デーモンとボクの夏休み
笹 慎
🌻😈🌻😈🌻😈🌻😈🌻😈🌻😈🌻
悪魔「お前、友達いないだろ?」 ボク「……」
第1話 おそらく「こましゃくれたガキ」のボク
ジリジリジリ。朝からセミが鳴く。一週間で子孫を残すミッションをこなさなければいけないカレらのことを思うと、このそう音もしかたない。
さて、小学五年生の夏休みもあと一週間で終わろうというころ、ボクはベランダでしゃがみこんで絶望していた。なぜならば、学校から持ち帰った植木ばちに宿っていたはずの生命体が死んでいたからだ。
確かにかなり重かったから持ち帰る道すがらたくさんの不満を君には述べたし、なによりベランダに設置した後、水をやるでもなく存在を今の今まで完全に忘れ去ってはいたけれど、なにも死ぬことはないじゃないか。
ヘチマ、ボクと君との仲だろう? ボクのネグレクトに怒っているのかもしれないけれど、なにも死ぬことはないじゃないか。
学校で習った詩を思い出し、ボクは結びで同じ文章を二回くり返す。
そもそも小学五年生にもなって植物の観察日記などという子供じみた宿題が出ること自体に疑問をもつわけであるが、そんな宿題が出てしまった以上、小学校という国の提供するサービス機関に属しているボクの取れる選択肢は「期日までに提出する」しかないわけである。
「こうやって、お父さんのようなサラリーマンにボクもなっていくのだ」
種どころか、タワシとなるはずの実さえ実らせることなく、枯れたヘチマをながめて、ボクはそう独り言を言ってため息をついた。
「もう! エアコンつけてるのに長時間、窓開けないで! 電気代もったいないでしょう!」
いそがしく出社の準備をしていた母は、この夏休みめずらしく早起きしているボクに小言をいう。確かにロシアがしている戦争のせいで燃料の高とうにより電気代やガス代が上がっているとニュースで言っていた。
「早く戦争が終わるといいね」
ボクは窓を閉めるでもなく、そう返す。
「……もうホントあの人そっくり」
期待した返事も行動もボクがしなかったせいか、母は父の悪口を言ってベランダの窓を閉めた。窓のカギをかけないでいてくれるのは優しさか。いや、それこそ閉めたら児童ぎゃく待になってしまう。母もきっとボクがこのヘチマのような末路をたどることは望んでいないのだろう。
そんなことを考えながら、ボクは母が先ほど閉めたばかりの窓を開けて室内にもどった。
「今週末はパパのところで、おとまりなんだから金曜日までに準備しておくのよ」
母は玄関でケンケンしながらクツをはき、週末の予定を話し始める。ボクは「そんな何日も先のことを今指示されても、どうせ覚えてられないだろうな」などと考えつつも母との二人暮らしの生活を良好に保つために従順にうなずく。
母親とは大抵思いついた時に口にしたがる生き物なのだ。そして、「だから言ったでしょ!」と、怒りたいのだ。
ただ、本当に言ったかどうかは本人の「しっかり者の私ならきっと言っているはず」というコンキョなき自信に基づいた発言のため、試しに怒られた際に「言われてないよ」と言ってみたところ、かなりドウヨウしていた。やはり、覚えていない説が濃厚である。
なお、母は自分のことを「ママ」、父のことを「パパ」としょうするが、ボクは小学三年生のころにはそう言った呼び方から卒業していることを、ボクのメイヨのために記しておきたい。
「お昼ご飯は冷蔵庫にあるからチンしてね。テーブルの上の千円札はムダづかいダメよ。使ったらレシート必須よ! それから、出かける時は戸じまりよろしくね。でも五時までには帰ってきなさい」
矢つぎ早にお留守番の指示を出す
ボクの門限は夕方五時なわけだが、たとえ門限を破ったところで母の帰宅時間はいつも夜七時を過ぎてるわけで母に確認のしようはないのであるが、下手に逆らって室内に「見守り」という名の監視カメラを設置されても困るので、ボクは従順を装う必要がある。
そうして、バタバタと、いそがしそうに母は出勤して行った。
さて、ボクのヒゴ下にあったヘチマが死んでしまった今、ボクがカレ(カノジョかもしれない)のためにできるツグナいは、図書館に行って植物図かんを確認し、カレ(またはカノジョ)が生きていたであろう
図書館が開くまで、まだ二時間もある。仕方ないので、とちゅうの計算式を書かないと、なぜかやったことにならない計算ドリルの宿題を先にやることにした。
とちゅうの式なんかなくても答えが合っているならばよいと思うが、先生たちも公務員だからきっと目に見える不正無しで生徒ががんばったというショウコがほしいのだろう。まだ大学を卒業したばかりのちょっとカワイイ担任の先生が困らないように、ボクはメンドウくさいけど、とちゅう式を書いてドリルをうめる。
どうにかメンドウな計算ドリルをこなして時計を見ると、図書館が開く時間までもうすぐだった。ボクは水とうにウォーターサーバーから水を入れ、塩アメとスマホをリュックの小物入れに、お財布には母からの千円札をしのばせる。
それから観察日記ノート、筆記用具に十二色セットの色えん筆を入れ、野球ぼうをかぶって家を出た。家のカギと自転車のカギは、チェーンで首から下げている。ダサいけど失くすと大変なことになってしまうのでしかたない。
ボクは「オシャレよりも利便性を追求する男」なのだ。父の受け売りだけど。
マンションのエレベーターを降りてエントランスを出ると、外はまだ午前中だというのにもう炎天下だった。自転車置き場から自分の自転車を出す。
いっしょに暮らしていない父は、ボクにそこそこ高い物をプレゼントしてくれる。親の罪悪感が形になったモノとはいえ、カッコいい自転車はそれなりに満足度が高い。
自転車にまたがると、約十分ほどのキョリにある図書館へとボクはペダルをこぎ始めた。
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