肉風船、中身はチート

@yuzukarin2022

第1話

 俺はゲームクリエイターである。

 創造神様に頭脳チーム(俺以外は皆マシーナリーという種族だった)として徴収されて、長期休眠を繰り返しつつも、それはもう頑張った。

 魔法世界は無事銀河帝国を作り、神様も大満足。


 使っていたアバターや神力、仕事場の天空島などの仕事道具の他、稼いだ財産など作業中に手に入れた物、更にご褒美として、ショップシステム、給料分の通貨、転生チケット束まで貰った。十分以上の報酬である。


 早速転生チケットを使った。

 複数枚使えば条件をよりよく出来るのだが、必要ないやろ。

 性別だけ指定する。


 そして、俺は転生した。

 

 生まれた先は、御三家なんてめっちゃ偉そうな所の分家だった。

 2歳で異能に目覚め、特訓開始。7歳で初陣を迎えたらしい、俺に構ってくれる以外は訓練か勉強をしている兄様を見て、俺は無能を装う事を決めた。

 異能のあるなしの差はデカかった。

 兄は讃えられ、俺は蔑まれたけど、問題ない。兄は俺にゲロ甘だしな。

 でも、実際に魔物が人を襲う世界でそれは差別ではなく区別である。

 命懸けで戦うんだから、讃えないと割りに合わないからな。

 兄からお金を借り、パソコンをなんとか手に入れ、ゲーム販売でお金を稼いで、お小遣いは潤沢である。

 借りたお金は利息つけて返しましたよ。兄はびっくりしていた。あと、ゲームで遊んでくれた。優しい。


 情報収集した所によると、異能の持ち主は貴族となって魔物と戦うらしい。

 俺は異能を隠してるから、平民である。

 魔物はダンジョンから出るらしい。

 ダンジョンについては何も分かっておらず、ある日いきなり出現した。

 武器と異能で頑張って対抗しているが、ジリ貧。 

 ダンジョンによる強化はなしと。何それ。ダンジョンと言えばレベルアップシステムだろ。

 魔物は倒すと石を残して消えて、石についても使い道なし。どころか、ダンジョン内に放置すると魔物が復活するらしい。そして放置するとスタンピードを起こす、と。

 こんなん現れたら確かにジリ貧ですわ。


 ふんふん。一度ダンジョンに行きたいな。

 兄貴に一度ダンジョンに連れて行ってくれるよう頼んだけど、無能力者が未成年でダンジョンに行くなんて、って怒られちゃったんだよな。

 石はもらえたけど。


 と思ったら俺を気に入らない奴にダンジョンに置いて行かれましたよっと。

 兄の威光を傘にくる肉風船と罵倒された。

 まあ、俺だけ魔物退治の業務に関わってないからね。太ってるのも事実だし。


 ちょうどいいから解析しますかね。

 神様の頭脳チーム舐めんな。

 貰った石を端末にダンジョンに接続できた。


 ダンジョンをハッキングできないかやってみる。

 ヘロヘロへロー。ハローダンジョンってね。

 

 これかな?


 魔物が全て石に戻る。

 ちょろいわぁ。


 でも流石に解析までは時間掛かるかな。


 解析しながら洞窟の奥まで進む。

 ダンジョンコアみーっけ。


 ダンジョンコアに接続。


 嘘だろ。メインシステムに接続出来たわ。

 とりあえず、全てのダンジョンを停止。

 不用心だなぁ。

 俺に管理者権限を移動して、端からアップデートと。俺が王様だ。

 トントントン、ネットワークをどんどん辿っていく。

 嘘だろ、本星のプログラムの書き換え行けちゃう?

 セキュリティ一応あったけど紙ですわ。

 悪戯したろ。AIを送り込んでっと。

 ほーれほーれ俺の考えたモンスターの方がかっこよかろう強かろう。

 システムだってこっちの方が燃えんだろ?


 ……腹が減ったな。

 今日はここまでにしておいてやるわ。

 地球のダンジョンにプロテクトを掛けて、と。


「ふぅ。疲れたぁ。甘い物食べたい」

「要? 終わったかな」


 声が掛かり、びっくりして振り向く。兄がいた。


「うおっ にーちゃ。どうしたの?」

「何って、ダンジョンに放り出されたって聞いたから、急いで来たんだよ。でも、忙しそうだったから見守っていた。これは?」

「ハッキングしてみた」

「ハッキング?」

「そ。俺、プログラム得意じゃん? なんかイケた。セキュリティゴミクズだったわ」

「そ、そうか……。飴食べるか?」

「ありがとう、にーちゃ」

「他のダンジョンも、その。停止できるか?」

「もう停止した」

「要は自慢の弟だな」


 飴をぺろぺろ舐めながら、俺は帰路についた。

 めっちゃ褒められたし、大騒ぎになった。

 

「ダンジョンコアは破壊しようと思うんだが。どう思う?」


 兄にお伺いを立てられる。今ならダンジョン停止中だから、コアが破壊し放題なのである。それより今日の晩ご飯は俺の好物の特大オムライスだ。

 お預けはきついです。お兄様。


「ダメだよ、あれもう俺のだし。パソコンに組み込むんだ。今のパソコン超スペック低いから不満だったんだよね。向こうが馬鹿なら明日もまだセキュリティホール残ってるかもしれないし、もっと遊びたいな」

「あれは、機械、のようなものなのか? 向こうとは?」

「そー。玩具。でもしょっぼいから俺が改造して見本見せてやったんだよ。向こうはダンジョン送ってきたとこ」

「玩具……。改造って?」

「端末を武器化させて、倒せば倒すほど強くなるようにすんの。ダンジョン内でしか作動しないようにすれば悪用もしにくいだろうし。魔物だって俺が作ったのの方が絶対格好いい」 

「向こうにあるダンジョンを弄ったのかい?」

「ううん。アトラクションだけじゃなくて、ネットワークに繋いである奉仕用ロボット全部。あっ 子供は攻撃しないから! それにクリア可能な難易度だし」

「要、人の命を玩具にしてはいけない」

「なんで?」

「私が玩具にされるのは嫌だ。悲しい、辛い。悔しい。惨めだ」

「にーちゃ……」

「そんなものより、新しいゲームは欲しくないかい?」

「欲しい!」

「明日は好きなゲームを買ってあげるよ」

「にーちゃ、太っ腹!」

「その代わり、向こうの人と話したい。出来るかな?」

「あー。出来るけど。今からダンジョンに戻るの? 俺もう疲れちゃったなぁ。明日でもいい? せめて食べてから」

「そうだね。今日はお疲れ様。いっぱい食べなさい」

「うん!」


 たらふく食べて風呂に入り、気分よく眠った。

 その後、身支度を整え、ダンジョンへ。

 朝ごはんは道中でおにぎりを食べた。


 ダンジョンに行くと、偉い人と軍人さんがいた。

 俺はダンジョンコアに触れる。


 地獄絵図が映し出された。

 人々が襲われ、殺されていく。


『偉大なる空飛ぶ肉風船様。ゲームは順調です。既にルールを理解した者も』


 美しき悪魔が恭しく頭を下げる。


「空飛ぶ肉風船?」

「ハンドルネーム。悪いんだけどさ。にーちゃが偉い人と話したいって。連れてこれる?」

『かしこまりました』

「ということで、ちょっと待っててね、にーちゃ」


 そして、激しい戦いが起こる。

 

「何、子供盾にしてんの? いいよ。面倒くさいしそのまま屠っちゃって」


 それからしばし待つ。お菓子を持ってきてもらい、ポリポリ食べながらネットサーフィン。

 何買ってもらおうかなー。


「にーちゃ、ゲーム買うの先にしない? 時間掛かりそう」


 そこで、偉い人が引き摺り出されてきた。その体は血に塗れている。

 兄の顔が青い。こっちの偉い人の顔も青い。


「にーちゃ。大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。首相、お願いします」


 偉い人が前に出る。それから、交渉が始まった。

 どうやら、話し合いは決裂したらしい。

 玩具の分際でうんぬんカンヌン。まあ、聞く必要のないことだ。


 偉い人は、俺の前に跪いて目線を合わせる。


「要君」

「うん?」

「この人達のゲームは、とても困るんだ。だって、僕達はそんなゲームを望んでない。二度とこんなゲームが出来ないようにできるかな?」

「嫌だ。だって、こんなんダンジョンが悪者じゃん。ダンジョンに悪いイメージがつくのは嫌だ。もっと楽しいゲームにしてやんよ。それで、向こうの人達も、俺達も、ハッピーだ」

「要君」

「要。画面の向こうの人達は笑っているかい?」


 むしろ泣き叫んでいる。怒り狂ってる人もいるけど。


「そりゃ今はそうだけどさ。もうちょっと待ってよ。ダンジョンで魔物を倒せば水とかご飯とか得られるようにシステム周り整えて、皆が喜んでゲームするようにするからさ。まだライフラインとかも乗っ取ってないし、これからこれから。皆ダンジョンに依存して生きていくようになるから」

「要。ゲームをしないと生きてけないなんて、ゲームじゃなくて仕事だ。そんなゲーム、楽しいとは思わない」

「でもにーちゃ」

「要。怪我をするゲームはダメ。にーちゃの友達は、ダンジョンで死んだ。もう嫌なんだ」

「ダンジョン、楽しいよ……。こいつらのセンスの欠片もないクソゲーのせいで誤解されてるんだよ」

「そうかもね。でも、にーちゃはダンジョンで遊びたくない。この世に存在してほしくない」


 そ、そんな。そこまで?


「要君。お願いします」


 偉い人は頭を下げる。


「そ、そんな」


 にーちゃは笑った。


「要。にーちゃは、要のドーナツを作るゲームが好きだよ」

「にーちゃ……わかった。向こうは滅ぼしておくね」

「にーちゃは、自衛ができればそれでいいよ」

「向こう滅ぼした方がスッキリするし、簡単だよ?」

「要。にーちゃは子供達が死ぬのを見るのは心が痛いんだ」


 俺は助けを求めるように、偉い人を見た。


「もう二度とこの星に手出しできないようにしてください。それで構いません」

「ダンジョンを対宇宙防衛システムに作り変える事はできるけど……。そこまで行くと面倒なんだよね。毎年いちおくえんもらうよ? ……あー。だとしても毎年は怠いな、やり方教えるから、毎年はその人達が頑張ってね。毎年のいちおくえんは特許料ね! 多分特許。特許でいいよね?」

「それが平和の値段ならば、喜んで支払います。要君の望む料理を望む金額で提供できる店をおまけにつけます。リアルで遊ぶなら、料理ゲームにしてください。バトルゲームではなく」

「んー。そのお店って、ゲーム会社とコラボもできる?」

「お好きなゲーム会社を紹介します」

「やった。なら、いいよ!」


 まあ、ダンジョンごっこは前世で散々したしな。

 今やらずともいいか。にーちゃが存在すらアウトって言ってるし。


 そうして、10歳にしてダンジョンをぶっ潰した俺は、店を経営する事になったのだった。世界経営に比べれば店なんてきっとずっと楽だよね!(フラグ)

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