴィオは思わず耳を疑った。聞き間違いかと思ったくらいだ。しかし、確かに今聞いた言葉は現実だったようだ。困惑するオクタヴィオをよそに、女は話を続ける。
「実は私、追われてる身なのよね」
「はぁ……?」
予想外の展開に面食らうオクタヴィオだったが、無理もないことだった。何しろ、いきなり初対面の女から「私を護衛しろ」と言われたのだから。
戸惑うオクタヴィオを尻目に、女の話は続く。
「さっきも説明した通り、私はある組織に追われているの。 奴らは私のことを血眼になって探しているわ。 見つかったら間違いなく殺されるでしょうね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
勝手に話を進める女に待ったをかけるオクタヴィオ。いくらなんでも唐突すぎるだろうと抗議するも、聞き入れてもらえなかった。
「何よ、何でも屋の癖に役に立たないわね。 もっと男らしいところを見せなさいよ。 それでも本当に何でも屋なの?」
「ぐっ……!」
痛いところを突かれてしまった。確かに彼女の言う通り、自分は何でも屋としての自覚が足りないのかもしれない。そう思うと何も言い返せなかった。
「さぁ、どうするの? 私と来るのか、それともここで飢え死にするのか、どっちにするのかしら?」
選択を迫られ、オクタヴィオは考える。どちらにせよ、このままだと飢え死にするのは確実だ。ならばいっそ賭けに出てみるのもいいかもしれないと思った彼は決断を下すことに決めた。
「……わかった、アンタの護衛を引き受けるぜ」
そう言うと、オクタヴィオは立ち上がった。そして、倒れた時に落ちてしまった銃をホルスターに収めてから彼女に向き直り、頭を下げる。
「よろしく頼むぜ、お嬢さん」
それを聞いた女性は満足そうに微笑むと、彼に手を差し伸べた。その手を取りながら、オクタヴィオは問いかける。
「それで、お嬢さんの名前は?」
その問いに、彼女は答えた。
「そうね……じゃあ、『ユイエ』と呼んで頂戴」
それが、二人の出会いだった――……
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