Chunk3 きっかけ
楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、配信は2時間におよんだ。最後の演出は私の好きなエフェクトだ。Uzumeの周りも会場全体も瞬く星が散りばめられる。そのランダムな輝きは一瞬たりとも同じ表情を見せたりはしない。私たちもオンライン上にUzumeファンの友達が幾人かいる。リカはその仲間等と何やらやり取りをしているみたいで、この後の計画を聞いてきた。
「リアる?バーチャる?」
この流れはもちろん予想していた。どうやら夕食の準備が終わり次第、仮想空間のUzume公式の溜まり場で再集合するようだ。自身は部屋で飲食しながら仮想空間で集まるといったところか。
「ごめんね、明日の授業の準備があるんだ……」
などと体良く断り、みんなと同時にログアウトした。裏面に『Geminids1214』と印字されたペンダントを左手で触れながらスマホを確認する。幾叉にも割れた画面には62%の文字。充電はできているようだった。暗証番号を高速で思い出そうとするが先に顔認証で立ち上がった。そんな仕様だったなぁなんて、右の人差し指で当時のSNSアプリをタップした。ディスプレイの亀裂から一瞬放電の火花が飛び散る。
「あちっ」
熱さが伝わるほど長くはないのについ発してしまった。保護フィルムなんてしてなかったかと自身のガサツさが変わっていないことに驚愕しつつ画面に視線を落とす。ノイズが入りながらもアプリは起動した。SIMも入ってないこの端末ではもう中身は初期化されているかもしれないと一抹の不安はあったものの、予想に反してその廃アカは立ち上がった。
1番上はリカ
「結局答えは貰えなかったけどね。」7/24。
2番目はお母さん
「買い物してきてもらえる?」 7/21。
スクロールする指が止まる。
8番目はケント 3/14。
8番目はやはりあの人だった。この頃は2022年、懐かしさに目を細める。相変わらず若干のノイズが掛かったままだが気にせず彼とのやり取りを確認する。通話記号と2:13の文字。その下には彼からの最後の受信メッセージ。
「元気でな。」
これが最後の彼の言葉だった。
「行かないで。」
キーパッド上の私の言葉は送信ボタンが押されず、今日までずっと時を超えていた。日々の想いが綴られていた公開設定オフのタイムラインには、空白の投稿が一箇所あり文が打ち込めるようだ。あの日あの電話。何を話したんだっけ。
ーーけど客観的な形に残してた方が事実ってわかりやすいよねーー
生徒の言葉が脳裏をよぎる。うろ覚えの内容だろうとこの断片がこれ以上に砕けぬよう、書き込むべきだと思った。確証などないただの記憶をつらつらと入力する。
”彼の夢を応援した。ホントは行って欲しくなかったくせにそれは私のわがままだと知っているから止めることさえできなかった。ペンダントを返してもらった。その後リカにメッセージを送った。”
グラデに映る、数分前の受信通知にも気づかないほど没頭していた。
「今日は楽しかった。チケットもありがとね。」
リカからの連絡が映し出された。
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