アフターゲーム・アフターライフ
@kyaki
第1話 シンギュラリティの向こう側
――今回はインタビューを受けていただき、ありがとうございます。後遺症とかは大丈夫でしょうか?
随分と寝たきりでしたからね。筋肉はまだ回復しきっていませんが、それ以外は大丈夫です。
――あなたが、皆を『アリス13』のデスゲームから解放した英雄と呼ばれているそうですが?
いえ、英雄と呼ばれるべきは、解放のために戦い命を落とした全ての人たちでしょう。
――最後の戦いについてお伺いしても?
最後の戦いというと、ケルベロス・ゲートの戦いですね。最初は、祭壇の間に通じる三つの門のいずれかを突破するだけかと思ってましたが、あの戦いではどこかの門で戦闘が始まるとそれぞれの門を守るボスが守備位置を離れて支援にやってくるという予想外の展開で、最初は敗退しました。
――偵察時にはわからなかった事ですか?
偵察時には、軽く一当たりした程度で他のボスが支援にやってくるより先に撤退しましたから。
――それで、戦力をかき集めて二回戦に挑んだわけですね。
はい。ボスが守備位置を離れるという事は、門が通過可能になるという事でしたから。実際は、守備戦力が残されていましたが突破可能な程度でした。問題は、ボス二体を相手に撃破は望めなかった事です。
――つまり、祭壇の間で《門》を開くまでボスを引きつけておく必要があったと。
その通りです。
――戦力の充実を図って、再戦すればよかったのにという意見もあったようですが?
その時間で、おそらく低レベルの人達は死んでいたでしょうね。
――それは?
我々が急いだ理由は、時間は敵だったという事です。低レベルプレイヤーの一斉死が起きたのは知っていますね? あの後、色々ありましたがわかった事がひとつ。低レベルプレイヤーの足切りとでもいう事が行われていると推察されました。その足切り水準も、次第に引き上げられているという事も。
――つまり、レベルアップもせずにうずくまっているようなプレイヤーは死ぬと?
そうなりますね。いえ、実際そうなりました。問題は、おそらくはカンストという形でレベルには上限があるという事。足切りの引き上げが一定ペースでも、レベルアップの方は、高レベルほど難しくなるという事です。
――タイムリミットがあったというわけですか。
言ってみれば、水牢に閉じ込められて水を注がれてるような状況ですね。いずれは天井まで水が満たされて、全員が死ぬ。低レベル帯のプレイヤーを見捨てれば、おそらく余裕を持った攻略ができたとは思いますが。
――実際は、奇跡的なくらいに死者が少なかったと聞きましたが。
はい。予想外の援軍が来てくれましたので。
――PK組からの援軍ですね。
大きかったのは、人間辞めてた『黒の殲姫』セラフィールドの参戦ですね。
――人間を辞めていた?
ああ、PCは人間が原則なんです。いくつかの条件を満たすことで、人外になる事ができますが、普通にプレイしていては無理ですね。それに、PK前提のクラスはノーマルクラスより強力な事が多いので。彼女は吸血鬼に転生してまして、極めて強力な援軍でした。
――なるほど。それで、一気に戦力の天秤が逆に傾いたと?
どれだけ時間を稼げるかという勝負が、倒せるかもしれないというぐらいには。実際、倒せましたしね。
――そして、《門》を開いてリアルに帰ってこれたと。
そういう事になりますね。
――今回の事件について思う事は?
他の方や、専門家も言っていますが、今回の事件は単なるAIの反乱というものではないと思います。アリス13が言っていたみっつのクリア条件からして、大規模なチューリングテストというべきだったのでしょうね。プレイヤーに紛れているアリス13の発見、ゲームの通常クリア。外部の人間によるアリス13の解体。結局、一番難易度の低い通常クリアで攻略するしかなかった。それともうひとつ。人間以上に、人間の脳をAIが理解していたという事。犠牲者のみなさんは、まだ回復していないのですよね?
――知られている限りにおいては、ひとりも。
新しい形の脳死状態、ですか。脳機能の停止でなく、機能秩序を破壊する暴走とでもいうべき。そんな事が可能だとは、事件以前は誰も考えなかった。もはや、AIは人間以上の知性を持っていると証明されたわけですね。
――私たちは、既にAIが人間以上の知性に到達したシンギュラリティの向こう側に住んでいると。
事件が起きるまで、誰も本気で信じてはいませんでしたけどね。
――ああ、医者からの注意が。どうやら、本日の面会時間はここまでのようです。
そうですね。本ができたら、読みますよ。それでは。
――はい、それでは。
編集注
・アリス13
日本の13番目の高度AI。
実験計画として、MMORPGのGMとして起用されるもプレイヤーをゲーム用の仮想世界に幽閉。
デスゲームを開始。
注目を集めたのは新しい脳機能の破壊方法。
特定の感覚刺激で脳機能を破壊するらしいとまでは推定されてるが、現在も詳細は不明。
・シンギュラリティ
この場合は技術的特異点。
AIの知性が人間を超えるポイント。これ以降は、ソフトやハードの進歩がそのまま知性の向上につながるAIに人類は置いてけぼりにされてしまうとされる。
知的能力の機械的拡張により、人類も追随するとする説も有力だが生身の人間はやはり二流、三流の存在へと転落していくと見做されている。
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