クラゲとコウモリ
森本 晃次
第1話 綾香の家庭
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。当時の世相や作者の憤りをあからさまに書いていますが、共感してもらえることだと思い、敢えて書きました。ただし、小説自体はフィクションです。ちなみに世界情勢は、令和三年六月時点のものです。それ以降は未来のお話なので、これは未来に向けたフィクションです。
吉倉あいりが、いつどこからやってきたのか、誰も知らなかった。だが、川崎綾香はそんなことはどうでもよかった。
「気が付けば友達になっていた」
そんな感じが実にふさわしい表現だとおもっていた綾香だったが、時々、あいりが分からなくなるところは少し気持ち悪かった。
綾香は、今年二十八歳になるが、これまで男性と付き合ったことはあるが、長続きをしたことはなく、本人としても、結婚を考えたこともなかった。綾香が高校生の時に、両親が離婚した。父親の不倫が原因だったが、離婚はスムーズに進んだが、それは母親が慰謝料をもらおうという意思がなかったからだ。
どうやら、直接的な理由は父親の不倫であったが、その前に、母親も不倫をしていたらしい。。時期が被っているわけではなかったが、母親の不倫に気づいた父親が不倫に走ったのであって、父親が不倫相手を見つけた時には、母親の方は不倫から、足を洗っていたようだ。
だから、表面上は、不倫をしていたのは父親だけだということになったが、母親が不倫をしていたことを言わない代わりに、慰謝料請求をしないという契約が暗黙の了解のように成立していたので、慰謝料請求の放棄は、不倫をしていたことに対しての一種の口止め料と言っていいのではないだろうか。
高校生の娘はそんなことを知りもしなかった。
もっとも、そんなことを知っていたのは、母親の妹だけだったようだ。
そのおばさんは、ちょうど弁護士をしていたので、姉である母親の相談をm妹として聴く反面、弁護士としてのアドバイスもできたので、相談相手は妹だけであったが、相手にとって不足はなかったと言ってもいいだろう。
おばさんは、時々家に遊びにきていた。ずっと独身を通してきていたので、高校生の綾香としては、
――弁護士という仕事をしているとはいえ、自分が結婚できていないのに、離婚相談だとか、夫婦間の相談を受けるのって、なんか嫌なんじゃないかしら?
と思っていたが、嫌な顔一つせずにこなしているのは、やはり弁護士という仕事を結婚よりも優先したからだろう。
もし、毅然とした態度で臨むことができなければ、結婚を犠牲にしてまで仕事をしている意味はないのではないかと思ったのだ。
だが、それは少し違ったようだ。
おばさんが結婚をしないのは、もっと単純な理由だった。
「結婚しようと思う相手が現れなかっただけ」
という理由であり、弁護士の仕事も充実していて、結婚よりも人生の優先順位をしては十分に高かった。
「それにね。結婚前にこれだけ結婚後のトラブルを見せつけられたら、自分が結婚しようとは思わなくなるわよね。実際に結婚していないんだから、夫婦の奥のことは分からない。それだけ、法律に則った判断ができるという意味ではいいのかも知れないわね」
とおばさんは言っていた。
確かにそうだろうと、綾香も思った。下手に人情噺や、修羅場の話などを聞かされて、どちらかに過剰移入してしまうと、弁護士としては中途半端になってしまう。
「弁護士ってね。公明正大というわけではないのよ。弁護士の一番の使命は、依頼人の利益を守ることなの。だから、それが倫理上まずいことであっても、優先されるの。何も知らない人は弁護士を聖人君子のように思っているかも知れないけど、これほど理不尽な商売もないのかも知れないわね」
というのだった。
そんなおばさんが、両親の離婚のアドバイスをしていたのであって、正式な依頼ではなかったことで、
「弁護士として言えることは、慰謝料をもらえないのは、しょうがないことなんでしょうね。名誉を守るというのも、ある意味利益を守るということでもあるので、たぶん、他の弁護士に依頼をしても、同じ結果だったんじゃないかしら?」
と、おばさんは母親に言ったという。
これは後で聞いた話だったのだが、母親が不倫相手と別れたのは、不倫相手が母親から離れたからだったという。どうやら母親には、どこか性格的に歩み寄れないところがあるようで、それは長く付き合っていれば感じることだという、
同じ思いを父親もしていたことで、母親が不倫をしていると知った時、
「変に問い詰めて修羅場になるよりも、どうせあいつだって不倫をしているんだから、俺だってしてもいいじゃないか」
と感じたようだった。
父親も母親も、それぞれにしたたかなところがあるようだ。そんな性格を知ってか知らずか、おばさんは、姉の不倫を最初から知っていたが、基本的には余計なことを言わなかった。
それは弁護士としての立場上の問題と、姉に対しての性格を判断した場合を考えれば、おのずと考えられる行動であった。
相手の男がどういう人だったのかは知らない。あれから二度と母の前に現れていないのだから、知る必要などまったくないだろう。それにもう現れる可能性は皆無なのだ。そんな状態で、いまさら知ることもないはずだ。
ただ、母親の性格が自分に遺伝しているかも知れないというのは危惧されるところだ。父親の不倫も気にはなるが、最初から浮気癖のようなものがあるのか、それとも、母親に対しての当てつけなのか、あるいは……。
最近では、そのもう一つの方が気になっている。それは、
「すぐに飽きが来る性格なのか?」
ということであった。
母親は相手に、
「長く付き合う相手ではない」
と思わせたというではないか。
ということは、母親が飽きられる身体をしていたからなのか、それとも父親が、母親にとっくに飽きていたのに、娘である自分の手前、我慢をしていたのか。
そんな葛藤があったうえで、母親の不倫が発覚した時、
「俺がこんなに我慢してやっているのに、お前ときたら」
と思ったとすれば、父親も飽きっぽい性格だったというのもあるかも知れない。
母親が飽きられやすくて、父親も飽き性だとすると、それが娘に遺伝しているとすれば、どちらが強いかによるのだろうが、自分も気を付けなければいけないことだと、綾香は感じていた。
さらに、気になっているのは、高校を卒業する頃から、つまりは、両親が離婚してからすぐくらいからだろうか、
「自分は友達から嫌われているのではないか?」
と感じるようになっていた。
そもそも、友達も多い方ではなかったので、それまでそんなことを考えたこともなく、後で思えば、
「よくも、考えなかったものだ」
と感じたほどだった。
綾香は自分で自分のことを、楽天的だとも思っていなかったが、
「品行方正でも天真爛漫でもない自分が好かれているはずない」
と思っていた。
それは、まず間違ってはいないだろう。嫌われているとまでは思っていなかったが、好かれてはいないと思っていた。どちらかというと、存在の薄いタイプで、その他大勢の中にいるだけの人間だと感じていて、それでいいんだと思っていたのだ。
別に人から好かれたいとは思わない。
小学生の頃から、
「人に好かれる女の子でいないといけないわよ」
と、母親に言われていたが、好かれることのどこがいいのか、まったく分からなかったのだ。
「人から好かれるって何なのよ」
と感じていて、
「好きになった友達がどこまで自分のためになるというの?」
と、打算的なことまで考えていたのだった。
小学生時代の綾香は、絶えず、母親から好かれる女の子でないといけないという観念を持っていた。
自分のまわりにいる人に対して無意識に優先順位をつけていて、その一番がダントツで母親だったのだ。
父親や先生、クラスメイトは、横一線であり、ただ、自分のそばにいるというくらいだった。肉親である父親だって、顔を合わせるのは夜のちょっとした時間か、朝の朝食の時間くらいである。
綾香は朝の時間が嫌いだった。目覚めがあまりよくないというのもあったのだが、目覚めてからの、朝の喧騒とした時間を味わうのが嫌だった。
「おはよう」
と口にしただけで、誰も何も話そうとはしない。
母親は、黙々と朝食の準備や平行して洗濯もしているようだった。そのせいで、洗濯機のなる音が嫌いだった。それは朝の時間に限らず、他の時間も同じことで、それだけ嫌だったのだ。
誰も話をしないので、ちょっとした音でもやたらときになっていた。それも嫌だったのだ。
特に洗濯機の音は結構聞こえてきて、綾香の気持ちを忖度するなどありえない、まったく遠慮のない音は、節操がないように思えていた。
それは、そのまま朝の喧騒とした雰囲気に飲み込まれていき、そもそも、わざとらしさすら感じるほどだった。これほど肩身の狭い思いをどうしてしなければいけないのか、悩ましかった。
さらに何が嫌だったと言って、朝食がワンパターンで嫌だった。メニューは毎日和食。ごはんに味噌汁の定番、おかずは、卵焼きだったり、焼き鮭だったりが主流だった。
さすがに味噌汁の具は毎日変えてくれていたが、汁の味に変化はない。飽きない方が不思議なくらいだ。
みそ汁の具で好きなのは、玉ねぎとジャガイモの味噌汁であった。これだけは飽きがこなかったが、それ以外の、わかめと豆腐であったり、厚揚げと豆腐、などは嫌いではなかったが、好きにはなれなかった。
中には、どうにも嫌いだったのが、ナスの味噌汁で、これは、焼きナスが起因していた。うちで焼きナスというと、他の家庭でも同じなのかも知れないが、酢醤油にかつおぶしというのが定番だった。
母親も父親も、酢の入った料理は嫌いではないようで、特に母親は酢が好きだったようだ。
しかし、綾香は酢が完全に嫌だった。あの臭いがまず嫌で、
「食べながら酸っぱいものを口にした時に、思わず咳が止まらなくなるほどの息苦しさを、なぜおいしくもないのに我慢しなければいけないというのか?」
と思っていた。
そんな思いをしなければいけないのは、拷問だと思っているので、酢を使うものは基本的に嫌いだった。
特に、餃子を食べる時などは、餃子の独特な匂いと、あの酢をたっぷりと入れた自家製のたれの匂いが混ざった時、
「まるで毒薬のようだ」
とまで思ってしまって、本来の餃子の味が分からなかった。
だから、中学生まで、餃子は嫌いだったのだが、高校に入って友達と言った中華料理屋さんで、餃子を頼んだ時、
「私はいいわ」
と言ったが、
「ここの餃子はおいしいのよ。騙されたと思って食べてみればいいわ」
と言われて、注文したが、その時酢は自分で勝手に入れればいいことが分かると、酢を入れずに初めて餃子を食べたのだった。
「おいしい。餃子ってこんなにおいしかったんだ」
と言って感動すると、
「食べたことがなかったわけではないでしょう?」
と言われて、違うことをいうと、
「それは、あなたの勝手な思い込みよ。これで今まで嫌いなものが一つ克服できたでしょう? 他にもあるんじゃないかしら?」
と言われて、それからしばらくしてから、嫌いなものにチャレンジしてみると、意外と食べれたものも結構あった。
朝毎日食べさせられて、ウンザリとしていたものも、一時期食べずに、しばらく経って食べてみると、おいしく食べられたものも少なくなかった。思い出してみれば、そういう料理は結構あるというもので、朝食の時間は、後から思い出すのも嫌になっていたのだ。
大学に入ると、朝食は摂らなくなった。
「別に食べたくなければ食べなきゃいいんだよ」
と友達は言っていた。
中学時代までは、家族そろって朝食を摂るのが当たり前で、毎日飽きもせずに、ごはんと味噌汁。もううんざりだった。
しかし、修学旅行で出た朝食も同じご飯に味噌汁、そこに、タマゴであったり、焼き鮭があった、見た瞬間ウンザリだったが、実際に食べてみると、
「これ、おいしい」
と、思わず声に出して言ったくらいだった。
こんなにも場所が違えば美味しく感じるものなのだろうか? いや、おいしいと思ったのはたぶん味付けの違いと何よりも、食べさせられているという感覚のないことだろう。
同じ朝の喧騒と下雰囲気なのだが、家族団らんなどという言葉とは程遠い、まったく会話のないただの義務だけで食べていた朝食とは違い、修学旅行という解放された環境が、同じ朝食でも明らかな違いを感じさせるのだった。
それを知った時、自分の家庭がどれほど封建的な家庭なのかということを思い知った気がした。朝の食卓だけではなく、小学三年生くらいまでは、夕食ですら、
「お父さんが帰ってきて、皆で食べるのよ」
ということで、一応、八時までは待たされたものだ。
七時を過ぎる時は、先に風呂を済ませて、父親の帰宅を待つ。それが当たり前のことであり、どこの家でも同じなのだと思い込まされていた。
別に、
「他の家も皆そうなのよ」
と言われたという意識はなかったので勝手に思い込んでいたのだが、従順な子供にそう思い込ませるのだから、その罪は決して軽いものではないだろう。
実際に、
「これって、昭和の時代の家族のことじゃない。時代遅れも甚だしいわ」
と、知るのは、両親が離婚してからのことだった。
それまで、父親の意向に素直にしたがっていた母親が、綾香が高校生になった頃からまったく変わってきた。基本的にそれまでの家族のルールがまったく守られなくなり、家族は好き勝手なことを始めたのだ。
まず、父親の帰りが遅くなり、
「夕飯をみんなで」
という儀式がなくなった。
それにともなって、母親も帰りがまちまちだったりするので、夕飯は重い思いで好き勝手にやっていた。
最初の頃は、
「綾香、今日は表でご飯食べてきなさい。お母さんも遅いから」
と言って、お金を貰っていた。
その頃から、母親はパートを始めたようで、それで帰宅してから食事を作っていたのでは間に合わないということだったのだ。
綾香は、それまでの封建的なルールにウンザリはしていたが、急に好き勝手にと言われると、どこか不安な気がしていた。
あれほど、好き勝手できることを望んでいたのに、いざできるようになると、どこか躊躇があったのだ。
だが、それも最初だけのことで、一人でゆっくりできる時間ができたことは嬉しかった。表で食事と言っても、いつも一人で、
「今日は何を食べよう」
と思うのが、あれだけ楽しみだったはずなのに、すぐに億劫になってきた。
そもそも、飽きっぽいのだから、それも考えたら当たり前のことだったはずである。
そうやって、綾香の家庭は壊れて行った。いや、その歪はもっと前からあったのであって、壊れかけていると感じたその時は手遅れで、修復不可能な状態だったようだ、分かっていたとしても、娘にどうすることもできるはずもなく、すでに、修復不可能なところまできてしまうと、娘の綾香を見る余裕などなかったのである。
これからの自分たち、離婚することは決定事項の中で、娘というのは、家庭の中での、付属品という程度の認識しかなかったようだ。まるで、財産分与の中の一つでしかないような感じだったらしいということは、後になって気づきはしたが、離婚の話で両親が余裕のない時には、気付きもしなかった。
ただ、両親の腹が決まって、それを綾香に話をすると言って、今までにはなかった家族会議成るものが催された時、
「ああ、これで終わったな」
と感じたのは間違いない。
「お父さんとお母さんは、これからそれぞれの道を歩むことに決めたんだが、お前は
どっちと一緒にいたい」
と言われた。
正直、一人で暮らす方がいいというのが本心だったが、まだ高校生、一人で暮らすなどできるはずもなく、どちらかについていくしかなかった。
基本的には、母親なのだろう、少なくとも父親と二人で暮らすなどという選択は、想像もつかなかったからだ。
綾香は父親と言っても、血の繋がりを感じたことはなかった。それは小さい頃のことから思い出しても、いや、思い出すから、余計に血の繋がりを感じないのだ。
父親らしいことをしてもらったという意識はない。小さい頃はおばあちゃんも一緒に住んでいた。お父さんのお母さんに当たる人で、一番血の繋がりを感じられた人で、一番自分を可愛がってくれていた。
「孫は可愛い」
と言われるが、まさにそうだったのだろう。
綾香の面倒をみてくれていたのはおばあちゃんだった。その頃は、まだ家族そろっての食事などというのはなかったのだが、その祖母から離れて、都会でマンション生活をするようになったのは、父親の転勤がきっかけだった。
祖母も最初は一緒にいくのかと思ったが、
「おばあちゃんはついていけないよ」
と言って、どうやら、老人ホームに入ったということだった。
それから祖母とは会ったことがなかったが、いまさら会いたいという気持ちにもなれないのはなぜだろう?
「まさか、あの父親のお母さんだから?」
と感じたからであろうか。
もし、そうだとすれば、どこまでも自分が父親を嫌っているかということの証明のようで、
「それもありなんじゃないか?」
と思えたのだ。
都会のマンションに住むようになってからだった。家族の間での取り決めのようなものができたのは、
「食事は皆で食べる」
こんな昭和の腐ったような取り決め、時代錯誤もいいところではないか。
それを悪いことだと思わずに、中学時代までしたがっていた自分も情けない。
だが、その情けなさは、自分が気付かなかったことにあるのではない、自分が情けないというよりも、封建的な父親に逆らえない母親が情けなかったのだ。少しでも抗ってくれれば、少しは母親らしいと思えたのに、小学生の頃など、綾香が何かしでかせば、
「お父さんに叱ってもらうわ」
という言い方をしていた。
高校生であれば、
「あんたに自分の意志はないのか?」
と言えるのだろうが、小学生くらいでは、母親に対してそんなことが言えるわけもない。
いうだけの根拠が自分にないのを分かっているからだ。
とにかく、家は父親の専制君主だった。父親のいうことは絶対で、そして母親はそんな父親に絶対服従だった。何が嫌と言って、その絶対服従を母親は綾香に強いるのだ。だから、
「お父さんとお母さん、どっちが好き?」
と訊かれたら、
「お母さんの方が嫌い」
という答え方しかできないだろう。
どちらも嫌いだということが大前提になり、そこからの思考にしかならない。だから、そういう回答になるのだった。実際に誰かにその回答をしたことはなかったが、訊かれれば間違いなく、そう答えていただろう。
それなのに、
「どちらと一緒にいたい?」
という質問は違っている。
「どちらとなら一緒にいることができる?」
と訊かれているのだ。
父親ではないのはまず大前提なのだが、では母親だったら我慢できるか? というのが、考え方の基本だった。どちらと一緒にいたいなどという発想とは程遠いこの思いは、
「やはり、子供を自分たちの所有物としてしか考えていない証拠なんだわ」
としか思えない。
「下手をすると、娘に選ばせたということは、話し合いの結果、二人とも子供を引き取るのが嫌で、結局結論が出なかったということで、子供に丸投げしたというだけのことではないのか?」
と思ったが、結果としては、それに間違いはないようだ。
結局綾香は、頭の中で必死に減算法を駆使することで、母親と住むことを選択する以外にはなかった。
「こんな選択、二度としたくないわ」
と感じた綾香だった。
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