Chunk7 有れど見えぬは私の心か双子座流星
小学校の時の私は、特に特筆すべきこともない平凡な生徒だったように思う。中学生ともなると皆コミュニティの中でのルールに従い、そこからあぶれてしまえば学校生活など詰みだと思う程度には、社会の縮図の中で青春を謳歌していた。人間関係の損得や立場など計算高く行動し、まるでそこにしか世界がないかのような、大人で子供な立ち振る舞いだ。私といえば興味がないのか勘が鈍いのかそう言った暗黙の了解など理解できずに、いや認識すらもできずにいた。
「おはよっ」
声をかけても反応は暗い。いくら勘が鈍くともリカの感情の変化くらいすぐに解る。長い付き合いなのだ。どうしたのか聞くも何でもないの一点張りでしつこく聞いても喧嘩になると、それ以上は聞かなかった。10月のとある日、私はこの日を境に学校に行くことがなくなった。
「うーん、知らない。」
幼い頃からピアノを習い、当然のように吹奏楽部に入っていた。この日の放課後、カバンも教室もあちこち探したが私の楽譜が見つからない。部員に聞いてもそっけない態度。過去にも何度か失くしたことはあったものの、どうやらそれらは嫌がらせだったようだ。私ときたら気にも留めていなかったな。何たって、楽譜なんて無料ダウンロードできる世の中だ。私の不注意だろうと思うのが当たり前じゃないかな。
「ありがと。じゃあいいや。」
しかし、この日はゴミ箱に入った私の楽譜を見てしまった。そういうことかと納得し帰路に就いた。音楽もパソコンさえあれば作れるし、音楽教室に行けば奏でられる。帰りしなバレーコートのリカと目があったが、こちらから視線を逸らした。
「私のために学校来ないんだよね。」
殺風景な私の部屋に彼女の声が響く。
テレビ番組はドッキリ企画をしていて、モザイクのかかった一般人が仕掛け人に声をかけられていた。
「関係ないよ。行きたくないだけ。」
そう答えながらPCで作曲を続けていた。
そのモザイクの一般人も初めは怪訝な顔をしていたと思いきや、悪人役が仕掛け人をなじると、状況を判断したのか途端に弱者の味方をする。やはり人とは全体像を見定めないと状況を判断できないと言うことだ。テロップには「困ってる人を助けられるか?」、初めは怪訝な顔をしていたというのに、偽善に似た編集だ。
「私なんか守らなきゃ、こんなことにならなかったのに。」
数週間前バレー部の前を通りかかった時、リカへの嫌がらせを目撃し止めに入ったのが原因だそうで、それからローテーションが私に移ったそうだ。確固たる意見の違いで起こるわけでもない、ただの娯楽に近いんだろう。聞かなきゃどれも覚えていないものばかり。ある年ある地域で偶然育った同い年が、同じ箱の中で集団生活するわけだ。そんなこともあるだろう。私にはどうでも良かった。
「明日から来てよね。」
彼女はそう言い残して部屋を出た。私がしたいことは家でもでき、学校に行くメリットは別に感じない。メリットがある人の意見を否定するつもりもない。現にそんなメンドくさいことさえ無ければ、登校していたのだから。現在私が登壇しているのも、そうした子達の受け皿となる為でもある。
2021/12、音楽教室から帰っているとケントに呼び止められた。その時驚いて落とした、当時は最新機種のスマホに、一本のヒビが走る。小高い山の展望台へと誘われて帰宅後に連れて行かれた。どうやらことの顛末を母やリカから聞いている様子ではあったが、直接そのことに触れることもなかった。
「膿は出したほうが良いな。逃げ得の世の中だから。」
昨今の社会情勢は過去の隠蔽癖から魔女狩りが盛んだ。全て明るみにする為に逃げる事への罪は、自白した時よりも重罪にすべきだと彼は言う。子供の私には難しすぎてよく分からなかった。どうにも口を破らない私に業を煮やした彼は本題に入った。
「お前が仲良くすると、その周りに迷惑がかかると思ったんだろ。」
さすが、リカもケントも私のことを理解している。彼が指差した空を見上げれば夕暮れ時。
「ホントは数えきれないほど見えるはずなんだけどな。」
2021/12/14 16:00、有れど見えぬは私の心か双子座流星。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます