ファミレスにて③ 深まる

「おいおい!ちょっと待てちょっと待てっ」

 さっきと同じように浅原の紡ぐ物語の世界にどっぷりと浸かっていたのだが、そんな状態でも思わず声が出てしまった。最後の場面はそれ位衝撃的だった。

「おい、急に大きな声を出すなよっ。…変に注目を浴びても嫌だろ」

 浅原は顔を顰めると、小声で押し殺すようにそう言った。

「悪い悪い。あまりに驚いてつい…。 だって、今の話はどう考えても立派な犯罪だろ」

「そうだな。あの時は俺も驚いたよ。恐らく全て仕組まれていたんだろうなぁ」

「最後のあれ、スタンガンだよな?映画でしか見たことないけど、あれって本当に意識を失う程のものなのか」

 最近では護身用に持ち歩く女性もいるらしいし、昔ほど珍しいものではないのかもしれないが、それでもスタンガンで襲われるなんて経験早々あるものではない。

「どうだろうな。護身用のやつはそこまで電流は強くないから、当たりどころが悪かったのか、はたまた改造してたのか…いずれにせよ、人生で初めて意識を失ったよ」

 時間が経ったからなのか、なんてことはなかったのか、話の内容に比べて浅原の調子は随分と軽かった。まあ、こうして目の前にいる訳だし、大事には至ってないんだろうが…。

「普通ないだろそんな経験。…あれ?そういやいちごパフェまだ頼んでないよな。さては忘れられたか」

 俺はそう言うや否や再度呼び出しボタンを押した。何だかその話をしたのが随分遠くに感じられる。浅原の話は回を重ねる毎に没入感が増していた。まるで直接脳を揺さぶられるような感覚。

 浸り過ぎて、いつのまにか周りの喧騒が収まっている気すらしている。

 浅原はすぐうしろにあるドリンクバーで飲み物を補充すると、それを一気に飲み干した。あれだけ喋り続けているのに、浅原の声は最初と変わらず澄んでよく響いた。

「よし、続きを話そう」

 この段階で既にツッコミどころは満載で、話が誇張されている気がしてならない。それに、未だに浅原が俺を呼んだ理由もよくわからなかった。

浅原はただ愚痴を聞かせるためだけに俺を呼んだのか?それとも、何か頼み事があるからこんな話をしているのか?

 その回答を得るために、俺は三度浅原の物語へ潜っていった。

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