和風ファンタジー

@aoi-katari

むかしむかし

一人用台本 不問

20分程度


老人の語り口ですが、年齢調節は可


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…おや、お前さんアレが見えるのかい?

そうかいそうかい…山神様やまがみさまに目をかけられたかい。

いいや、悪い事じゃあないさ。ちょいと老人の昔話に、付き合ってくれるかのぅ。


あの山には神が御座おわすのさ。

山のずっと奥深くに、滝と川、小さな湖があってねぇ…今じゃ入る事も適わないが、この辺の老体はみぃんな其れを知っているのさ。うん?…嗚呼そうさなぁ、昔話だったかい。


むかしむかし、そのむかし、あの山にはとても美しい神様が居た。ここの土地も豊作が続いていてなぁ、さかえておったよ。こんなに豊かなのは山神様やまがみさまのお陰だと、皆で山を登って、小さな湖の傍にほこらを建てたのさ。

そうして1日1度、村人一人一人でほこらを守り、お供えし、参拝さんぱいを繰り返した。


ある時、村の青年が、慌てた様子で駆け下りて来た。その青年が言うには、山神様やまがみさまのお姿を見たと言う。そしてほこらを指さし、ありがとうと一言言われたそうな。その御姿おすがたは見るも美しい、空の色を染めた様な御髪みぐしに、山の木々の色を写した瞳。真白ましろの着物姿の人だったと言う。村の青年は山神様やまがみさまに恋をしてしまったのよ。


青年の伝えた容姿ようしに、村の男衆おとこしゅうはこぞって山を登り参拝さんぱいした。然し、いくら拝んでも出て来て下さらなかったそうな。山神様やまがみさまは、青年一人での参拝さんぱいの時のみ、御姿おすがたをあらわになさった。今思えば、山神様やまがみさまも最初から青年を好ましく思っていたのかもしれんなぁ……


村の男衆おとこしゅうは負けじと参拝さんぱいに通い詰めた。然しなぁ、畑仕事をほっぽり出して山神様やまがみさまほこらへと通い詰めるものじゃから、どんどん収穫は減って行った。女衆おんなしゅうがこれはよくないと思うても、手が回らなんだ。


女衆おんなしゅうは青年に頼み込んだ。山神様やまがみさまを説得しておくれとな。御姿おすがたを隠されるか、男衆おとこしゅうの前に一度切りでいいから御姿おすがたを見せてくれと。すると青年はこころよく受け入れ、山の中に入って行った。青年が山から戻ると、首元には真っ白な身体、日差しで空色そらいろに光る背、深緑しんりょくひとみをした細く小さな蛇を連れて来た。


それには村の皆は酷く驚き腰を抜かしたが、白蛇しろへびと言うのは神の使いと言われていてな。その上、青年は自信満々な様子を隠しもせず笑っていた。村の者は使いだと思っていたのじゃが、その白蛇しろへびは口を開いてこう言った。


『私の為だけにこの地を荒らす訳にはいかないと、このの子と相談して出向いた。これ以上なまけるのであれば、私はてんへと登り二度と戻るまい。からほこらを幾ら磨いたとて戻るまい。』


そして、山神様やまがみさまだと気づいた村の者は、地に頭をつけて必死に謝った。其れを見た白蛇しろへびはしゅるりと舌を鳴らし、また口を開いた。


『それで良い。然し私もまたこの男の子を気に入ってしまった。これより先、私が山より子を選び、印を示す。その子の家に一番に目をかけよう。今回の事へのばつはその程度が妥当だとうだろう』


そこまで言うと、白蛇しろへびはその御姿おすがたを隠された。

その後、この村は山神様やまがみさま気紛きまぐれで地主ぢぬしの家が決まる様になったのじゃよ。



お前さんが見たのは、山神様やまがみさまの印じゃ。お前さんの家は、お前さんが居る限りは栄えるじゃろう。


うん?ははは、山神様やまがみさまに会いたくなったか。どれ、わしが案内してやろうなぁ。然し階段が見えれば一本道じゃ、老体には登りきれん。お前ならば山神様やまがみさま御姿おすがたを見せて下さるじゃろうよ。

行ってくるといい。

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