優しくて小悪魔なお姉さんのドキドキ診察室~歯が痛いの? ふふっ、お姉さんに任せなさい。

ねこ鍋@ダンジョンRTA走者

第1話 歯の治療を始めましょう

「あら、いらっしゃいませ。お客さんは初めて、ですよね? 間違ってたらごめんなさい。

 ああ、やっぱりそうだったんですね。ということは予約はしていませんか? 急に歯が痛くなったから急いで来た?

 あらあら、それは大変だったでしょう。それでそんなに急いでうちに来たんですね。いえいえ、大丈夫ですよ。お姉さんに任せてもらえれば何も心配はいりません。全部任せてくださいね。

 ではさっそくそれでは奥にどうぞ。すぐに診察しますからねー」


 奥に部屋に案内されて、診察台に座らせられると、歯医者のお姉さんが後ろ側から話しかけてくる。


「こちらにどうぞ。それで、今日はどこが悪いんですか? ふんふん、なるほど……。右の奥歯がすごく痛くて、夜も眠れない、と。

 ではちょっと確認しますから、台座を倒しますね。体勢がきつかったら言ってくださいね。問題ないですか? ふふ、よかった。

 それじゃあみて見ましょうね。ほら、あーんして?」


 歯医者のお姉さんが顔を近づけて覗き込む。

 その顔がどこかうっとりしたようなものになった。


「どれどれ……。ああ、ここですね。こんなに深い穴が空いちゃって……。もう悪い子ですねえ……。随分深いところまでやられちゃって……。どうしてこんなになっちゃったの? それをこれからたーっぷりと調べて、いっぱい削って、治してあげますからね……ふふふ。


 え、声がうれしそう? ふふっ、そんなこと……あるかもしれないわね。

 だって私の手で悪いところを削って、治療して、真っ白な歯に生まれ変わるところを想像したら、ゾクゾクするでしょう?

 ああ、想像したらお姉さん、ちょっと興奮してきちゃったかも……。経験豊富なお姉さんをこんなに興奮させるなんて……、とっても悪い子……。ふふふ……。

 だ・け・ど……」


 そばで聞こえる声が、少しだけムッとしたものに変わる。


「こんなに悪くなるまで放っておくなんて、ちゃんと歯磨きしてたの? 毎日よ?

 ……ふーん。お姉さんにそんな嘘が通じるなんて思ってるんだ? 夜だけじゃなくて、朝とお昼も磨いていた? どうせ忙しくてサボる日があったり、10秒くらいでささっと終わらせたりしてたんでしょう? 寝る前にお菓子を食べたりして、そのまま寝たりしなかった?


 ……ふふふ、その顔。全部図星だって書いてあるわよ。

 驚いた? でも、私だってプロなんですから。それくらい見ればわかるんですよ。

 ちゃんとお姉さんのことを信頼して、身も心も全部任せてくださいね。そうすれば、ぜーんぶ、治してあげますから。ね?」


 お姉さんの声が優しいものに変わる。


「ではまず悪い歯の周りを洗浄しますからね。少し染みるかもしれませんけど、ガマンしてくださいね。

 ちょっと冷たいお水をかけますからねー。しゃしゃしゃーっと。

 ああ、汚れた歯が私の手でどんどん綺麗になっていく……。みてるだけでうっとりしちゃうわ……。ふふふ、何度経験しても嬉しくなっちゃうわねぇ。


 はい終わりです。少し染みましたか? ふふ、そうよね、こんなに悪い歯なんだもの。ガマンしてくれたんですね。えらい、えらい。

 では次は麻酔をしましょうね。


 確認なんだけど、過去に麻酔で意識を失ったり、アレルギーなどが出たことはあるかしら?

 大丈夫? ふふ、そう。なら安心だわ

 少しだけちくっとしますけど、ガマンしてくださいね?


 あら、硬くなってるわよ? 体が。

 ふふっ。そんなに緊張しなくても大丈夫。リラックスしてくださいねー。大丈夫、ぜーんぜん痛くありませんから」


 口を耳元に近づけ、安心させるようにそっとささやく。


「では、ちょーっとだけチクッとしますよ。そんなに体に力を入れないでください。大丈夫、ぜーんぶお姉さんに任せてくれたら、すぐに気持ち良くなりますからね?


 ……もしかして、注射が怖いの? 優しく優しく、ゆーっくりと針を入れてあげますから。ね?

 ……それでも怖い? あらあら、仕方のない子ですね。お姉さんを困らせるなんて、とーっても悪い子。ふふふ」


 耳元でささやく声が、密やかに妖しく笑うような声音に変わる。


「そんな悪い子には、いいことを教えてあげよっか?

 麻酔ってね。なんで刺すと痛みがなくなるのか、実はよくわかってないのよ?

 理由はわからないけど体内に注入すると神経が麻痺して何も感じなくなるから、とりあえずつかってるんですって。だから、麻酔って免許がないと扱えないんですよ? だって、素人が扱ったら危険ですから。


 ふふふ。怖いわよねえ。よくわかってない毒を体内に注入するなんて。大丈夫。もちろんお姉さんはちゃんと免許を持ってるけどね。

 でも、もし入れる量を間違えたら……。もし入れる種類を間違えたら……。もしまだわかってない副作用があったら……。いったいどうなっちゃうのかしら……。想像するだけで……ふふ、うふ、うふふふふふふ……


 ……はい、終わりましたよ。よくガマンできましたね。えらいえらい。

 怖くて気づかなかった? ふふふ。注射よりも怖い物があると、そっちに気が向いちゃいますからね。だから言ったでしょう。お姉さんは経験豊富なんだから。身も心もぜーんぶ任せてくれたら、すぐに気持ち良くしてあげるんだから。ほら、歯茎もこんなに悦んでるでしょう?


 それじゃあ麻酔が効くまで時間がかかりますから、しばらく休憩してて下さいね?」


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