スイカ・フラッグス

ツーチ

スイカ・フラッグス


 スイカ・フラッグス。



 それは砂浜で行われる熾烈なスポーツだ。



 今では世界で最も危険でイカれたスポーツとして名が知れている。



 このスポーツが流行り出したのは今から5年前。俺の記憶では浜辺にスイカを持ってスイカ割りに来ていた奴らがふざけてスイカに棒をぶっさしてその突き刺した棒をスイカから引っこ抜いて遊んでたのがこのスポーツの起源だと思う。



 その悪ふざけの動画は瞬く間に世界中に拡散され大きくバズった。そして海外では大きな大会まで開催されるようになったんだ。



 スイカの中心に旗のついた棒をぶっさしてそれを20m離れた地点から一斉に奪い取る。どうしたわけかそんな馬鹿なスポーツの優勝賞金が日本円換算で約5億円だってんだからバカげてるよな。これも世界的なインフレの副作用ってやつかもな。



 その大会がまた話題を呼び、スイカ・フラッグスの競技人口は今では世界でおよそ15億人。世界中のスイカ生産者の中には大きな富を得た者たちがいたという。

 今では世界の有名スポーツのように世界団体も出来、棒の長さや旗の色や形状にも国際基準が出来るようになった。



 だが、このスポーツ、スイカ・フラッグスには致命的な欠点があった。それは死傷者の多さだ。20mの距離から旗めがけダイブする動きのためにそのままフルスピードでスイカに激突し、スイカとともに頭を割る事故が多発した。その光景はスイカの汁なのか、死傷者の血なのか判別できない程に悲惨な光景もいくつも眼にしてきた。



 世界各国の政府はこの危険なスポーツの規制に乗り出した。が、話題が話題を呼んだこのスポーツの人気や獲得賞金が膨大となったこともあり、結局多くの規制への反対を受け、今でもスイカ・フラッグスは世界各国で人気を集め続けている。



 そしてそのスイカ・フラッグスにはもう1つ花形の仕事がある。それはスイカに旗を突き刺す仕事だ。

 


 たかだかスイカに旗を突き刺すだけなのだがこの仕事、そうたやすいものではない。スイカ・フラッグスでは旗を突き出す際にスイカが決して割れてはならない。そのため、旗を刺す者はそのスイカの状態。すなわち形状、中心、硬さなどを判断し、適切な箇所に旗を素早く突きさす必要がある。



 素早く、かつ力強く旗をスイカの中心部にまで突き刺すことが重要なのである。それが旗を抜いた際にスイカが綺麗に割れ、会場が大きく盛り上がる秘訣でもあるからだ。



 そんなイカれたスポーツだが、実はこの旗をスイカに突き刺す仕事、実に割のいい仕事なのだ。1回スイカに旗をセットするだけで約20万円の報酬。世界大会ともなれば1回のセットで約1000万円の報酬だという話を聞いたこともある。

 年収1億を優に超えるものもザラだ。



 競技者側としてスイカに激突して死ぬようなリスクもないこの仕事は瞬く間に目指す者が多くなった。が、この仕事をなせるものは少ない。皆、大半はスイカを割ってしまうからだ。そのため多くの者は競技者としてリスクをとって大金を掴もうとしている。



 「……どらっ!!」



 「はいっ、オッケーでーーす!!」



 俺はそんな誰もが挑戦し、そして多くが去って行ったスイカ・フラッグスの旗立て員をやっている。今日も誰か死傷者が出るのだろうか。



 「……さて、これからビーチに広がるのはスイカの赤い汁か。それとも競技者の真っ赤な血か。。」



 「では始めます!!」



 『ピッ~~!!』



 会場に集まった多くの目の血走った観客を背に俺はいつものように笛を吹き、世界で最も危険でイカれたスポーツが今日も始まるのだった。




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