第4話 毒と罠の作戦

朝、ヴェルフリッツ達は簡単に干し肉と食べ朝食を済ませた。


 ヴェルフリッツとアフティは村長の家でクラーケンに関する情報交換をする。

 ヴェルフリッツの知っていることは、人や船舶も襲うこと、そして狂暴であること、それぐらいだった。

 アフティからは、クラーケンは時に陸に上がってくること、雄のクラーケンは大海にしかいないが、繁殖期になると雌のクラーケンは、陸に近づいてくること、岩場に卵を産み付けること。食欲が旺盛なことを情報としてヴェルフリッツに提供してくれた。

 そしておそらく今のクラーケンは繁殖期であり雌のクラーケンであるだろうという。


「船舶を襲うなら、船に餌を乗せてクラーケンをおびき寄せるのはどうでしょうか?」


「そうだな、この前のようにボートで戦いを挑むよりはいいかもしれない」


 ボートで挑んだのか、それは無謀だなとヴェルフリッツは思う。

 なんたって相手は水中の中ではほぼ敵なしのクラーケンだ。


「そうですね、クラーケンはどういうときに陸に上がるんですか?」


「たまに狩りに陸にも上がる。それに、怒っている時や卵を盗まれたとき、巣穴を荒らされたときだ」


 ヴェルフリッツは考える、無用に怒らせて被害が拡大するのは怖い。


「怒らせるのはなしで行きましょう、やはり餌でおびき寄せるのが一番です」


 一瞬卵や巣穴を攻撃することを考えていたヴェルフリッツは、少し冷や汗をかいた。アフティの情報なしにクラーケンに挑めば、テオリ村にも被害が出ていただろう。

 クラーケンを仕留めるためにヴェルフリッツは頭を回転させる。


「相手は魔物です、そして食欲旺盛です。毒を盛りませんか?」


「毒か」


 アフティは少し考え。


「いいだろう、戦士として邪道だがこの際だ仕方ない」


 そう言ってうなずいた。


「この辺りで毒と言えばどのような物がありますか?」


 ヴェルフリッツが聞くとアフティが答える。


「北の丘の痺れカブトが一番強力だろう、だがクラーケンの巨体に効く程の効果があるかどうか」


「陸で足止めできれば十分です、できますか?」


「動きを封じることはできないが、何分かすればクラーケンの動きは鈍くなるだろう」


「わかりました。それで十分です。ちなみに痺れカブトは手に入れるのは難しいですか?」


「クラーケンを倒すより簡単だ、俺一人でも採って来れる。」


「では、アフティさんにはそれをお願いします。」


「わかった。」


 アフティはうなずいた。


「あとは、クラーケンの狩場だが、村の西に入江がある、そこがヤツの狩場だ。」


「なるほど、では自分が罠の魔術陣をその場に仕掛けます。」


「ヴェルフ、お前だけでは危険だ。ファムとムークを連れて行け、二人は目がいい」


「任せてくれ」


 ファムとムークはそう言ってうなずく。


「ファムさん、ムークさんではお願いします」


 ヴェルフリッツがそう言うとファムとムークは笑顔を返した。




 ヴェルフリッツは翌日、ファムと共に西の海岸に足を運んだ。


「ヴェルフの兄貴、クラーケンの姿は見当たりませんぜ」


 ムークが海岸の偵察をして帰ってきた。


「ムーク、ありがとう、ファムは今どこへ?」


「クラーケンを別の海岸におびき寄せてるんでさぁ」


 ヴェルフリッツは驚く。


「ファムは大丈夫なのか?」


「おびき寄せるぐらい、海の戦士には余裕でさぁ、ヤツの好物のまき餌を朝早くからボートでまきに言ったでさぁ。」


 大丈夫なのだろうか?とヴェルフリッツは心配になったが、もう仕方ないことだ。


「そうですか、では僕たちは罠を作りに行きましょう。」


「了解でさぁ」


 二人はゆっくりと浜辺に近づく。


 クラーケンの姿はなく、海は何事もないように静かだ。

 ヴェルフリッツは、魔力を込めて魔術陣を書き始めた。

 魔術は基本的に魔術陣を介して発動する。

 どんな些細な魔術でも魔術陣を魔力で地面あるいは空中に魔力で書いて魔術を行使するのだ。

 そして、魔術陣はその特性を理解し、難解で複雑になるほど強力になる。

 いま書いている魔術陣がそれだ。

 浜辺に文様が浮かびあがる。


「ヴェルフの兄貴、何をしてるんでさぁ?」


「魔術で罠を作っているんですよ、ところでクラーケンは何が弱点かわかりますか?」


「海竜には弱いでさぁ、後は雷にも弱いって聞いたことがあるでさぁ。」


 なるほど、雷か、それなら魔術で生成可能だ。


「ありがとう、もう少しだ」


 ヴェルフリッツが無事に魔術で罠を作ると二人はルーベ村に引き上げる。

 ファムも無事引き上げてきたところだった。


「ファム、無事だったでさぁ?」


 ムークがファムに問うと。


「それが、クラーケンに見つかっちまって。」


「ケガはないでさぁ?」


「船を沈めちまった、でも船に乗ってた餌に夢中で、俺になんて見向きもしなかった。」


 ムークが安堵のため息をつく。


「これで、クラーケンを倒せるでさぁ、お手柄でさぁ。」


 3人が話しているとアフティも帰ってきた。


「3人とも無事か?」


 4人はお互いに無事を喜んだ。


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