第二章 『クロスティア学院』
第二章 1 『治療と修復』
下界の風情とはかけ離れた、巨大な施設がそびえ立つ広大な広間。
そこには様々な種族が行き来していた。ヒト族、クラリアス、エルフ族、獣人族などいずれも知能が高いとされている種族が大半である。
一つ共通しているのは身体のどこかにとある紋章の描かれた装飾をつけていること。リアの左腕につけているファーストの階級紋章と同じものであり、ガーディアンの証でもある。
リア達は施設の南に位置する医療機関へ足を運んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「こんにちは、私は受付のミレナ・アルカルテ。
クラリアス二名、ヒト族一名、それと……?」
ミレナはマニュアル通りの説明をするが戸惑う。
その理由は、リアが背負う少年の存在に気づいたからではなかった。
ガーディアンの証をつけているリア達と異なり、少年にそれはなかったからである。
施設の医療機関は基本的にガーディアンしか利用しないため、対応に困っているようだ。
「えっと、この人も連れて行って治療してと頼まれたのですが、ちょっと色々あって、上の人と相談して頂けると助かります」
リアは助け舟を出す。
正直リアも対応に困っていることに変わりないのだが。
「承知しました。クラリアス二名は専門治療室、ヒト族一名は通常治療室へ、その少年は特殊治療室へ運び込み上の者と相談します。ライカ、カイラ、その人を特殊治療室へ運んで」
ミレナの助手である双子のライカ・エルハイデとカイラ・エルハイデは、指示に従い少年を運ぶ。
明るいエメラルドグリーンのショートボブに青い瞳。顔、体格はどちらも中性的であり、少年の双子か少女の双子か見分からない。ともあれ、リア達は指示に従い移動する。
◇◇◇◇◇◇◇
リアとルミナは、クラリアス専門の治療室にいた。
医療施設と言えば、担当医の一人でもいるのが普通だろうが、誰も見当たらない。
特質するものと言えば、ベッドのような装置が十数台程並んでいることである。
二人は近場の装置に向かって歩き出す。
リアが仰向けに寝ると、──キュイン ─ピピ。音を立て装置は起動する。
『識別コード506572636576616C、認証しました。修復レベル1、実行します』
装置全体に細く刻まれた紋章は淡く発光し、リアに対して魔力が収束していくように見えた。
「……んっ……ぁあ……っっ」
リアは体を震わせ、小さく声を漏らすと程なくして装置は停止する。
驚くべきは治療速度である。
リアの損傷はそこまで酷いものではなかったが、ものの数秒で完全治癒されたのだ。
クラリアス専門の治療室では、クラリアスの核であるニュークリアスから肉体の情報を取得し、元の状態へ修復することが可能だ。
修復とは、回復の異能や治療とは異なるもので、完全に元の姿に復元するとこを指す。ただし、修復にも限度がある。
修復レベル8、意識不明かつ肉体の40%以上を損傷した場合には修復不可能である。
また、識別コードとはニュークリアスの個体番号であり、識別コードによってクラリアスの個人情報が管理されているらい。
「あれ、ルミナは早く治療しないの?」
装置の前でぼーっと考え込むルミナを見たリアは言う。
ルミナはあからさまに嫌そうに、
「いやぁ……私これ苦手なんだよなぁ……しかもこれだけ損傷してるし……」
「そんなこと言っても、そのままにする訳にはいかないでしょ。そもそも痛いとかデメリットもないんだから我慢しようよ」
ルミナは「分かってるよ……」と渋々装置の上に寝る。
『識別コード746F6E6974727573、認証しました。修復レベル4、実行します。』
起動する装置はリアの時に比べ、強く発光しているように見えた。
「……っあぁ……ぁんっ、、、ぃやぁ……んぁああっっっああああ!!!!」
ルミナが強く体を震わすと、装置は停止した。
かなりの深手を負っていながら、修復にかかった時間はリアと大差なかった。
腰を抜かしたルミナは「もう………いや……」と涙目で紅潮した顔を手で覆った後、「何とかならないのこれ!!」と顔を真っ赤にしてむくれる。
「気持ちは分かるけれど、生物的に損傷を受けると快楽物質が出るって言うし、それだけの損傷を一瞬で修復しているわけだからその逆も然りってね」
リアは頬を爪先で掻きながら答える。
理屈は理解しているが、リア自信内心ではなんでこんなことを……と感じているのだ。
ルミナは「そんなこと分かってるけれどさぁ……」と納得していなさそうに呟く。
「制服はアストルムで着替えて来たけれど、傷が深くてお風呂なんて入れてないからシャワールームに寄って行こうよ」
「それは同感。一度ちゃんと洗いたい」
ルミナはリアに賛同し、二人は治療室備え付けのシャワールームへ足を運ぶ。
シャワールームの外には不要になった制服などを入れる場所、そして未使用の制服などが常備されていた。
クラリアスがボロボロになった状態から修復した後、体を流し制服を一新できる一連の流れを実現した親切な設備だ。
身体を休めると言うよりは、機能的かつ効率重視なシャワールームであり、長居はできない仕様である。
負傷者が多い場合には混んでしまうが、これは仕方ない。名残惜しい気がするが、アストルムに戻ったら気が済むまで湯に浸かることにしよう。
「すっきりしたー。この後の講義でも聞いてから帰ろうか」
リアはクロスティア学院で講義を受けていくことを提案する。
「おっけー」
身体を洗い綺麗になったルミナは、御満悦に肯定しリアの後をついて行く。
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